ネット証券主要5社に“食い込む”勢い…NISA口座数を伸ばすPayPay証券が快進撃を見せるワケ
Finasee / 2024年10月28日 12時0分
Finasee(フィナシー)
今年1月から始まった新NISA。PayPay証券が、その口座数を目覚ましい勢いで伸ばしていると注目を浴びている。
SBI証券、楽天証券、マネックス証券、auカブコム証券、松井証券の5社が「5大インターネット証券」「ネット証券主要5社」と長らく呼ばれてきたが、NISA口座数でいえば、その一角に食い込む勢いだ※1。しかも特徴的なのは、NISA口座のうち新たにNISA口座を開設したユーザーの割合が95%以上、つまり「投資デビュー組」からあつい支持を受けている点だ。
新NISA開始で強さを発揮している理由、これから先の成長ストーリーをどのように描いているのか――代表取締役社長執行役員CEOの番所健児氏に話を聞いた。
※1 楽天証券、SBI証券、auカブコム証券の3社は、決算資料にてNISA口座数が確認できる。それによれば、2024年6月時点で、楽天証券は552万口座、SBI証券は504万口座、 auカブコム証券は27.6万口座。PayPay証券は同時点で30.6万口座。
さらに総合口座数で見ると、2024年6月時点で、SBI証券(SBIネオトレード証券、FOLIOを含む)は1293.6万口座、楽天証券は1133万口座、マネックス証券は262.7万口座で、auカブコム証券は173.1万口座、松井証券は157.4万口座であるなか、PayPay証券は117.7万口座である。
――PayPay証券の歩みの始まりは、2016年にサービスを開始した日本初のスマホ証券「One Tap BUY」からだと思います。その頃から今までを振り返って、大きかったといえる出来事は何でしょうか。
番所氏(以下、番所) 一番大きかったのは、商号を「One Tap BUY」から「PayPay証券」に変更したことだと思います。
One Tap BUYは2016年前後のフィンテックブームの中で誕生しました。誰でも手軽に資産運用できる環境を提供するため、最低取引単位を1単元ではなく1000円にするなど非常にユニークなサービスを提供してきました。
こうしたなかで2021年にPayPay証券に商号変更をしたのですが、ソフトバンクグループの金融事業として、キャッシュレス決済アプリPayPayを中心に金融のエコシステムをつくっていく――その一翼を担うという意味において、商号変更は自然の流れでしたし、PayPayの認知度は非常に高く、ユーザーの満足度も高いので、われわれのブランド戦略において、有利に働いています。
番所健児氏――2024年からNISA口座への対応を始めたことも、大きかったのではないでしょうか。
番所 確かにそうですね。One Tap BUYは1000円から株式に投資できる小口取引をウリにしていたのですが、これだと旧制度のNISAでは対応していなかったため、NISA口座への対応は見送ってきました。
しかし、NISAの制度見直しが行われた結果、生涯非課税枠が1800万円に引き上げられたことで、誰もが証券口座を持つ世の中になると判断しました。これがNISA口座の開設に対応した一番の理由です。
また、「PayPay資産運用※2」を立ち上げるなど、PayPayとの連携を強めていくなかで、株式の売買といったフロー取引を中心としたビジネスモデルではなく、投資信託の「長期」・「分散」・「積み立て」を前提としたユーザーと長期的な関係を築いていくことを指向するようになりました。こうした関係を構築していくうえで、やはりユーザーの長期的な資産形成に資するサービスは重要なので、それもNISA口座の開設に対応した理由のひとつです。
※2 PayPayアプリ内でシームレスに証券口座の開設や資産運用ができるミニアプリ。
――ユニークなのが投資信託の取扱本数を130本(2024年10月時点)に絞っている点ではないでしょうか。これはなぜですか。
番所 新NISAをきっかけにして初めて投資をする人は多いと思うのですが、そうした方々にとって必要なサービス、受け入れられるサービスは何かというところから考えています。
そうしたときに、他の大手証券会社のように、数千本もの投資信託をそろえることが、投資初心者にとって本当に必要なのかという点を重視した結果です。
インターネットで証券取引の利便性が高まったと言われてはいるものの、正直なところ、証券取引口座を開設して入金し、実際に取引を始めるまでのハードルは、特に初心者にとって決して低いものではありません。おそらく取引画面を開いたところで、何をどうすればいいのか、何を買えばいいのか、ということすら分からないというのが、本音ではないでしょうか。
だからこそ私たちは、ユーザー・インターフェイスをできるだけ簡単なものにするのと同時に、投資信託など取扱商品の本数もできるだけそぎ落として、この本数になっています。
