「最悪命を落とすこともある」健康診断で再検査に…アラフォー女性が思い当たった「まさかの原因」
Finasee / 2024年11月11日 17時0分
Finasee(フィナシー)
詩織は上司から渡された茶色の封筒を見て、3週間前、健康診断を受けたことを思い出した。
詩織が務めるテイオーマートは県内で20店舗のスーパーマーケットを経営していて、詩織はその本社で事務員として働いていた。テイオーマートでは、年に1度、社員全員の健康診断を行っている。
「中を確認して、もし再検査が必要と書かれてあったら、すぐに病院に行って受けるように」
上司の指示を聞き流して、検査結果を確認した詩織は思わず、目を疑った。
“6カ月後に再検査” “肥満症の疑いあり”
検査結果の用紙にはかすれた文字でそう書かれていた。
引っ掛かっていたのはBMI数値と中性脂肪。正直、最近、体重が増えているのは自覚していた。会社支給の制服が多少きつくなったような感じもしていた。
詩織は何も見なかったことにして、検査結果を折りたたみ、封筒の中へ押し込んだ。
とはいえ、生まれて初めて引っ掛かった健康診断の結果を頭から完全に締め出すことは難しく、家に帰った詩織はリビングでくつろぎながら、スマホで中性脂肪が増えた原因を検索した。そこには「果糖含有食を取りすぎること」などと書かれてあった。
初めて聞く単語だったので、今度は“果糖含有食”を調べると、“清涼飲料水”と出てくる。詩織はテーブルに置かれたコーラを見た。成分表を確認すると、そこには果糖ブドウ糖液糖と記されていた。
「なるほど、お前が犯人か……」
愛憎を込めてつぶやきながら、ペットボトルをにらみ付ける。
詩織はとにかくコーラが好きだった。映画鑑賞が趣味で、映画館に行くと必ずポップコーンとコーラを注文する。さらに最近はサブスクで映画を好きなだけ見られるようになったため、シンク下の戸棚にはネットで買ったコーラの段ボールが常備してある。
家に帰ってきて、手洗いうがいの次にコーラを飲む。映画を見ながらコーラを飲む。飲み会に行ってもコーラを飲む。朝起きたら歯を磨くことと同じくらい当然の、詩織の生活のルーティンだった。
詩織は厳しい視線をペットボトルに向けた。Tシャツの上からでもすっかり膨らんでたるんでしまったことがよく分かる自分の腹を見た。好き勝手な食生活を送ってきた結果が、このありさまだ。
だが好きなものを絶つような食事制限は現実的ではない。ダイエットにはストレスがよくない、我慢はよくないと、どこかの誰かが言っていたような気がする。
ほかに方法はないだろうか。
先ほどのサイトを読み進めてみると、中性脂肪増加の原因は運動不足やストレスだとも書かれている。間違いない。これが真の原因だ。詩織はそう思い込むことにした。
「うん、取りあえず、休みの日にウオーキングとかやったら、良くなるかも」
詩織は決心した。だが決心をしただけで、それが行動に移されることはなかった。
若年性脳梗塞で倒れた友人そうして1カ月が過ぎたあるとき、学生時代から仲の良かった美希が倒れたと連絡があった。幸い命に別状はないのだが、隣県の病院に入院していると聞き、詩織は次の休みの日、車を飛ばしてその病院へと向かった。
「お見舞いありがとうね、忙しいのに」
病室に入ると、ベッドに腰をかけた美希が笑って迎えてくれた。
「全然。もう連絡もらったときは心臓が飛び出るかと思ったよ~。昔は病気知らずで有名だったのに、何があったの?」
「いや、仕事中にいきなり倒れちゃってさ」
「え、なにそれ。怖いじゃん」
「ほんとね。医者が言うには若年性脳梗塞だって」
脳梗塞という病名に詩織は息をのむ。高齢者が脳梗塞を起こして、倒れるという話は聞いたことがあったが、まだ40代前半で起きる病気だということに驚いたのだ。
「まだ若いのに、脳梗塞なんてなるんだ……」
「だから、若年性っていうみたいよ。若い人でも脳梗塞を起こすことがあるんだって」
「そうなんだ。怖いね……もう大丈夫なの?」
詩織の問いに美希はうなずく。
「初期段階で見つかったら、治療すれば、問題なしだって。退院したら、普通に働けるみたいだし。まあ、いい休養になったって感じ」
あっけらかんと笑う美希を見て、詩織はつられて笑った。
「でも、美希が脳梗塞なんてね……」
「うーん、普通ね、脳梗塞の原因って、血圧が高かったり、中性脂肪が高かったりする人がなりやすいんだって」
「え……?」
美希の説明に詩織は言葉を失う。
「でもね、私、健康診断でもそういう数値、全部正常だったのよ。だから、医者も原因は分からないって言ってた。それが1番怖いじゃない? また再発するの怖いから、どういうことに気をつければいいか、分からないっていうのがちょっと気がかりだよねぇ……。ね、詩織もそう思うでしょ?」
「え? あ、うん、そうだね……」
美希に名前を呼ばれて、反射で返事をした。
それから美希と他愛(たわい)のない会話をしたが、中性脂肪のことがずっと頭から離れなかった。
詩織の決心家に帰った詩織は、習慣通りに冷蔵庫のドアを開ける。中には冷えたコーラのペットボトルが並んでいる。
脳梗塞になると、最悪命を落とすこともある。美希は幸い無事だったが、もし助かったとしても体にしびれなどの後遺症が残るケースもある。
――血圧が高かったり、中性脂肪が高かったりする人がなりやすいんだって。
美希の何気ない言葉が脳裏にこびりついている。
コーラを絶とう。そして、ダイエットを始めよう。
詩織はゆっくりと息を吐き、ペットボトルを冷蔵庫から取り出してキャップを開けた。そして中身を全て流し台に捨てた。
●怠け者の詩織のダイエットは成功するのだろうか? そしてダイエットを始めた詩織は「思ってもみなかったこと」に気づかされる。後編【「友人が若年性脳梗塞に…」健康に不安を抱える40代女性が一念発起して手に入れた「コスパのいい生き方」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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