“ブラック企業勤務”で豹変した父から逃げ出し20年…娘がケアマネからの手紙で知る「驚きの現状」
Finasee / 2024年11月15日 17時0分
Finasee(フィナシー)
松野歩さん(仮名)は10歳の頃、父親のDV(ドメスティックバイオレンス)に耐えかね、母親に連れられて大阪の実家を飛び出しました。以降は一度も父親と会っていません。
母親は松野さんが憧れのキャビンアテンダントになったのを見届け、40代の若さで急死しました。その後、自身も結婚・離婚を経験した松野さんは、シングルマザーとして息子の子育てに追われる昨年の夏、ある専門家から九州に住む父親が死の床にあることを知らされます。
突然の告知に戸惑いながらも父への嫌悪感を抑えることができず、会うつもりも相続人になるつもりも全くないと返事をしました。それでも、その専門家は松野さんに父親の最期の日々をつづった手紙を送り続けたのです。
最初は迷惑だったそうですが、父親が亡くなった今、それは感謝の気持ちに変わったと言います。「やはり親ですから、傍観者の立場であってもその死を見守ることができて良かった。それにしても、忙しい業務の中で1人の人間の死にこれほど真摯に向き合う姿勢は本当に凄いと思った」。そう語る松野さんが、その専門家とのやり取りを振り返ります。
〈松野歩さんプロフィール〉
東京都在住
35歳
女性
塾講師
6歳の息子と2人暮らし
金融資産120万円
九州の居宅介護支援事業所でケアマネジャーをしている古賀さん(仮名)という人から突然手紙を受け取ったのは、1年前の2023年夏のことでした。
全く心当たりのない名前をいぶかりながら封を切ると、そこに書かれていたのは私が小学生の頃に生き別れた実の父に関する話でした。
66歳になる父は古賀さんの事業所の近くのアパートでひとり暮らしをしていたようです。末期の肺がんと診断され、本人は「このまま自宅で死にたい」と言って古賀さんの事業所が面倒を見てくれることになったのですが、この先病院や介護施設に入ることになった場合の身元引受人になってもらえないだろうかという相談でした。
手紙を読み進めるうちに、自分でもひどく手が震えるのが分かりました。父は、私にとってトラウマのような存在だったからです。
暴力的な父はいつしか禁忌のような存在に私は大阪出身で、両親にとっては一人娘です。父はもともと優しい人だったそうですが、今で言うブラック企業に勤務していて、きついノルマを課されたストレスから家族に暴力を振るうようになりました。
晩酌の酒を切らしていたとか、ご飯のおかずの品数が少ないとか、ささいなことで烈火のごとく怒り出し、そうなるともう誰も止められません。テーブルの上の食器をひっくり返すだけでは足りず、母に殴る蹴るを繰り返し、幼い私もぶたれたり、蹴り飛ばされたりしました。
母や私はけがが絶えず、地元の民生委員の方や私の担任の先生が何度も我が家に足を運び、父に話をしてくれたりしましたが、DVは一向にやみませんでした。
意を決した母は、その頃から増えてきていたDVシェルターの記事を新聞で読んで、10歳だった私を連れて家を飛び出し、上京したのでした。幸い、DVシェルターでは親切な方々に巡り会い、母は社会福祉士の資格を取得して施設の職員として働くようになりました。そして、女手一つで私を育て、大学まで行かせてくれたのです。
私は母の支援もあって、奨学金を受けながら大学に通い、卒業後は憧れていた航空会社のキャビンアテンダントになることができました。母はそんな私の姿を見届けた後、私が就職して3年目の夏に勤務先で急性心筋梗塞を発症し、入院したその日に亡くなりました。まだ40代でした。
長年の苦労が生まれつき病弱だった母の体をむしばんでいたのだと思います。そうした経緯もあって、私の中で父は、絶対に許せない、触れたくない、禁忌のような存在になっていたのです。
父と同じように、暴力を振るうようになった元夫古賀さんの手紙に困惑したのは、我が家の事情もありました。
母の死後、勤務先の航空会社で当時副機長だった男性と親しくなり結婚しました。翌年には長男に恵まれ、彼が「歩はこれまでさんざん苦労してきたんだから、当面は子育てを頑張って、子供の手が離れたら自分のやりたいことをやればいいよ」と言ってくれたのを鵜呑みにし、退職して子育てに専念していました。
しかし、私が家庭に入ったのをいいことに、彼ときたら子育ては私に任せっきりで独身気分で遊び放題。複数の女性の影もちらつき始めました。やんわり注意すると私に手をあげるようになり、それにかつての父の姿が重なって私の我慢も限界を超え、離婚するに至ったのです。
以降は、得意だった英語を生かして小中学生向けの塾で教えながら息子を育てています。
元夫はそれなりの収入があったにもかかわらずほとんど貯蓄もしておらず、慰謝料はありませんでした。息子が20歳になるまで毎月5万円の養育費を支払う取り決めになっていますが、それも“ある時払い”で当てにはなりません。
塾講師の収入などスズメの涙で、我が家の家計は常に火の車です。ですから、古賀さんに対して「父の介護費用は支援しますから、もう私には一切関わらないでください」と啖呵を切ることもできなかったのです。
しかし、そんな私の複雑な心中を知ってか知らずか、古賀さんからはその後も定期的に手紙が送られてきました。
●ケアマネジャーの古賀さんから届く、憎んでいた父の容態や日常を告げる手紙。松野さんは古賀さんに父から受けたひどい仕打ちや絶縁した理由をしたため、返信するのですが……。後編【「会ってもらえなくて当然」絶縁した父から娘に届いたビデオレター、最期にどうしても伝えたかった言葉とは】で詳説します。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。
森田 聡子/金融ライター/編集者
日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。
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