「ケチくさいこと言うなよ」消えた夫婦の貯金の行方は…義実家で発覚した「マザコン夫の本性」
Finasee / 2024年11月18日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
みどり(32歳)は、結婚を機に義母の佐枝(61歳)と同居することになった。佐枝は毎日のように友達とランチに出掛け、洋服やアクセサリー、美容院などに散財をしていた。おまけにみどりにも、もう少し身なりに気を使ったほうがいいなどとおせっかいをしてきた。
夫に相談するが、「母さんは昔からそういうのが生きがいなんだ」と取り合ってくれず、義母は過去に苦労をしたと聞いたことから、自分が我慢をすればいいと自身に言い聞かせていた。
そんな折、みどりの仕事用のパソコンが壊れてしまい、新しいものを買うために夫婦の貯金の残額を確認すると、2人で将来のためにとためていた貯金が使い込まれていることが発覚する。
●前編:「もう若くないって自覚しないと」義母の浪費癖に我慢の限界! 義実家生活で発覚した「恐るべき事実」
消えた夫婦の貯金貯金が大幅に減っていることに身に覚えはない。管理しているのはみどりだったが、通帳やカードを使えば祐也も、義母の佐枝もお金を下ろすことは不可能ではない。案の定、通帳や印鑑をしまっている戸棚の収納ボックスを確認すると、一緒に保管しておいたはずのカードがなくなっていた。
みどりはひとまずキッチンに向かい、シンクで水をくんだ。気持ちを落ち着かせなければいけなかった。だが、気持ちが落ち着けば2人に対する疑念がよりはっきりとした輪郭を帯びていく。仕事どころではなかった。一緒に暮らしている家族を疑いたくはなかったが、特に佐枝については日ごろの派手な浪費癖を知っている分、もしかしたらと思ってしまった。
心なしか張り詰めていた家のなかの空気は、勢いよく開いた玄関扉の音によって切り裂かれる。
「ちょっとみどりさーん、荷物運ぶの手伝って!」
何なの、という言葉をのみ込んで、玄関に向かう。帰ってきた佐枝は有名ブランドの大きなショッパーをいくつも下げていて、そういえば銀座に行くと言っていたことをみどりは思い出す。
「今日もいっぱい買いましたね……」
「そうなのよ。新作よ、新作。みどりさんに買ってきたものもあるから、ちょっとこれリビングに運んじゃって」
佐枝は履いていた靴を放り出してリビングへと向かう。みどりも受け取ったいくつかのショッパーを抱えながら後に続く。
「ありがとうございます。でもそんな、ブランド品なんて」
「何言ってんのよ。いい年なんだから、ブランドものの1つくらい身につけなきゃ。こういうのが似合う女にならなきゃ恥ずかしいでしょう?」
やはり佐枝の価値観に全く共感できない。だが今はそれ以上に気になっているのは、次々と広げられていく洋服の値段と、それを買うだけの金が一体どこから出たのかということだった。
「これ、すごくすてきですね。おいくらくらいなんですか?」
「ダメよ。それは私のだから、みどりさんはこっち。ほらやっぱり。こういう色が似あうと思ったのよ!」
買い物の興奮でアドレナリンが出ているせいか、あるいははぐらかしているのか、佐枝との会話は噛み合わない。みどりはだんだんと、これも素敵でしょあれも素敵でしょと買ってきた洋服を並べる佐枝にいら立ちを募らせて、自分では絶対に買わない鮮やかなオレンジ色のワンピースを握りしめた。
「あの、お義母(かあ)さん。こんな話はしたくないんですけど、ちょっと伺いたいことが……」
「何よ。辛気臭い顔して。今、帰ってきたばかりなんだからあとにしてよ」
みどりのけんのんな空気を感じ取ってか、佐枝は眉をひそめた。
「お茶でも入れてくれないかしら? 11月だっていうのに、荷物持って歩いたら暑くて」
「大事なことなんです」
みどりは深く息を吸い込んで、佐枝を見据えた。佐枝は観念したように一度買ってきた洋服を置き、みどりへと向き直った。
やっぱり、とみどりは思った。彼女は何か知っているに違いない。
「私と祐也、2人で将来のために貯金していた口座のカードがなくなってて。祐也さんが持ち出したのかもなとは思うんですけど、お義母(かあ)さん、何かご存じないですか?」
