トランプ共和党大統領誕生と、世界株式相場上昇への期待
Finasee / 2024年10月22日 18時0分
Finasee(フィナシー)
11月5日の米国大統領選挙について、賭けサイトなどでトランプ大統領誕生の確率が上がっている。政策的には相当大きな変更となる可能性がある。金融市場でもトランプ大統領誕生に備えた動きが出ている。金融市場に大きな影響を与える重要なポイントについて、トランプ大統領誕生に備えて、ハリス候補の政策とも対比しつつ整理しておこう。
税制はトランプとハリスで大きく異なる。トランプは2025年に期限が来る大型減税の延長と法人税率を21%から15%に引き下げることを主張する。ハリスは2025年に期限が来る大型減税の廃止、法人税率は21%から28%に上げることを主張する。
トランプは大統領だった時代に規制を1つ作ると2つ廃止する法案を成立させた。この法案はバイデン大統領が廃止した。今回、トランプは規制のコストを明確に計測して規制緩和をもっと推し進める意思を示している。トランプが「偉大なコストカッター」と称賛するイーロン・マスクが「政府効率化委員会」トップに就任して陣頭指揮をするとみられている。従来よりもバージョンアップし新しい規制を1つ作ると10廃止する意向を示している。
(3)エネルギー政策
トランプは再びパリ協定から離脱する方向性を示す。ただし、国際的にビジネスを展開する大企業は国際ルールに縛られるため、恩恵を受けるのは米国内の中小企業だけにとどまる可能性が高い。そして、アラスカなどでエネルギーの採掘を進めエネルギーコストを1/2にすることを公約とする。
(4)ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)
関税収入などを原資に250兆円規模のSWFを創設する意向を示す。トップにはヘッジファンドで有名なジョン・ポールソンが就任することが取り沙汰されている。米国の国際戦略をより明確に示すことになる可能性がある。
(5)移民
不法移民を本国に送り返す意向を示してはいる。しかし、トランプは大統領第一期目に300万人を送り返すことを公約としていたが、実際にはほとんど実現していない。今回も、急激な労働者不足になることを懸念するほどではないだろう。
(6)戦争
中東について、イスラエルがイランの核関連施設を攻撃することを主張はしている。ただ、大統領の時代にはボルトン大統領補佐官の進言を退け、イランを攻撃しなかった実績がある。また、大統領の時代にトランプは、北朝鮮と国交正常化を進める前に空母打撃群を北朝鮮に派遣した実績がある。当時のメディアは、戦争の準備だとして批判的に報道したが、実際は戦争を避ける交渉のための派遣だった。イランとの間で急激に緊張が高まるとまで見る必要はないだろう。
東欧については、トランプはすぐにロシア・ウクライナ戦争を止めさせる意向を示す。両国や国際社会には厭戦気分があるため、実現する可能性はあるだろう。復興需要に対する思惑が再び高まる可能性はあるだろう。
(7)関税
トランプは中国向けには60%など大幅な引き上げ、全世界に対し10-20%の関税をかける意向を示している。中国向けは今後のさまざまな交渉に向けた材料であり、中国の出方次第では大幅に引き上げられる可能性はある。全世界向けは、2016年の大統領議会選挙で共和党が国境調整税の導入を公約とした時と同じで、ドル高になって効果は相殺され、実体的な効果はほとんどなくなるという見立てが多い。
以上、主要な論点を見た。株式市場には「トランプ・ラリー*」待望論がある。ただし、仮にトランプ大統領が誕生しても、議会の両院との組み合わせで、政策は大きく制約されることにも留意が必要だ。
なお、日本の総選挙では、政策はそっちのけで政治と金に争点が集中している。日本が世界から置いて行かれるリスクに留意することが得策だろう。(脱稿10月21日)
*「トランプ・ラリー」:2016年11月の米国の大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利をきっかけに、世界の株式相場が上昇基調となったことを指す。
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黒瀬 浩一/りそなアセットマネジメント チーフ・エコノミスト/チーフ・ストラテジスト
1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からはNewsPicksプロピッカーとして「THE UPDATE」などに出演中。
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