実は富裕層が増えている!? 日銀、総務省アンケートから見る、日本の家計と経済の在り方とは
Finasee / 2024年10月24日 13時0分
Finasee(フィナシー)
前回の記事はこちら「どうなる、アメリカ大統領選挙 勝敗を分けるのは「スイング・ステート」の失業率か
今回は先週10月10日のニュースを手掛かりに、庶民感覚で日本経済論を語ってみたいと思います。
日本銀行の「生活意識に関するアンケート」が10月10日に出ました。3か月に1回郵送ベースで「物価が上がっていると思いますか」「1年前と比べてゆとりはあると思いますか」といった質問をもとに日本国民の家計について迫る調査です。
アンケートにある質問に対する回答から、いくつか面白いものをピックアップして作ってみたのが次の画像になります。
「家計の景況感」をまとめたもので、青い折れ線グラフは「1年前と比べて家計の景況感はよくなったか」についての回答を指数化したものです。
リーマンショックではグラフがぐっとマイナスになり、アベノミクスになると急回復しました。ただ、0には戻らなかった。
コロナでもまた落ち込みました。少し戻っていますが、アベノミクスの初期のころに比べるとそこまで手ごたえはありません。
ただ、将来には希望を持っているようです。赤い折れ線グラフは1年後の景況感を予想したものですが、青線より良い値を示しています。
次のグラフがこちらです。
家計の収入についての回答をグラフにしたものです。前年比を示す青線グラフ、1年後予想を示す赤線グラフ共にはっきりとよくなっています。今年はアンケート調査が始まって以来、一番良い結果でした。
日本人の見通しは悲観的ですが、その中でも賃金の上昇は、家計においてはプラスの方向に働きだしたことを示している。良いことだと思います。
ただ、支出で見ると、必ずしもプラスとは言えない実態がわかります。1年前と比べて支出が増えたと回答した人は多い。それを受けてか、1年後の予想では、支出はあまり増えておらず、財布のひもが固くなっていることがわかります。
次に家計の支出のタイプを見ていきましょう。
青線のグラフは日用品など日常的な支出を示しており、やはりプラスに転じている。一方で赤線のグラフで示される選択的な支出、つまり電化製品や車、旅行などに対する支出は「余裕はありません」ということで、低調のままです。なかなか重い腰が上がらない。
もう少し掘り下げ、別の角度から見てみましょう。次のグラフは総務省の家計調査のデータをもとにしたものです。
特に「二人以上の勤労者世帯の平均消費性向の長期推移」をまとめたものになります。平均消費性向とは、可処分所得に占める消費支出の割合を意味します。
お給料をもらっても税金、社会保険料で使えるお金が限られる。その使えるお金の中の何割を消費したかをまとめたものだと考えてもらうとよいでしょう。
たとえば、3月の学校シーズンだと消費性向は上がります。逆に6月12月はボーナスが出る。ですので、グラフは12か月で均しています。
2001年の結果を見てみましょう。20年前の我々は可処分所得の8割を消費に回していました。
しかしながら、アベノミクスが始まると、所得は増えるものの、消費はそれほど増えず生活のレベルは上がっていないことが見て取れる。手取りが20万から30万に上がったが生活にかける支出は15万円のままで変わっていない。そんな結果になっているのです。
コロナがダメ押しになりました。コロナ後のデータを見ると実に3分の2しか支出に回していない。リオープンしましたが、それでも支出に回すお金は増えていません。
ただ、先ほどお話ししたように日本は収入が増える傾向にあります。収入が増えているのに、支出が増えていないとなると、我が国の家計の貯蓄は増えていることになります。
さて、日銀のアンケートに戻りましょう。
「家計の見通しが成長する」「家計の見通しは成長しない」といった項目に関する回答をまとめたものです。赤の折れ線グラフは未来の日本の経済成長力が上がるか、下がるかを指数化したものとなっています。
マイナスで推移しており、先行きはあまり明るくないと考えている人が多いことを示す結果になりました。
しかしながら、青の折れ線グラフ(先行きの地価動向)はアベノミクスのところで上がり、近年も上昇基調にあります。つまりアベノミクスで起こったように土地の値段があがるはずだ。そう思っている人が増えていることを示唆する結果になっています。
つまり、貯蓄が増えると、マクロ的には株価や土地が上がる可能性があるかもしれない。そう考えることができるのではないでしょうか。
ポイントは「富裕層の消費性向は低い」ということです。つまり、先ほどの消費性向に関する結果を鑑みるに、「日本で富裕層が増えている」そう言えるのかもしれません。
私は学生時代に、貯蓄が増えると消費が減る、消費が減ると輸入が減るので相対的に輸出が増え貿易収支が黒字になり円高になる、そう経済学で学びました。
しかし、この図式はどうも違うかもしれない。貯蓄が増えることで、お金が外に出て、円安が進みやすくなるのではないか。そうなれば「資産立国」が実現できるかもしれない。
ただ、ISバランスを見ると必ずしも考えた通りには行かないかもしれません。「ISバランス」のISとはそれぞれI=investment、S=Savingを意味します。つまり、貯蓄と投資のバランスを示したものです。ISバランスで見ると日本は貯蓄が投資額を圧倒的に超過している傾向にあります。
果たして今後日本にはどのような未来がまっているのか。経済の面白い点は生物と同じように進化し続けていることです。アンケート調査、家計調査を見ても、いろいろな経済の進化や変化が見えてきますね。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任
マーケット・アナライズ編集部
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