「なんで今まで教えてくれなかったんだ!」確定拠出年金に無関心だった同僚が目覚めた“資産残高の差”が生まれる理由
Finasee / 2024年10月31日 12時0分
Finasee(フィナシー)
確定拠出年金の出口「60歳」で“資産残高が高い人”に共通するある理由
確定拠出年金(DC)では、「投資教育」が重要といわれています。それまで運用に縁のなかった人が、制度を通して「運用」を経験することになるためです。
特に企業型DCでは、企業(事業主)が制度の実施を決め、運用目標ともいえる想定利回りも決定することから、事業主には投資教育義務(努力義務)が課されています。
DCは金融リテラシーを高める?企業型DCの投資教育は、制度導入時にはほぼ100%実施されますが、導入後の継続教育対応には濃淡があります。集合研修を定期的に実施する事業主がある一方、資料配布のみにとどめる事業主もあるなど千差万別です。
そんななか、DC経験は「未経験よりも金融面でプラスの効果がある」ことがわかりました(※1)。60~64歳を対象にしたアンケート調査のなかで、DC経験者は金融クイズで高得点になる傾向がありました。
金融に関する簡単な10の質問への回答で、正解が8個以上の人がDC経験者では41%である一方、未経験者は17%となっています。保有資産ごとに区切ってみても、同じ傾向がみられました。DCを通じて提供される投資教育には一定の意味合いがある、といえます。
さらに、DCの投資教育の影響度合いが大きい人(投資教育内容を覚えている数が多い)ほど、60歳時点のDC資産残高が高い、という結果になっています。DC制度を活用した人は老後資産形成ができている、という事実は制度運営を担う運営管理機関として非常に喜ばしいことです。
※1 野村総合研究所「確定拠出年金出口調査2023」
無関心層と二極化の発生一方で、DC投資教育を提供する側として感じる課題は、常に存在します。一つは無関心層の存在と二極化の発生で、もう一つが「(内容は)わかった」けれど、「行動に結びつきにくい」ということです。
「制度に対する加入者の無関心」を一番の悩みに挙げる企業型DC担当者は26.9%を占めています(※2)。無関心層への対応は、多くの事業主の悩みの種といえるでしょう。
元本確保型への配分割合別に加入者を棒グラフにすると、100%と0%の両極端に高い棒がみられます(野村證券受託の加入者。毎月の掛金配分ではこの傾向がより顕著になる)。ここ数年の株式市場の好調さから、元本確保型のみにしている人と、投資信託のみにしている人では、資産残高に相当の開きが発生しています。
元本確保型のみにしている人が、強い意思で選択しているのであれば、まさに自己責任ですが、「わからないから」「教えてもらってないから」というケースも想定されます。
継続教育を実施するなかで印象に残ったエピソードが二つあります。
A社は、リーマンショック後からアベノミクスに向かう間、毎年、定期的に継続教育を実施していました。就業時間内に数回に分けて、受講必須での展開です。
30代の女性から「毎年、受講してきたけれど、3回目にしてやっとわかった」と言われました。3回目ともなると受講者の知識レベルに幅が出てきて、アンケートでは「似たような内容を繰り返しても意味がない」という反応もありました。しかし、興味がない人・関心が薄い人には繰り返し開催し、参加する機会を作り続けることが重要だと感じました。
B社の場合は、就業時間外で対面セミナーを実施してきました。仕事の終わった後の時間なので、どうしても「興味がある人」が参加することになります。その日は、帰ろうとしていたところに、たまたま帰宅時間が一緒になった同僚に誘われて参加した人がいました。
一とおりの説明が終わって、雑談ベースの質疑応答の時間に「なんで今まで教えてくれなかったんだ!」という声がしました。ご自身と同僚の資産残高の差を確認し、愕然としたのです。
どちらのケースも、定期的な開催が「わかった」につながったと考えられます。DC継続教育は定期的に発生するイベントとして、社員に浸透させることが重要といえそうです。
たとえば、4月の新入社員の時期には必ずDC説明会を実施し、既存の加入者も参加できるような設定にするという方法などです。
※2 特定非営利活動法人 確定拠出年金教育協会(NPO法人DC iDeCo協会)「2023企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査に関する調査結果」
WEBサイトへの道筋をつけておくことが重要行動に結びつけるためには、自分ごととして捉えられるような工夫が必要です。たとえば、加入者全体の運用利回りの分布を示して、自分自身が全体のどの位置にいるのか、を認識してもらいます。まわりの人と自分の運用結果が比較できると、興味を持って聞いてもらえるようです。
さらに、運用利回りの違いがどれほどの金額差につながるのかを数字で示します。毎月1万円を40年間積立投資し、利回り5%だった場合は1500万円を超えますが、定期預金(適用金利0.2%)では500万円にしかなりません。
意識づけができたら、すぐに行動に移せるようにWEBサイトへのアクセスを促します。DC加入者がWEBサイトにアクセスするためには、口座番号とパスワードが必要です。そのため、事業主(DC教育担当者)の方には、説明と同時(もしくは前もって)に口座番号やパスワードがわかる体制を整えていただくことが不可欠です。
iDeCoセミナーも増加傾向投資教育の存在に気づき、活用した人は、冒頭のアンケート結果のようにDCが老後資産形成に役立っているようです。
企業型DCと比較すると、iDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)では投資教育の機会は多くないようです。ただ、最近ではNISAの定着とともに「iDeCoとNISA」などのテーマでのセミナーが増えています。
金融機関ではFP(ファイナンシャルプランナー)が開催するものはたくさんありますが、公的機関も実施しています。9月には金融経済教育推進機構(J-FLEC)、金融庁、厚生労働省が主催するセミナーが開催されました。
iDeCoの実施機関である国民年金基金連合会でも定期的にセミナーを開催しており、WEBサイトから動画アーカイブを見ることもできます。
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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