会社の違法行為で年金を失う…15年間「厚生年金未加入」の60代男性が直面する老後不安と厳しい現実
Finasee / 2024年11月12日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
元経営者の上平さん(仮名・74歳)は、現在約1億円の資産を持っています。これらを取り崩しながら生活していますが、生活費は別途確保しているためお金が有り余り、亡くなるまでに使い切れないかもしれないと悩んでいました。
年金については厚生年金も国民年金も未加入だった事実が発覚。自身が年金に加入していこなかったことは後悔していませんが、会社の従業員を厚生年金に加入させなかったことには心を痛めていると話します。
余った資産の使い道として、今後は年金関連団体や元会社所在地の自治体への寄付も選択肢として検討していくことになりました。
●前編:【資産1億円の使い道に悩む元経営者の70代男性…従業員への“申し訳なさ”から考えた「償いの方法」】
厚生年金に加入できなかった横田さんの場合横田さん(仮名)は現在63歳独身です。前編で紹介した上平さんと直接の関係はありませんが、上平さんが経営していた会社の従業員と同じく、会社都合で厚生年金に加入できなかった方です。
横田さんは年金生活まであと少しという時点に来て、老後生活に不安を感じ始めていました。それは年金だけでは生活できないかもしれないという不安です。
高校を卒業して以来、会社員として働いてきましたが、そのうち15年間は厚生年金に加入していません。当時働いていた会社が厚生年金に加入していなかったため、その間の厚生年金がなく年金が少ないと言います。65歳から見込める年金は月額約12万円です。
しかし、実家を相続し姉と2人暮らしのため、住む場所には困っていません。姉は現在7万円の年金を受給しながら生活していますから、姉と横田さんの年金を合わせると、どうにか生活できそうです。しかし、貯蓄はありませんから毎月の生活がやっと、家の修繕や医療費などの臨時出費が発生することを考えると厳しい状況だと予想できます。
厚生年金に加入できていれば…横田さんは「あの時、厚生年金に加入できていれば、もう少し年金は増えていましたよね?」と、言います。そこで、もし加入していたなら年金がいくら増えたか計算したところ、年間30万円ほどになることが分かりました。年間30万円が一生涯減るわけですから、それは大きな損失になります。しかし、それを言ったところで年金が増えるわけではありません。
もちろん1番悪いのは会社です。おそらく会社は強制適用事業所にあたると思われますから、厚生年金に加入しないことは違法行為です。しかし、厚生年金に加入していないことを分かった上で15年間働き続けたのは本人ですし、もし違法行為だと認識したなら当時の社会保険事務所に相談するなど何らかのアクションを起こす必要があったでしょう。
また、それを分かっていながら63歳になった今まで、貯蓄をしてこなかったのは、これは会社の責任ではありません。厳しいようですが、厚生年金に加入しなかった会社を責めても誰も助けてくれません。自分で準備するしかないのです。
これからの生活をどう生きていくかという点においては、本人も長く働くことを考えていますが、やはりできるだけ長く働き、給料の一部を貯蓄して老後に備えていくほかありません。現在まで貯蓄がないのは、「将来を真剣に考えたことはなく、どうにかなると思っていたから」だそうです。そのため、給料が入るとなくなるまで使っていたそうですが、今後はその生活を改める必要があります。
横田さんの現在の収入は手取りで22万円です。姉の年金7万円と合わせると、決して苦しい生活水準ではありません。今は年金生活より約10万円手取りが多いため、できれば数年後にやってくる年金生活を見据え19万円で生活をして10万円は貯蓄したいところです。お金は意図的に貯めないと貯まることはありません。だからこそ先取り貯蓄が必要です。先取り貯蓄をしてこなかった横田さんでしたが、まずは、3万円から先取り貯蓄を始め、徐々に金額を上げていくことを決めました。
雇用されている第1号被保険者の老後への備え国民年金の第1号被保険者は学生や個人事業主などですが、FP相談を受けていると、雇われている第1号被保険者の人にもお会いします。従業員が5人以上の事業所は厚生年金の強制適用事業所になるため、その規模未満の個人事務所などで働いている人が第1号被保険者に該当しますが、やはり社会保険の手薄さと老後の年金に不安を持っています。
手厚い社会保険を求めるなら転職が必要ですが、職場を変えることはそう簡単なことではありません。であれば自分で厚い保障を作り出すほかありません。医療保険、個人年金、NISA、iDeCo等に加入し、自分自身を守る必要があるのです。特に老後の資産形成は短期間で達成できるものではありません。手遅れになる前に気づき、行動に移し、資産形成していくことが何よりも確実な老後準備となります。
その点、上平さんは30代から投資信託を積み立ててきたため8000万円まで資産が積み上がりました。上平さんの無年金は決して良い例ではありませんが、長期の資産形成をしていなければ家計状況は大きく違っていたことでしょう。第1号被保険者の人は、特に、老後の資産状況を予想し、とにかく早めに準備していただきたいと思います。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
前田 菜緒/ファイナンシャルプランナー
FP事務所AndAsset代表。ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)。大手保険代理店に7年間勤務後、独立。子育て世代向けにライフプラン相談、セミナー、執筆などを行っている。子連れでセミナーに行けなかった自身の経験から、子連れOK、子どもが寝てから開催するなど、未就学児ママに配慮した体制で相談やセミナーを実施。経済的理由で進学をあきらめる子をなくしたいとの想いを持ち、活動中。
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