――130本の選定基準を教えてください。
番所 日本国内で設定・運用されている公募投信の本数は、全部で6000本近くあるのですが、これらをカテゴリー分類すると、十数種類まで絞り込まれます。
さらに、そのカテゴリーの中から、投資家から支持され、売れ行きの良いファンドをピックアップしています。
130本もあれば、投信全体の純資産総額の大部分をカバーできている実態もあります。
――今後のラインアップ戦略はどのような方向で考えていますか。
私たちが最も大事にするべきはお客さまの声ですから、もう少し他のファンドとも比べたいという声が増えてくれば、130本よりも増える可能性はあります。
ただ現状は、130本でも多すぎて選べないという意見も少なくありません。
最近「PayPayおまかせ運用」というサービスをローンチしたのですが、多くの反響をいただいています。これは、「収益を重視」「安定を重視」の二択から方針を選ぶというもので、おそらく日本で一番簡単に積立投資が始められるサービスではないかと自負しています。多くの反響に大きな手ごたえを感じている半面、まだまだ「投信を選ぶ」という部分に障壁があることを痛感しています。このようにムダをそぎ落として、届けかたを工夫してお客様のニーズに応えていくのも1つの重要な方向性だと考えています。
――インターネット証券業界全体に目を移すと、証券会社の背後には「ポイント経済圏」があって、その経済圏でしのぎを削る、といった様相を呈しています。多くの経済圏がひしめくなかで、「PayPay経済圏」に属していることのメリットは何ですか。
番所 確かに証券会社単体で戦う時代ではなく、サービスの総合力で戦っていく時代だと思います。
そして、PayPay経済圏は証券サービスを展開するうえで、“一丁目一番地”を押さえている点が強みだと考えています。
PayPayが提供しているのはなんといっても「キャッシュレス決済サービス」。プラットフォーマーとしての強さがあると考えています。多くの人が毎日使っていて、日常生活に溶け込んでいます。
そうした決済インフラに証券ビジネスを乗せれば、これまで投資とは無縁の生活をしてきた人に対して、非常に親和性の高いサービスを提供できると思います。
――今年1月からスタートしたばかりにもかかわらず、NISA口座数が大手インターネット証券会社の一角に食い込んできています。好調の背景をどう考えていますか。
番所 やはり初心者でも分かりやすく口座を開設でき、投資信託を購入できる点が評価されているのだと思います。もっといえば、既存のインターネット証券会社ですくいきれていなかったニーズに応えられたためだと考えています。
たとえば口座開設の申請に要する時間は、すでにPayPayアプリで本人確認を完了していれば、およそ3分です。投資の知識がなくても、簡単な手続きで口座を開設でき、その後どう投信を購入すればいいのか、できるだけ迷わないように工夫してきた点が評価されたのだと見ています。
――これまで投資に二の足を踏んできた人に寄り添うことは「貯蓄から投資へ」の流れで見れば、マッチしていると思います。一方で、そうしたユーザーの多くはおそらく低コストインデックスファンドの少額積立投資を選択するでしょう。その結果、 “薄利多売”のビジネスに陥らざるをえないのではないかと思います。実際、ディスクロージャー資料によれば赤字が続いていますが、黒字化の見通しをどのように考えていますか。
番所 私たちのビジネスモデルが、既存の証券会社とは一線を画していることをあらためて伝えたいと思います。株式の売買手数料、投資信託の購入時手数料、信用取引の金利収入といったフロー性収益には依存せず、あくまでも投資信託の残高を積み上げることで得られるストック性収益の増加を重視しています。そして、そのためにはお客さまとの長期的な関係を構築することが大事です。
一方、コストについては最小限に抑える努力をしています。店舗は構えていませんし、PayPayアプリ上からの送客もあることからマーケティング費用も抑えられています。システムは内製なので、その点でも運用コストは抑えられていると思います。
ここまでサービス開発に専念してきたので、その開発コストが先行してきましたが、数年以内の黒字転換も見えてきています。ここから先は、スケールメリットが収益面にも反映されてくると考えています。
――NISAがスタンダードな存在になる流れで、今後どのようなサービスを展開されていくのか引き続き注目したいと思います。ありがとうございました。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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