為替ヘッジ「あり」「なし」問題で迷っている人が見落としている、たった一つの“決定的”な視点
Finasee / 2024年11月25日 12時0分
Finasee(フィナシー)
「ヘッジコスト」の要因から考える、為替ヘッジをすべきか否か
今回のテーマはずばり「為替ヘッジはすべきか?」。つまり海外の外貨建て資産に投資をする際に、外貨建て資産の価値が円高になることで円では目減り(つまり損)してしまうことを防ぐために、“為替ヘッジ“をした方が良いのか、それともしない方が良いのかについて考察する。
さて最近は日本株が上昇しており、ちょっと前の「投資するならとにかく日本ではなく成長性のある海外」のような風潮は薄れているのかもしれない。それでも金利に対する投資、すなわち債券やクレジットへの投資に関しては、まだまだ金利のほぼない日本では十分な利回りを得られる投資はほとんど存在せず、海外に目を向けざるを得ない。
海外であれば、10%くらいの利回りを期待できる投資対象は多く存在する。ただしそれは外貨建ての投資となり、日本円を基準にするとおなじみの為替リスクを負うことになる。
では為替リスクは“ヘッジ”すれば良いではないかというと、一概にはそうとも言えない。なぜならヘッジにはコストが掛かり、そのコストは“日本円と外貨の短期金利の差”を基本とするからだ(実際にはヘッジに使う取引の需給によって、もっとコストが掛かる場合がほとんどだ)。つまり、高金利の外貨資産に投資しても、為替ヘッジをすれば、結局得られる利回りは日本円の金利水準に戻ってしまうのだ。
ここで重要なのはヘッジコストを決めるのは“短期”金利の差であることだ。金利には長期金利もあれば、クレジットの金利もある。投資対象が長期金利だとしてもクレジットだとしても、ヘッジコストとして掛かるのはあくまでその時々の短期金利の差である。短期金利が相対的に高い今のような状況では、長期金利に投資して為替ヘッジすると、利回りはマイナスになってしまう。
高利回り期待の投資対象で考えると…さて、では高い利回りを期待できる米国のプライベートクレジットに投資をする場合を考えてみよう。
例えば米ドル建てで10%の利回りが期待できる投資としよう。そして短期金利は米ドルが5%、日本円が0%としよう。もし為替ヘッジを行えば、為替レートの変動による影響をあまり受けることなく、5%程度の利回りが得られることになろう(実際の為替ヘッジ取引のレートによっては、3〜4%になってもおかしくないが)。
それで十分儲かるので良いように思えるが、投資に係るリスクを忘れてはいけない。もともとの米ドル建て資産の投資元本が毀損する可能性も考慮に入れねばならない。毎年5%と元本も全て丸々取れるとも限らないのだ。
ここで、少し異なった観点で考えてみよう。そもそもヘッジしなければ年率10%もの利回りが期待できるなら、上手くいけば5年間で50%の金利収入が(米ドル建てで)入ることになる。
もし投資時のドル円のレートが150円、5年後の同レートが100円とかなりの円高になったとしても、投資元本は円換算でおよそ33%の毀損である。それまでに50%程度の金利収入が入っていれば、その金利収入自体にも為替損はあれ、収支トントン以上にはなる(つまり損はしていない)はずだ。
「元本回収スピード」を鑑み、トータルリターンを考慮する筆者は為替レートの方向は、全く予想できないものだと思っている。結果として為替ヘッジが功を奏する(つまり円高による為替損を防ぐ)か、逆にコストを払ってさらに為替益を取り損なう(つまり円安になったのにヘッジしたことにより為替益が得られない)のかは、将来の為替レート次第だが、可能性は両方に等分にあるものだと考えている。
一方で、利回りが高い投資は、利回り収入による投資元本の回収スピードが速く、後に元本が毀損したとしても、トータルリターンを確保できる可能性が十分にある。
従って、外貨資産が高い利回りを生むなら、為替ヘッジはせずに高利回りを損なうことなく得ていくという投資判断は、十分妥当性があると思うのだ。
ちなみに、この為替リスクと為替ヘッジ問題は、低金利の日本ならではの問題と言える。もし自国通貨が高金利なら自国で投資すれば為替リスクを負わずに高利回りが得られるし、また低金利通貨(例えば円)の資産に投資して為替ヘッジした場合、金利差が逆になるためヘッジコストの逆でヘッジプレミアムが得られるのだから。
木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO
野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。
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