みどりがそう口にした瞬間、佐枝は目を見開いた。
そんなに使い込むと思わなかった「ただいま」
ネクタイを緩めながらリビングにやってきた祐也は、みどりの顔を見るや動きを止めた。
「どうしたの? 怖い顔して」
「荷物はいったんここに置いて、着替えてきちゃって」
「……おう、分かった」
みどりはスエットに着替えて戻ってくる祐也を待った。戻ってきた祐也は状況がつかめないらしく、困った様子でみどりの前の席に着いた。
「お義母(かあ)さんの買い物癖のことだけどさ」
そう切り出すと、祐也は息を吐いて表情を緩めた。
「なんだ、またその話? ひとまず様子を見ようってことで決着ついたじゃん」
「そうなんだけど、今日もまた銀座で大量に買い物してきたの。それで、ずっと不思議だったことを確かめようと思って」
祐也は相づちを打つ。だがことの深刻さは理解できていない様子だった。
みどりは机の下に隠していた手を出した。持っていたカードを置くと、祐也はかすかに表情をこわばらせ、視線をそらした。
「お義母(かあ)さんがね、このカード祐也から借りてるっていうんだけど、どういうこと?」
「いや、それはあれだよ、あれ。前も言ったろ。母さんには楽させてやりたいって」
「楽ってレベルじゃないと思うけどね」
みどりは次に、銀行のアプリを開いたスマホを置いた。これでもう言い逃れはできなかった。
「100万も買い物するのが楽? ただのぜいたくだよね?」
みどりは容赦せずに問い詰めた。祐也の顔から、血の気が引いていった。
「そんなに使い込むと思わないだろ、普通。ちょっといい思いさせてやろうと思っただけだったんだよ」
「お義母(かあ)さんは、自由に使っていいって言われたって。ねえ?」
廊下のほうへ目をやると、ちょうど佐枝がリビングに入ってくる。夕方、すでに問い詰められてすべてを話している佐枝は見るからに不機嫌そうだった。
「ごめんね、祐也」
「母さん……」
2人はまるで世界の終わりを迎えたような様子でお互いを呼び合っていた。みどりは2人でやれよと内心で吐き捨てたが、頭は冷静だった。
「使った金額も問題なんだけどさ、信じられないのはこれが2人で将来のためにためようって決めたお金だったことだよ。別に1円たりとも使うなって話じゃないんだよ。でも、2人でためてたんだから、使うんだったら事前に相談すべきだと思うんだけど?」
みどりは自分が正しいことを言っている自覚があった。だが2人はそろって、うんざりしたようなため息を吐いた。
「2人の貯金って言ったってどうせ、祐也がためた金だろう」
「なんか言いました?」
ぼそりと吐き捨てた佐枝を、みどりはにらみ付けた。
「そんなにイライラするなよ。お金なんてまたためればいいんだし。使っちゃったものは仕方がないだろ。なあ、母さん」
「そうよねぇ。今更言われてもねぇ」
夕方までしおらしくしていた佐枝も、祐也がいることで気を大きくしているのか、いつもの調子を取り戻していた。
「あんまりケチくさいこと言うなよ。な? この話は終わりにしよう」
まるでこっちが悪いみたいな物言いに、みどりはあぜんとするしかなかった。
お金は戻ってこないが…この日を境に、みどりはすべてを諦めた。祐也に離婚届を突きつけ、義実家から出る準備を進めた。最初はなんとかならないかと駄々をこねていた祐也だったが、実家に戻ったみどりの決心が固いことを悟るや、佐枝といっしょになってケチだなんだと嫌みをぶつけてきた。
調停が終わり、無事に離婚できたのはまだ先週のこと。夫が義母に渡したお金は返ってこないし、慰謝料の支払いもない。憤りや後悔は大きかったが、それでも安堵のほうが強かった。
「それじゃあ行ってくるね」
母に声をかけ、みどりは家を出る。新しい生活を始めるための新しい部屋を探す足取りは、涼やかな秋の風と似て軽やかだった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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