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世界経済とのズレが生む、植田日銀を待ち受ける「永遠の金融緩和」の罠

Finasee / 2024年11月28日 18時0分

世界経済とのズレが生む、植田日銀を待ち受ける「永遠の金融緩和」の罠

Finasee(フィナシー)

日本銀行の11年に及んだ異次元緩和。

「2%物価目標」のために、巨額の国債と日本株(ETF)を買い入れてきました。大きな影響を市場に及ぼした異次元緩和は成功だったのか、それとも失敗だったのでしょうか?

金融正常化へ舵を切るなか、そんな疑問に答える1冊の本が版を重ねています。元日本銀行理事の山本謙三氏が執筆した『異次元緩和の罪と罰』です。山本氏は、金融正常化へ向かう出口には「途方もない困難」が待ち構えていると言います。(全4回の4回目)

●第3回:17年ぶりに「金利のある世界」に、植田日銀の異次元緩和の解除が「絶妙のタイミング」だったと言えるワケ

※本稿は、山本謙三著『異次元緩和の罪と罰』(講談社)の一部を抜粋・再編集したものです。本書は2024年9月発売、掲載情報は執筆時点に基づいています。

「永遠の金融緩和」の罠

では、日銀は今後どのような金融政策の方針で臨むことになるだろうか。日銀は、7月に0.25%への利上げを決定した際の公表文で、「政策金利の変更後も、実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持される」としつつ、「今回の『展望レポート』で示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」とした。

急激な金利変更がもたらす市場の過度の反動は避けつつ、経済・物価情勢が改善を続ければ、金融正常化への歩みを着実に進めたいとの意思表明だろう。

もっとも、日銀の見通しどおりに経済が進むとは限らない。異次元緩和が長く続けられ、かつ、オーバーシュート型運営として異次元緩和解除のタイミングを遅らせてきたために、リスクが表面化した際の影響は甚大になる可能性がある。

一つのリスクは、現時点では可能性は低いが、物価の上昇圧力が高まり、インフレを十分に抑えられなくなるリスクである。今回の世界的な物価高騰の局面では、米国は金融政策の転換が遅れた。その結果、物価と賃金の悪循環が生まれ、その後の急激な利上げを余儀なくされた。日本も、長きにわたる異次元緩和のもとで多額の資金供給と超低金利が続いてきただけに、このリスクも完全には否定できない。

「永遠の金融緩和」のリスク

もう一つのリスクは、金融の正常化を進めようとしても、短期金利の引き上げ頻度が限られてしまう可能性だ。物価2%が定着すれば、将来的には、長期金利は3%近くになるのが自然であるし、これに見合う短期金利は2%程度まで上がっておかしくない。

しかし、2024年夏の時点では、海外物価の上昇率はすでにピークを越えたとみられ、欧州ECBに続き米国FRBも近々利下げに転じると見込まれている。米国景気はソフトランディングがメインシナリオとなっているが、下方向のリスクもある。そうなれば、日本の景気への警戒感も高まるかもしれない。内外金利差の縮小で、為替相場が大幅な円高に向かうようなことがあれば、日銀が利上げを続けていくのは容易でないだろう。

こうした事態に陥るのは、異次元緩和が中途から採用したオーバーシュート型政策の結果でもある。オーバーシュート型の政策を採用したために、世界の経済・金融政策のサイクルと日銀の政策にズレが生じてしまった。この結果、短期金利の引き上げはせいぜい1%程度、場合によっては0.5%程度までしか行えないかもしれない。そうなれば、いわゆる「永遠の金融緩和」となりかねない。しかし、金融緩和は永遠に続けられるものではない。究極的には、実体経済の後退と物価の大幅上昇を招き、万一の場合には国への信認を低下させる危うい道である。

2024年7月末の利上げ後、金融市場は円相場の急騰と株価の急落に見舞われた。日銀は、事態の収拾を図るため、追加利上げを慎重に考える姿勢を表明したが、これは「永遠の金融緩和」のリスクと背中合わせの関係にあるものだ。金融の正常化には、やはり途方もない困難が待ち受けている。

異次元緩和の罪と罰
 


著者名 山本 謙三

発行 講談社

価格 1,210円(税込)
 

山本 謙三/オフィス金融経済イニシアティブ代表

1954年 福岡県生まれ。76年日本銀行入行。98年、企画局企画課長として日銀法改正後初の金融政策決定会合の運営に当たる。金融市場局長、米州統括役、決済機構局長、金融機構局長を経て、2008年、理事。金融機構局、決済機構局の担当として、リーマンショックや東日本大震災後の金融・決済システムの安定に尽力。2012年NTTデータ経営研究所取締役会長。2018年からはオフィス金融経済イニシアティブ代表として、講演や寄稿を中心に活動している。

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