【本日上場】初値は1630円の「東京メトロ」株。“配当狙い”の投資家の心をつかむ一方…“安泰”とも言い切れない「懸念材料」
Finasee / 2024年10月23日 13時40分
Finasee(フィナシー)
6年ぶりの大型IPO案件は期待できる?
東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の株式が上場されました。初値は1630円。公開価格が1株1200円だったので、上場初日始値は、それを35.83%上回る順調な滑り出しとなりました。
東京地下鉄は、東京23区の地下鉄を運営する目的で1941年に設立されました。設立当初の社名は「帝都高速度交通営団」です。営団は官民共同出資による組織形態で、設立当初は官民共同出資の形態をとっていましたが、1951年に民間資本が排除され、日本政府が53.4%、東京都が46.6%の比率で出資する形になりました。
その後、持株比率はそのままで2004年に民営化され、社名を現在の東京地下鉄株式会社に変更して現在に至っています。
そして、民営化から20年を経て今回の株式上場となりました。
今回の株式上場によって、発行済株式の保有割合は、日本政府が26.7%、東京都が23.3%に、それぞれ半減されます。それでも日本政府と東京都を合わせて50%の持株比率を維持したのは、有楽町線と南北線の延伸を支援するためとされています。ちなみに今回の上場による売出総額は3486億円で、公開価格に基づいて計算された時価総額は約7000億円になります。
まぎらわしい!? 「仮条件」「公開価格」「初値」は何が違う?ところで株式の上場には複数の株価が存在します。具体的には「仮条件」、「公開価格」、「初値」です。混乱しやすいので簡単にまとめておきましょう。
まず仮条件ですが、東京地下鉄の場合は1100~1200円でした。新規上場株を手にするには、まず抽選に申し込まなければなりません。この時、「私はいくらで申し込む」ことを決めるのですが、その際の株価を仮条件の範囲で決めて申し込みます。
抽選が終わると公開価格と抽選結果が決まります。東京地下鉄だと公開価格は1200円ですから、当選した人は1株1200円で買えます。証券会社に購入代金を払い込んだら、あとは上場初日を待つだけです。
売上がコロナ禍前の水準まで回復していない現実も…株式に投資する以上、気になるのは現在、東京地下鉄が置かれている事業環境と、それに伴う業績推移でしょう。
これは東京地下鉄のサイトに掲載されているので、それを参考にしてみましょう。「企業情報」のなかに「財務情報」という項目があります。そこに決算報告書や有価証券報告書が掲載されており、過去の貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を見ることができます。
直近は第20期(2024年3月)決算になります。いくつか重要と思われる項目を見ていきましょう。
まず業績推移です。第20期の有価証券報告書には、2020年3月期から2024年3月期までの5期分の連結決算数字が掲載されています。
それによると、2020年3月期の営業収益(売上に該当します)は4331億4700万円。その後、コロナ禍による移動制限が行われた結果、翌年2021年3月期の営業収益は2957億2900万円まで落ち込みました。ちなみに同決算年度における経常損益は、476億8900万円の赤字。人流の制限が、東京地下鉄の業績にとって大きな影響を及ぼすことが見てとれます。
そして2024年3月期の営業収益は、3892億6700万円まで回復しています。経常損益も658億6600万円まで回復していますが、この時点において営業収益が、コロナ禍前の2020年3月期のそれを上回っていません。経済活動そのものは正常化したものの、東京地下鉄の売上自体は、まだコロナ禍前の水準まで回復していないのが現実です。
なぜ営業収益がコロナ禍前の水準に戻らないのでしょうか。人流についてはポジティブな材料とネガティブな材料があります。
ポジティブな材料は、やはりインバウンド観光客の増加でしょう。訪日外客数を年別に見ると、
2019年・・・・・・3188万2049人
2020年・・・・・・411万5828人
2021年・・・・・・24万5862人
2022年・・・・・・383万2110人
2023年・・・・・・2506万6350人
2024年・・・・・・2107万5024人(7月末時点)
2024年については7月時点で毎月平均約300万人が日本を訪れているので、残り5カ月間を平均値で見れば、ここから1500万人を積み増す可能性があります。すると、2024年の訪日外客数は推計3600万人を超え、コロナ禍前の2019年の数を大きく上回り、統計を取り始めて最高値になることが期待されます。
ただし、すべてのインバウンド観光客が東京メトロを移動手段に選ぶとは限りません。東京は通過点に過ぎず、地方に向かう観光客も大勢いるでしょう。インバウンド観光客の増加は東京地下鉄にとってポジティブな材料ですが、全員が東京メトロを頻繁に使うとは限らない点には、留意しておく必要があります。
一方、ネガティブな材料は、コロナ禍の影響で、特に都心で働くビジネスパースンに行動変容が生じている可能性があることです。一時期に比べてテレワーカーの割合が減ったとはいえ、その水準はコロナ禍前に比べてかなり高い水準にあります。
国土交通省が行っている「テレワーク人口実態調査」の令和5年版によると、雇用型就業者のうちテレワークをしたことのある「雇用型テレワーカー」の割合は、42.3%でピークをつけた2021年に比べれば低下したものの、それでも2023年で38.1%もあります。テレワークの定着は、公共交通機関の売上にとってはネガティブ材料であり、これは東京地下鉄にとっても例外ではありません。
当面、インバウンド観光客増というポジティブ材料と、テレワーク定着に伴う通勤客減というネガティブ材料の綱引きが、東京地下鉄の営業収益に影響を及ぼすことになりそうです。
投資家からの熱視線は、「配当利回り」によるもの?ブルームバーグ通信の記事によると、売出割当数に対する需要は、海外投資家が35倍強、国内個人投資家が10倍強、国内機関投資家が20倍強でした。上場前の人気はかなりのものと考えることができます。
人気の背景にあるのは、配当利回りでしょう。2025年3月期の配当は1株40円ですから、公開価格に対する配当利回りは3.3%になります。
また、鉄道会社というと国内需要が中心であり、日本のように人口が減少傾向にある国では、内需関連はどうしても業績面で「弱い」と見られがちです。
ただ、東京地下鉄の場合、いくつかの点で成長ストーリーを描くことができます。
まずインバウンド需要の高まりです。政府目標としては、2030年までに訪日外客数6000万人が打ち出されています。現在の倍の数字です。目標値なので達成できるかどうかは不明ですが、実現した時の業績面へのプラス効果は高いと考えられます。
また不動産事業領域の拡大として、データセンターや物流施設、インバウンド対応のホテルなどへの参画を検討していますし、技術コンサルティング、鉄道運営の研修、鉄道運行管理など海外鉄道ビジネスへの取り組みも推進すると、中期経営計画に示されています。
前述したように、鉄道ビジネスは基本的に内需産業ですが、インバウンド需要の取り込み、海外鉄道ビジネスの取り組み次第では、成長ビジネスに化ける可能性もあり、注目したいところです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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