PayPayアセット事業終了→一部投資信託、繰上償還の衝撃。NISAで長く付き合える投信を選ぶために絶対見るべき“ある数字”
Finasee / 2024年11月13日 16時30分
Finasee(フィナシー)
「無期限」=半永久的な運用を約束するものではない?
NISAの対象商品には、信託期間(設定から償還までの年数)20年以上という条件が設けられている。信託期間は、各投資信託の目論見書で確認することができ、最近は信託期間を「無期限」とする投資信託も増えている。「無期限」とは文字通り、償還までの期限を設けないという意味だ。このように聞くと、長期資産形成では、なるべく信託期間無期限の投資信託を選んだ方が良いと思う方も多いかもしれない。しかし、目論見書上では信託期間を無期限としていても、それが書面上の約束に過ぎず、半永久的な運用を保証しているわけではないということをご存じだろうか。
「書面上の約束」と表現したのは、所定の手順を踏めば、ルール上、運用会社は投資信託の運用を途中で終了することもできるためだ。具体的には、運用成績が振るわずに恒常的な資金流出が続いたり、投資家の支持を集められず、残高(口数)の増加がこれ以上見込めなかったりする場合、運用会社は投資信託の運用を終了し、資産の清算を行って、償還日とした時点の保有者に対して保有している口数に応じたお金を返還する。これを繰上償還という。株式でいうところの上場廃止をイメージすると分かりやすいだろう。
こうした対応が認められている理由は、残高が一定水準を超えないと、効率的な運用ができず、運用を続けていても赤字を垂れ流す状態になってしまうためだ。規模の経済性が働く、投資信託という金融商品の宿命とも言えよう。
新NISAが始まってまもなく1年が経過しようとしている中、実はここに来て対象銘柄から脱落――つまり、繰上償還される投資信託が出始めた。
PayPayアセットマネジメントの事業終了が意味すること去る10月11日、PayPayアセットマネジメント株式会社はプレスリリースにて、2025年9月末をめどに事業を終了することを公表した。運用資産の拡大が計画通りに進まず業績低迷が続き、「受益者に最良の資産運用サービスを持続的に提供することが難しいという判断に至った」とのことだ。
肝心の同社が運用する12本の投資信託はというと、8本(うち6本がNISA対象)は株主であるアセットマネジメントOneが運用を引き継ぐが、以下の4本は運用を終了し、繰上償還される。11月1日時点で具体的な償還のスケジュールはまだ公表されていないが、来年9月の事業終了を待たずに償還される可能性は高い。
・PayPay投信バランスライト
・PayPay投信 米国株式インデックス
・PayPay投信 NYダウインデックス
・PayPay投信 NASDAQ100インデックス
※すべて成長投資枠対象
一般的に、運用会社が特定の投資信託の繰上償還をする場合は、受益者に対してホームページ等で「繰上償還に関する公告」を行い、一定の異議申立期間を設けた上で実施する。総受益口数の半数以上が反対すれば償還は見送られる。
ただし、今回のPayPayアセットマネジメントのように、運用会社が事業を終了し、それに伴って投資信託も繰上償還される場合、当該投資信託を保有する受益者は異議申し立てを行うことはできない。つまり、償還までに自ら解約手続きをするか、償還日まで保有して資金が戻ってくるのを待つことしかできない(なお、投資信託内の財産は法律に基づき信託銀行で分別管理がなされているので、事業が終了してもお金がなくなるということはない。その点は安心してほしい)。
それにしても、商品の差別化が図りにくく、新NISAの開始前から既にレッドオーシャンと化していたインデックスファンドを商品ラインナップの中心に据えておきながら、「運用資産の拡大が計画通りに進まず」というのはあまりにもお粗末と言わざるを得ない。繰り返しになるが、投資信託という金融商品は一定程度「規模の経済性」が働く。今回のPayPayアセットのような事態は頻繁に起きるわけではないが、今後も商品単位の淘汰(とうた)は進む可能性が高く、小粒な投資信託は繰上償還される可能性があることは、念頭に置いておいてほしい。
償還の憂き目にあわないよう…長く付き合える投資信託とはでは、長期投資を前提とした場合、繰上償還されにくい商品はどう選べばよいのか。そのヒントは投資信託の規模を表す純資産残高にある。
純資産残高は、投資している金融商品の価格の変動で増えたり減ったりする。株式市場の調整などで純資産残高が一時的に減少するのはよくあることだが、市場が回復しても残高が減少を続けているときは注意してほしい。投資家の投資信託の解約が相次いでいる可能性が高いためだ。
運用会社は、解約が発生すると、投資家に返金するための現金を手元に用意すべく、株式や債券を売却することになる。解約が増えれば、売却する資産も増えていく。仮に有望な銘柄を見つけたとしても、新しく資金を投入するといった前向きな投資ができなくなり、次第に満足な運用が行えなくなっていく。残高が減少を続け、ついに運用に支障が出るようになると、運用成績を回復させるのは難しくなり、信託報酬などのコストの負担も重く押し掛かる。この段階に入ってしまうと、さらに解約が増えるという悪循環に陥り、繰上償還が現実味を帯びてくる。
以上をまとめると、残高が恒常的に減少している、あるいは、全く増えていないファンドは避けた方が無難と言える。理想は、投資家の支持を集め、残高が増え続けているファンドだ。残高の目安は、運用開始から間もないファンドを除き、最低でも50億円程度は欲しいところだ。
なお、NISAの対象商品は、投資信託の運用を担う運用会社が自ら届出を行ったものを、社団法人投資信託協会が取りまとめて公表している。金融庁は、監督官庁として対象商品の「基準」を作成しているにすぎず、また、投資信託協会も、個別の投資信託の良しあしを判断しているわけではない。したがって、各投資信託が安定した成績を収め、長期にわたって投資家の支持を集められるかどうかは、あくまでも運用会社の運用手腕にかかっている。
篠田 尚子/楽天証券資産づくり研究所 副所長 兼 ファンドアナリスト
慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【2024年新制度対応版】NISA&iDeCo完全ガイド』『FP&投資信託のプロが教える新NISA完全ガイド』(ともにSBクリエイティブ)。
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