「給付型奨学金の拡充が急務」は本当か? 奨学生としていま改めて日本の奨学金制度を考える
Finasee / 2024年10月28日 18時0分
Finasee(フィナシー)
日本の奨学金制度は、学生にとって学業を支える重要な手段だが、その実態には多くの課題がある。特に、貸与型が中心であることや情報の不透明さが、学生にとって負担となり、学業や将来のキャリアに大きな影響を与えていると言われている。
筆者自身も奨学生であることから、今回は、自身の経験もふまえ奨学金制度に関して3つの視点で掘り下げていく。
1. 貸与型奨学金について思うこと日本の奨学金制度の最大の問題は、貸与型が主流であることだろう。これは、実質的には「借金」であり、学生は卒業と同時に数百万の負債を抱えることになる。キャリアの選択肢が狭まる可能性もあり、特にリスクのある起業やフリーランスの道を選ぶことは、奨学金の返済を考えると非常に困難だ。
欧米諸国では、優秀な学生や経済的に困窮している学生に対して給付型奨学金が広く提供されており、学生が負債を抱えることなく学びに専念できる仕組みが整っている。日本でも、こうした給付型奨学金の拡充が急務である。貸与型奨学金が若者の将来に与える影響は大きく、返済のプレッシャーがキャリア選択の自由を奪うことは、社会全体にとってもマイナスだ。
というのが世の一般的な考え方であろう。
私は、学生の大半は奨学金を借りてまで大学に行く必要はないと考えている。社会に出たことがない身でこれを言い切るべきか定かでないが、大学と社会の一番の違いは「興味のある分野に関する学習のしやすさ」であろう。そのため、学問や研究に励むために大学に通う人が奨学金を借りることには賛成であるし、厳正な審査のもとで給付型の奨学金の拡充も図るべきだと考えている。
しかし、私は、多くの学生が大学に行く理由は将来への不安を払拭するためだと感じている。今の時代、良い企業に属さなくてもお金を稼ぐ手段は豊富にあるし、少し検索すれば大量の情報を得られる。これを言うと、正社員とフリーランスや起業では安定感が違うといった指摘がある。
だが、大学で勉強したくない、独立のための知識やスキルを習得するのもめんどくさい、このような人が仮に大学に進学したとして、私はその人が給付型の奨学金にふさわしいとは思えないし、卒業後の進路も期待できない。かといって、そのような人が貸与型の奨学金に対して不平不満を漏らしていたとして、それに耳を貸す者がいるのだろうか。
2. 奨学金の情報は世間で言われてれるほど不透明か奨学金制度のもう1つの大きな問題は、情報の不透明さだと言われている。奨学金に関する情報が十分に提供されておらず、学生が自分に最適な選択をするのが難しい状況が続いている。奨学金を申請する際に、どの奨学金が自分に最も適しているのか、返済の条件や利息について十分に理解できないことは大きな不安につながるからだろう。
この情報不足は、学生の将来的な返済計画にも影響を与える。例えば、返済が始まるタイミングや利息の発生条件について事前にしっかりと理解していなかった学生が、卒業後に思いがけない負担を抱えることが少なくない。
上記の記述に関して、私はあまり賛成できない。私自身も特殊な理由で奨学金を借りているため、これは実体験になるが、奨学金の手続きは非常に分かりやすい。確かに、自分で情報を収集したり、手続きに必要な提出物が多いことは大変である。しかし、運営からの指示は的確であるし、サイトだって使いやすい。その上、われわれ奨学生の多くにお金を貸している日本学生支援機構は民間団体ではない。奨学金の運用は税金でまかなわれるものであり、消費者金融のように簡単にお金を借りられる状態では国民は納得しないだろう。
これらの点を踏まえたうえでもう一度考えると、現在の奨学金に関する情報の透明度や手続きの労力といったものは妥当なのではないだろうか。
3. 奨学金という手段あまり大きな声では言えないが、奨学金の使い道は学費や生活費だけではない。奨学金の本来の使い道は学費や生活費の“補助”である。
しかし、私の周りを含め、近年の学生は奨学金を他の使い方で活用している。その代表例が投資である。奨学金は一度にまとまった金額を受け取るのではなく、毎月に分けて受け取るため、個別株でキャピタルゲインを得ることには不向きであるが、積立投資には有効な手段となる。
投資で奨学金を増やしてしまえば、奨学金を借りたのにも関わらず、実質お金をもらったことになる。
もちろん、奨学金のこのような活用は本来の趣旨とずれているため、万が一バレた時のことを考えると私はおすすめしない。
自分自身の選択に責任を持つ日本の奨学金制度には、まだ多くの課題が残されている。貸与型奨学金が主流であり、学生が卒業後に多額の負債を抱えることになる点は、将来的なキャリア選択に大きな制約を与えている。
さらに、奨学金の審査基準が厳しく、成績維持を求められる現行の制度は、アルバイトとの両立が困難な学生にとって大きな負担となっている。情報の不透明さも、学生にとって不安を増幅させる要因だ。
しかし、実際に奨学金を借りている身からすると、メディアなどで取り上げられるほどこの問題は大きくない。成績維持は学生にとって当たり前のことであり、周りの非奨学生がたいして勉強していないことを不平等だと感じているのであれば、それは間違っている。大学進学も奨学金の利用も、人生において必ずしなければならないことではない。それでも、その選択をしたのは私たち奨学生自身なのだから、自分の行動に責任も持たなければならない。
執筆/学生投資連合USIC 武藤藍星
学生投資連合USIC
全国33大学1100人以上で構成される日本最大の金融系学生団体。2008年の創設以来、「日本を学生から金融大国に」というビジョンのもと、学生の金融リテラシー向上に取り組んでいる。主な活動内容は、国内外の金融関係企業と合同で開催する勉強会・セミナーの運営、学生向け金融・投資のフリーペーパー「SPOCK」(累計発行部数24万部)の発行、全国の上場企業・大学生を巻き込んで行う「IRプレゼンコンテスト」の主催。近年は、メディアでの発信に注力するほか、制度面への働きかけを通じて、若年層の投資のしやすい環境づくりにも取り組んでいる。2024年現在、全国 33大学のサークル・約1100 名が加盟し、北は北海道、南は九州までのネットワークを有する、日本最大規模の金融系学生団体となっている。Xアカウントは@usic_spock。
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