USスチール買収で注目、「日本製鉄」株価5年で2倍、配当利回り5%に上昇の理由は? 事業再編で費用先行も利益率の改善が進む今後
Finasee / 2024年11月11日 6時0分
Finasee(フィナシー)
USスチール買収で注目 配当利回りは約5.0%
2024年の米大統領選はトランプ氏が勝利を収めました。これに伴い、日本製鉄によるUSスチール買収の成否が再び関心を集めています。
USスチール買収は2023年12月に公表されました。買収は米当局の承認を得ることが条件となっていますが、トランプ氏は投開票前から反対の姿勢を見せていました。なお、USスチールが本社を置くペンシルベニア州は、大統領選においてトランプ氏が勝利したとみられています。
大統領選を終えた今、改めて買収が成立するか注目されます。日本製鉄は、当初2024年9月末までとしていた買収成立時期を延期し、同年12月末までの完了を見込んでいます。トランプ氏は2025年1月に大統領へ就任する予定です。
買収の行方は不透明ですが、株式市場での評価は上々です。株価は2024年11月7日までの5年間で2倍に上昇しました。日本製鉄は業績の改善が進んでおり、投資家の買いが向かっているようです。
【日本製鉄の株価チャート(過去5年間)】
・株価: 3213円(2024年11月7日終値)
高水準の配当金も投資家をひき付けます。今期(2025年3月期)は1株あたり160円の配当を予想しており、配当利回りは約5.0%の高水準です。
【日本製鉄の予想配当利回り(2025年3月期)】
・予想配当金:160円
・予想配当利回り: 4.98%
出所:日本製鉄ホームページ
配当利回りの高さから、日本製鉄は新NISAでも選ばれやすいと考えられます。配当金は本来およそ2割の税率がかけられますが、新NISAなら非課税です。
新NISAの成長投資枠は年に240万円まで投資できます。日本製鉄は、足元の株価水準なら700株まで購入可能です。配当金が予想どおりなら受取配当金は11万2000円、本来かかる約2万2400円の税金は免除されることとなります。
今回は日本製鉄へフォーカスします。同社の概要と業績を振り返りましょう。また日本製鉄は利益率の改善が顕著ですが、その源泉となっている構造改革についても紹介します。
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世界有数の鉄鋼メーカー 生産量と「ひも付き」の高い割合に強み
日本製鉄は八幡製鉄所の流れをくむ鉄鋼メーカーです。2012年に新日本製鉄と住友金属工業が統合し、新日鐵住金となりました。商号を日本製鉄へ改めたのは2019年のことです。子会社には山陽特殊製鋼、大阪製鉄、黒崎播磨、ジオスター、日鉄ソリューションズなどを持ちます。
事業セグメントは4つに分かれています。ただし収益の大部分は製鉄セグメントで構成されています。日本製鉄の価値は製鉄セグメントが支えているといえるでしょう。
【日本製鉄のセグメント業績(2024年3月期)】
出所:日本製鉄 決算短信日本製鉄の粗鋼生産量は世界トップクラスです。2023年は4370万トンで世界4位となりました。なおUSスチールは世界24位(同1580万トン)で、買収が成立すればアルセロール・ミタル(世界2位、同6850万トン)に次いで世界3位となる見込みです。
生産量と並ぶ日本製鉄の強みがひも付き(※)の多さです。出荷全体の6割、主力の国内向けは7割がひも付きで販売されています。価格決定に裁量を持てるひも付きの多さは、収益の安定化に貢献していると考えられます。
※ひも付き:需要家からの受注生産で販売する形態。価格は需要家と直接交渉して決める。一方、店売りは問屋や商社に販売する形態。最終の需要家が支払う価格は市況の影響が強いとされる。
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値上げ奏功でV字回復 ただし今期は大幅な減益 原因は?
次に業績を振り返りましょう。直近10期では2020年3月期と2021年3月期に最終赤字となっています。
2020年3月期の赤字は事業用資産の減損が主因です。採算の悪い国内の製鉄所の価値を見直した結果、資産の大幅な取り崩しが生じました。翌2021年3月期は、コロナ禍で需要の低迷から大幅な減収となる中、営業利益までは黒字を確保したものの、金融費用や税費用などから最終損失となっています。
以降は大きく回復しています。住友金属工業との統合後で、売り上げは2024年3月期まで3期連続、純利益は2023年3月期まで2期連続で過去最高を更新しました。なお、2024年3月期の減益は在庫評価損益の悪化が主因です。
出所:日本製鉄 有価証券報告書より著者作成業績を押し上げたのは販売価格の上昇です。鋼材の出荷量は減少傾向にありますが、下記のグラフから販売価格は2022年3月期以降で上昇していることがわかります。日本製鉄はひも付き価格の値上げに取り組んでおり、数量の低迷をカバーしています。
出所:日本製鉄 決算説明会参考資料より著者作成ただし、今期(2025年3月期)は減収減益、特に利益は大きめの減少を予想します。利益は事業撤退損や設備休止関連費用などが圧迫する想定です。
なお、通期の業績予想は第1四半期決算で上方修正されたものの、第2四半期では下方修正されています。結果、期首予想比で売上収益は2000億円の引き下げ、事業利益と純利益はそれぞれ200億円、100億円の引き上げとなりました。
第2四半期の下方修正は在庫評価差や原料事業の悪化、生産出荷の減少などが反映されました。うち在庫評価差と原料事業は、第1四半期では上方修正されていました。しかし第2四半期の引き下げが大きく、通算では期首時点の予想より悪化しています。なお、鋼材マージン(原料費と販売価格の差)の予想は2四半期連続で改善しています。
【日本製鉄の業績予想(2025年3月期)】
・売上収益: 8兆6000億円(-3.0%)
・事業利益: 6700億円(-23.0%)
・純利益: 3100億円(-43.6%)
※同第2四半期時点における同社の予想
※()は前期比
出所:日本製鉄 決算短信
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進む構造改革 事業再編損6600億円も、損益分岐点4割改善
日本製鉄で利益の改善が進むのは、値上げ効果だけでなく、構造改革も背景にあると考えられます。日本製鉄は生産体制の効率化に長く取り組んできました。
日本製鉄は受注に占める高級鋼材の割合を高めています。採算の悪い汎用品の取り扱いを減少させ、付加価値の高い製品に注力する戦略です。これに伴い、国内の生産拠点の統合を進めてきました。分散していた製鉄所は2022年に6拠点(北日本、東日本、名古屋、関西、瀬戸内、九州)まで集約されています。
設備の統廃合には痛みも伴います。高炉は減少し、粗鋼生産能力は2024年3月期末で20%低下する見込みです(2020年3月期比)。事業再編に伴う損失は2024年3月期までの10期で6600億円に達しました。
しかし、痛みに見合う成果は得られているようです。固定費が圧縮され、損益分岐点は4割引き下げられました。1ケタ前半が続いていた事業利益率は改善し、2022年3月期は13.8%、2024年3月期は9.8%で推移しています。
出所:日本製鉄 決算説明会参考資料より著者作成国内の再編は続く見込みです。今期(2025年3月期)も事業再編損として1300億円の計上を想定しています。当面は最終利益の重荷となる状況が続きそうですが、構造改革が進めばさらに収益性が向上するかもしれません。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
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若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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