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なぜ実質賃金は低迷したままなのか? 賃金から日本経済の実相に迫る

Finasee / 2024年11月26日 18時0分

なぜ実質賃金は低迷したままなのか? 賃金から日本経済の実相に迫る

Finasee(フィナシー)

日本銀行の11年に及んだ異次元緩和。

「2%物価目標」のために、巨額の国債と日本株(ETF)を買い入れてきました。大きな影響を市場に及ぼした異次元緩和は成功だったのか、それとも失敗だったのでしょうか?

金融正常化へ舵を切るなか、そんな疑問に答える1冊の本が版を重ねています。元日本銀行理事の山本謙三氏が執筆した『異次元緩和の罪と罰』です。山本氏は、金融正常化へ向かう出口には「途方もない困難」が待ち構えていると言います。(全4回の2回目)

●第1回:植田日銀の前途多難な船出、元日銀理事が懸念するのは「物価目標達成」の判断

※本稿は、山本謙三著『異次元緩和の罪と罰』(講談社)の一部を抜粋・再編集したものです。本書は2024年9月発売、掲載情報は執筆時点に基づいています。

非正規シフトで名目賃金も上がりにくい社会経済構造

賃金の動向は、日本経済の縮図である。経済の実相を知るためにも詳しく見ておこう。

厚生労働省が毎月発表する毎月勤労統計調査によれば、日本の実質賃金指数は2022年4月から2024年5月まで、26ヵ月にわたり前年比マイナスが続いてきた(図表6-1)。実質賃金は、名目賃金指数を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)で割って計算される。同消費者物価指数の高止まりが、実質賃金の押し下げに寄与していた。24年6月にようやく前年比プラスに転じたが、前述のとおり、所定内給与や時間外手当などの「きまって支給する給与」の実質賃金は依然前年比マイナスに沈んでおり、予断は許さない。

 

同時に、実質賃金の低迷には名目賃金(現金給与総額)が思いのほか上昇しなかったことも影響した。2023年は春闘で大幅賃上げが実現した年であり、経団連の発表によれば、大手企業は前年比3.99%の賃上げを実現していた。にもかかわらず、毎月勤労統計調査の名目賃金は2023年中、前年比プラス1.2%しか伸びていない。

1990年代以降の日本経済の特色

同調査には、雇用形態による内訳として「一般労働者」と「パートタイム労働者」の2区分がある。2023年中のそれぞれの名目賃金前年比は、一般労働者プラス1.8%、パートタイム労働者プラス2.4%だった。にもかかわらず、全体の平均はプラス1.2%にとどまった。内訳項目の「一般労働者」、「パートタイム労働者」のそれぞれが一定の伸び率を示しながら、全体平均は両者の伸び率を下回るという一見奇妙なことが起きた。

これは、企業が正規雇用を抑え、相対的に賃金の低いパート中心に雇用を増やした結果である。模式的に言えば、1日8時間働く正規雇用者1人に代えて、1日4時間働く非正規を2人雇用する方が1人当たりの賃金は低くなる。この場合、パートタイム労働者の賃金が大幅に上昇しても、加重平均した全体平均の伸び率は低くなる。

パートタイム労働者の構成比が高まり続けたこと(図表6-2)、すなわち非正規労働力に依存しなければ、採算を成り立たせることのできない企業が多く存在していること、また、職場や家庭での働き方の制約から、正規よりも非正規を指向せざるをえない労働力が存在することが、1990年代以降の日本経済の特色である。その事実を如実に示す結果だった。

 

加重平均した名目賃金がなかなか上がらない事実からうかがい知れるのは、原材料コストと賃金コストの上昇に苦しむ中小・零細企業の姿だ。

●第3回は【17年ぶりに「金利のある世界」に、植田日銀の異次元緩和の解除が「絶妙のタイミング」だったと言えるワケ】です。(11月27日に配信予定)

異次元緩和の罪と罰
 


著者名 山本 謙三

発行 講談社

価格 1,210円(税込)
 

山本 謙三/オフィス金融経済イニシアティブ代表

1954年 福岡県生まれ。76年日本銀行入行。98年、企画局企画課長として日銀法改正後初の金融政策決定会合の運営に当たる。金融市場局長、米州統括役、決済機構局長、金融機構局長を経て、2008年、理事。金融機構局、決済機構局の担当として、リーマンショックや東日本大震災後の金融・決済システムの安定に尽力。2012年NTTデータ経営研究所取締役会長。2018年からはオフィス金融経済イニシアティブ代表として、講演や寄稿を中心に活動している。

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