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「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が「グロソブ」を抜き、歴代最大の残高に。この2大爆売れ投信の“共通点”と“決定的な違い”は…

Finasee / 2024年11月6日 19時0分

「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が「グロソブ」を抜き、歴代最大の残高に。この2大爆売れ投信の“共通点”と“決定的な違い”は…

Finasee(フィナシー)

16年ぶりに投信純資産総額の記録が塗り替えられた! 

すでに方々で取り上げられているように、三菱UFJアセットマネジメントによって設定・運用されている「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の純資産総額が、10月28日時点で、ETFを除く公募型投資信託のなかでは過去最大の純資産総額になりました。その額は5兆7696億円で、過去において最大だった「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」(グロソブ)の5兆7685億円を抜いたのです。

これまでのレコードホルダーだった「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」を設定・運用していたのは国際投信投資顧問でしたが、同社は2015年に当時の三菱UFJ投信と合併。三菱UFJ国際投信になった後、2023年10月に商号変更され、現在の三菱UFJアセットマネジメントになったという経緯があります。

その意味では、元国際投信投資顧問が打ち立てた最大純資産総額の記録を、国際投信投資顧問の血を引く三菱UFJアセットマネジメントが塗り替えたことになります。

これは以前、別の経済誌にも書いたことなのですが、国際投信投資顧問にはどうやら、エポックメイキングなファンドを生み出すDNAのようなものがあると感じることがあります。

たとえば1990年代の前半においては、国際投信投資顧問の前身である国際投信によって設定・運用されていた「長期国債ファンド(愛称:トップ)」が、同社の積極的な販売プロモーションによって、人気を博しました。「トップ」は当時の国内投信会社が業界統一商品として運用していたのですが、なかでも国際投信が頭一つ、突き抜けていたことを覚えています。

しかし、長期国債を組み入れて運用する同ファンドの優位性は、1990年代半ば以降の超低金利時代を迎えるにあたって、徐々に失われていきました。

当時、バブル崩壊の不況によって超低金利下にあった日本ですが、海外の金利は比較的高く推移していました。その相対的に高い海外金利を活用して、組入債券から得られる利金を中心に毎月決算、分配を行う仕組みで登場したのが、「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」でした。

「グロソブ」と「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」 2大爆売れファンドが売れた背景は?

前述したように、「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」は当時、過去最高の純資産総額を記録しました。三菱UFJアセットマネジメントの広報資料によると、運用が開始されて約128カ月後の2008年8月8日に、5兆7685億円に達したということです。

そして今回、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」がそれを抜いたわけですが、その純資産総額が5兆7696億円に達するのに要した期間は約75カ月でした。それだけ短期間のうちに、大きな資金を集めることができた背景は、言うまでもありませんが、2024年1月に行われたNISAの制度見直しです。

制度の恒久化、非課税期間の無期限化、そして非課税限度額の引き上げという3点セットによって、多くの人にとって「NISAをやらない理由がない」とまで言わせしめるほどでしたが、そのなかで多くの資金が「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」や「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に流入しました。

あくまでも私の概算ですが、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の資金純流入額は、新しいNISAが始まる前、2023年12月の1カ月間が約780億円だったのが、2024年1月が約2090億円、2月が約1780億円、3月が約1550億円というように、毎月1000億円超の月が続いています。

これは「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」も同じで、2023年は1カ月あたり多い月で1000億円、少ない月だと300億円台だったのが、2024年に入ってからは2000億円から3000億円の資金純流入が続いています。

このように、eMAXIS Slimの2ファンドが多額の資金を集められたのは、NISAの制度見直しが行われた2024年1月までに、「資産形成はローコストのインデックスファンドで行うのが合理的」というブランド戦略が奏功したためと考えられます。

それとともに、投資信託を購入している個人の意識にも変化が感じられます。

「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の人気化は、どちらかというと販売金融機関のセールス力によって作り出されたものと考えられます。当時はまだ、個人が積極的にファンドを選んで購入するよりも、販売金融機関の営業に言われるがまま、ファンドを買っていたような時代でしたし、販売金融機関のラインナップを見ると、地方の地場証券、地方銀行、信用金庫など、対面型営業の金融機関が多数を占めています。

一方、eMAXIS Slimシリーズは、インターネット金融機関で販売される商品です。インターネット金融機関は対面型の営業は行いませんから、そこを通じて買われている商品は、多少の情報誘導によって購買動向が左右される面はあると思われますが、最終的には個人顧客が自分で選んで購入しているはずです。その点からすると、eMAXIS Slimシリーズの人気化は、個人が自発的に選んだ結果よるものと言えるのではないでしょうか。

つまり、2008年8月までの「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の盛り上がりと、今回の「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の人気化では、購入者の“購買意識”が異なると考えられるのです。

しかも、「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の購入者は、毎月受け取れる分配金を年金代わりにしたいという動機が強かったせいか、購入者は高齢者が大半でしたが、米国を中心とする世界株式に長期分散投資することを自ら選んだ結果として「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」や、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を購入したのだとすると、これら2ファンドの購入者は、資産活用層である高齢者よりも、資産形成層に該当する年齢の若い人が中心である可能性が高いと考えられます。

eMAXIS Slimシリーズの人気化が、若い層を中心に、長期的な資産形成を目的して積極的に投資信託を使い始めた嚆矢(こうし)だとしたら、日本の個人の資産形成の在り方も、ここから大きく変わっていくのかもしれません。

“絶好調”のeMAXIS Slimシリーズ…死角はないのか

ただし、ひとつだけ心配があります。かつての「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」のように、eMAXIS Slimシリーズへの注目がブーム的なものでないかどうか、という点です。

5兆7685億円にも達した「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の純資産総額は、2024年11月1日時点で2636億円です。さまざまな事情が重なり、解約が相次いで純資産総額は大きく減少しました。

それでも2636億円の純資産総額があるので、これはこれで十分にビジネスが成立していると考えられますが、同じことがeMAXIS Slimシリーズに起こらないという保証は、どこにもありません。

「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」や、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を購入している人たちが、自分のリスク許容度に見合った資金で買っているのか、マーケットが急落しても退場することなく投資し続けられるのか、という点が今後、eMAXIS Slimシリーズがさらに大きくなるかどうかのカギを握っていると言えるでしょう。

ちなみに、投資信託には適正規模があるものの、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」や、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、投資対象となるマーケットの規模が非常に大きく、インデックス運用なので運用難に陥るリスクは極めて低く、また逆に解約が集中したとしても、アクティブファンドに比べれば、運用成績に悪影響が及ぶリスクも低いと考えられます。その意味では、ポートフォリオのベースとして、これらのインデックスファンドを持つメリットは、確かにありそうです。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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