「オルカン」のみで分散投資は十分? “みんなが選ぶ人気商品”だからこそ一歩立ち止まって考えたいこと
Finasee / 2024年11月22日 11時0分
Finasee(フィナシー)
新NISAが始まってから早くも1年がたとうとしている。毎月1兆円を超える資金が株式市場に流れ、1000兆円とも言われる日本の家計の預金資産が動き始めた。
他方、その資金流入先には偏りも生じている。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)、通称「オルカン」への資金流入だ。9月までの段階で、1兆8000億円の買い付けが行われ、年内には2兆円を超えるだろう。実際、周囲の学生を見ても、昨今の評判を聞いてかオルカンを最初の1本として選ぶ人が確実に増えてきている。
しかし、現状を鑑みるにオルカンへの過剰期待と2つのリスクの過小評価が行われていると考えている。投資の格言に「相場は常に正しい」という言葉がある。「株価」は多くの投資家の思惑が目に見える形となって現れる指標であるため、その期待度を反映する。逆説的には、正当な評価から逸脱しているという証拠でもある。日本政治は大きく動き、アメリカ政治も今まさに動こうとしている。
今回は、「オルカン」一辺倒の現状に対し、多くの人が見えていないリスクを踏まえながら、持続的な資産形成のあり方を考えていきたいと思う。
為替リスクの存在オルカンの運用方針に「各マザーファンド受益証券への投資を通じて、主としてMSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)に採用されている日本を含む先進国および新興国の株式等に投資を行い、信託財産の1口当たりの純資産額の変動率を対象インデックスの変動率に一致させることを目的とした運用」と記載されている通り、為替ヘッジなしで海外株式に投資を行うため円換算を行った際に為替の影響を受ける。
「オルカン」のベンチマーク指標である「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」の基準価額が717.38$(2022年始値)→836.87$(2024年11月1日)とわずか16%程度の値上がりに過ぎないのに対し、円安の影響を受ける「オルカン」の基準価額は1万5900円(2022年1月31日)→2万5962円(2024年11月1日)と63%程度の値上がりを示している。
円安の影響を受けたことでベンチマークから大きくかけ離れた水準となっているが、これまでの円安基調から円高基調へと変化する材料がポツポツと出始めていることに注意しなければならない。
単純な話として、1ドル150円の時に100ドル分の米国株を購入した場合、円換算では1万5000円になる。しかし、円高が進み1ドル115円(2022年1月1日と同じ水準)になった場合、同じ米国株は1万1500円と評価され、3500円の損失が発生する。
オルカンの運用資産の大半が外貨建て資産であるため、為替の影響を受けやすい商品と言える。もし、為替が円安の進む前の2022年初頭の水準まで戻れば、新NISA以降で「オルカン」の買い付けを始めた人は一時的な含み損を抱えることに留意しなければならないだろう。
地域偏重のリスクの存在もう1つのリスクは、アメリカへの投資比率が約6割を占めていることである。現状、アメリカの景気指標は底堅さを示しており、景気悪化による株価の急落はあまり起こりそうもない。
他方、直近の大統領選の結果を受けての為替や株価の動きは予想できないが、大きく動くのはほぼ確実である。「オルカン」ではそうしたアメリカの政治経済の動きをヘッジできないことも注意しなければならない。
信託報酬の安さは投資家にとって良いことか?よく「オルカン」の良さに1つに、「信託報酬の安さ」をあげる人がいる。確かに「オルカン」の信託報酬は0.05775%と非常に低コストで全世界の株式に投資できる魅力的な商品である。
一方、投資信託の魅力というのは、運用会社が世界に4万社あると言われる上場企業をリサーチし、個人投資家では調べ尽くせない優良な銘柄を顧客が投資できるようにすることではないのだろうか。
「オルカン」で投資される銘柄は世界でも名の通る大企業が多い。投資単価を下げるという意味では有用であるが、個別で投資をした方が配当を直接受け取れ、信託報酬もかからない。
我々は「オルカン」という存在を評価しすぎるあまり、別の選択肢を検討する機会を失っているのではないだろうか。
***「オルカン」は、確かに全世界の株式に分散投資できる手軽な商品であり、新NISAでも有力な選択肢の1つである。しかし、為替リスクや地域偏重リスクといった側面も存在することを忘れてはならない。
特に、現在の円高リスクは軽視できない。仮に円高に転じれば、オルカンの基準価額は大きく下落する可能性があり、新NISAで購入した投資家は含み損を抱える可能性もある。また、アメリカ大統領選挙を終えたいま、アメリカ経済の行方にも注意が必要だ。政治状況の変化によっては、アメリカ株式市場、ひいてはオルカンの基準価額が大きく変動する可能性もある。さらに、信託報酬の安さだけに注目して、安易にオルカンに投資するのも考えものだ。
特に学生などの若年層においては、長期的な資産運用が前提になることもあり、個別株投資や他の投資信託など、オルカン以外の選択肢も検討する価値はあるだろう。
執筆/学生投資連合USIC 根岸理央
学生投資連合USIC
全国33大学1100人以上で構成される日本最大の金融系学生団体。2008年の創設以来、「日本を学生から金融大国に」というビジョンのもと、学生の金融リテラシー向上に取り組んでいる。主な活動内容は、国内外の金融関係企業と合同で開催する勉強会・セミナーの運営、学生向け金融・投資のフリーペーパー「SPOCK」(累計発行部数24万部)の発行、全国の上場企業・大学生を巻き込んで行う「IRプレゼンコンテスト」の主催。近年は、メディアでの発信に注力するほか、制度面への働きかけを通じて、若年層の投資のしやすい環境づくりにも取り組んでいる。2024年現在、全国 33大学のサークル・約1100 名が加盟し、北は北海道、南は九州までのネットワークを有する、日本最大規模の金融系学生団体となっている。Xアカウントは@usic_spock。
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