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冗談じゃない…地主一家の相続で起きた家族の分断、全財産を要求する“疫病神”の正体とは

Finasee / 2024年10月29日 17時0分

冗談じゃない…地主一家の相続で起きた家族の分断、全財産を要求する“疫病神”の正体とは

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

千葉県在住の向後高徳さん(仮名・50代男性)は地主の家の出身で、3人きょうだいの次男です。先代の父親は唯一の後継者に長男を指名し、父親の死後は長男が全財産を承継しました。

長男がすべての遺産を承継すること自体は以前から決まっており、家族間で“骨肉の争い”が起きることはありませんでした。

しかし、その兄が生涯独身を貫いたまま3年前に急逝。ここからすべての歯車が狂い始めます。

●前編:【地主一家に起きた想定外の相続トラブル…すべての歯車を狂わせた「唯一の後継者」の急逝】

後継者としてすべてを受け継いだ兄が急逝

私は代々続く地主の家に、男ばかりの3人きょうだいの次男として生まれました。私たちの父は質実剛健を好む一方、昔かたぎの頑固な人で、幼い頃から「家業は兄に継がせる、自分の全財産は兄に相続させる」と決めていました。

実際、8年ほど前に父が急死した後は、兄が家業と父の財産を引き継ぎました。父にすれば誤算だったのは、それから5年後に兄も父と同じ急性心疾患で命を落としたことでしょう。

兄には家族がいませんでした。20代の頃に父から恋人との結婚を反対され、仲を引き裂かれて以降、見合い話には耳も傾けず独身を貫いてきたからです。

80代後半の母と私、そして弟が残されたのです。

その中で、当面は私が業務を引き継ぐことになりました。何代も前から取引のあった工務店に婿養子に入った気楽な身分だったからです。弟は高校の教師で担任も持っており、年度の途中で辞めるわけにはいかない事情もありました。

もっとも、家業の方は長年お世話になっている不動産屋や税理士事務所のサポートもあり、さほど慌てふためくことはなかったのです。

むしろ大変なのは、兄の相続の方でした。

母親の成年後見人が全財産の承継を主張

配偶者や子供のいない兄の相続人は母となり、私や弟は相続権を持たないことは、恥ずかしながら、その時に初めて知りました。

それでも、これからは私や弟が家業を引き継いでいくわけですから、幾ばくかの財産は受け取れるものと楽観視していました。

そんな甘い考えを引き裂いたのが、母の成年後見人となった弁護士でした。

兄が亡くなった時、母はアルツハイマー型認知症で施設に入居していました。相続に当たり、判断能力がないと見なされた母は成年後見人をつけることになったのです。

家庭裁判所に後見人の申請をしてから後見人が選任されるまで4カ月近くもかかり、相続税の申告期限まで10カ月しかない中で相当イライラさせられました。

ようやく選任されたのは隣の市に事務所を置く弁護士でした。ベテランで後見人の経験も豊富ということで胸をなで下ろしましたが、これがまた、とんでもない輩だったのです。

兄が遺言書を残していませんでした。それをいいことに、後見人はなんと母への全財産の承継を主張してきました。これには私たちも口あんぐりでした。

親子間の相続だったら「遺留分」という最低限の取り分が保証されるのですが、きょうだいには遺留分はありません。そもそも相続人でもない私と弟は法的には無力でした。

家業にも関わることなので税理士が粘り強く交渉してくれましたが、色よい返事はもらえず、兄の財産は母名義に書き換えられました。

「冗談じゃねぇよ。何考えてんだよ」

相続の手続きが終わった後、弟が吐き出すように言いました。無理もありません。後見人には家庭裁判所が定めた月額5万円以上の報酬に加え、遺産分割協議などの付加報酬まで払わされるのに、この仕打ちなのですから。

しかし、後見人とのトラブルはそれだけで終わりませんでした。

成年後見人が生んだ親子の分断

都心の不動産投資ブームが私の住むエリアにも波及し、わが家の所有する土地や物件を売ってくれないかと声がかかるようになりました。

税理士も母の相続を見据えて売却を前向きに検討した方がいいと背中を押してくれましたが、またしてもそこに立ちふさがったのが件の後見人でした。私たちきょうだいが勝手に不動産を処分することはまかりならぬ、というのです。

「奥さんを経済的に擁護する立場にあるのは分かりますが、実務を担うお子さんたちへの配慮が全くない。これでは相続税対策もできません。私たちの敵ですよ、あの人は」

温厚な税理士もさすがに腹に据えかねたらしく、最近は後見人への敵対的な言葉が目立つようになりました。

それは私や弟も同じです。そして、やり場のない怒りはいつの間にか、全く罪のない母にも向けられるようになっていました。

そんな私の心の変化に、妻はうすうす気付いていたのでしょう。今年の秋の彼岸、父と兄の墓参りを済ませた後に立ち寄った喫茶店でこんなふうに言われました。

「お義母さんが亡くなったら、財産を自由にできるようになるわけでしょ? 今みたいな状態が続くと、あなたたちきょうだいがお義母さんに長生きしてほしいって思えなくなるんじゃないかと心配してる」

妻なりに私と弟を配慮しての言葉だったのでしょうが、的を射ていて返答に詰まりました。実際、母が亡くなればあんな後見人に干渉されずに済むのにと感じたことがゼロではなかったからです。

気が付けば、施設の母を見舞う機会もめっきり減っていました。

母は来年の春、88歳の米寿を迎えます。日本人の女性の平均寿命(87.14歳)を超えたばかりですが、内臓や足腰は健康でアルツハイマー型認知症以外には持病もなく、90歳を超えて生きてくれるのではないかと思います。

しかし、それを素直に喜べない自分にいら立ちを禁じ得ない昨今です。親子の分断をもたらしたあの後見人は、わが家にとっては疫病神以外の何物でもありません。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。

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