「Tracers S&P1000インデックス(米国中小型株式)」でも注目。「S&P1000」は「S&P500」と何が違うのか
Finasee / 2024年11月19日 19時40分
Finasee(フィナシー)
“500”は有名だが…「S&P100」や「S&P1000」という株価インデックスも存在
先般、社名変更を発表した日興アセットマネジメントが、S&P1000という株価インデックスへの連動を目標とするインデックスファンドを、11月12日に設定しました。ちなみに、日興アセットマネジメントの社名は2025年9月から、「アモーヴァ・アセットマネジメント」に変更される予定です。
新しく設定されたインデックスファンドの名称は、「Tracers S&P1000インデックス(米国中小型株式)」で、NISAの成長投資枠で購入できます。米国の株価インデックスに連動するとはいえ、国内籍投資信託なので基準価額は円建てになります。
したがってその基準価額は、米ドル建て資産の値動きとドル/円レートを掛け合わせたものになるため、円安が進めば為替差益で基準価額を押し上げ、逆に円高が進めば為替差損で基準価額を押し下げる力が働きます。この点は留意が必要でしょう。
直近では「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の純資産総額が日本の公募投信で(除くETF)、過去最大になったことも含め、2024年1月にNISAの制度見直しが行われて以降、個人の間では、米国を代表する株価インデックスであるS&P500に連動するタイプの投資信託が人気を集めています。
S&P500は、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場されている銘柄の中から500銘柄を抽出して構成銘柄とし、指数化したもので、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスLLC(以下、S&Pダウ・ジョーンズ社)という会社が算出・公表している、米国を代表する株価インデックスといって良いでしょう。
S&Pダウ・ジョーンズ社は、S&P500以外の株価インデックスも算出・公表しています。よく経済ニュースなどで取り上げられるNYダウ工業株30種平均や、今回、日興アセットマネジメントが設定したインデックスファンドが連動目標とするS&P1000も、そうです。
中でもS&Pを冠した株価インデックスには、前出のS&P500やS&P1000の他に、S&P100もあり、特に米国株インデックスで資産を運用している人たちにとっては、興味のあるところではないでしょうか。
S&P100は、大型株によって構成されているインデックスまず、S&P500とS&P100の違いについて説明します。
S&P500は前述したとおり、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場されている銘柄の中から500銘柄を抽出して構成銘柄とした株価インデックスです。そしてS&P100は、S&P500のサブセクターで、米国上場企業のうち優良企業群で構成されているS&P500のうち、さらに時価総額で上位100位に入っている銘柄で構成されています。つまりS&P100は大型株によって構成されている指数と考えて差し支えないでしょう。
恐らく、読者の方が一番気になるのはパフォーマンスだと思います。S&P関連の持株会社であるS&Pグローバルのサイトに掲載されている各種S&Pインデックスのデータで比較してみましょう。
2014年10月31日を100として、S&P100とS&P500の値動きを比較すると、2024年11月15日時点のS&P100は382.66、S&P500は349.58で、時価総額上位100銘柄を抽出して算出されたS&P100の方が、より高いリターンを上げています。
10月31日時点のセクター別構成比率を見ると、表で示したように、両者のそれは明らかに違います。「情報技術」と「通信サービス」の比率が高いのはS&P100の方です。
●S&P100、S&P500およびS&P1000のセクター別構成比率
筆者作成また、ウエイト上位10銘柄を見ると、S&P100もS&P500も同じではあるのですが、全体に占めるその比率が、S&P100は50.3%であるのに対し、S&P500は34.9%です。
この、ウエイト上位10銘柄には、アップル、エヌビディア、マイクロソフト、アマゾン、メタ・プラットフォーム、アルファベット(グーグル)という、いわゆるGAFAMが含まれていますので、ウエイト上位10銘柄の比率が高いS&P100は、GAFAMの株価上昇による恩恵を、より強く受けてきたと考えられます。
ちなみにS&P500に連動する投資信託は、ETFも含めると多数設定・運用されているのですが、S&P100に連動するタイプは現状、運用されていません。
以前はETFで、ブラックロックが「iシェアーズ 米国超大型株ETF-JDR(S&P100)」をJDR(日本預託証券)という形で発行し、東証に上場していたのですが、2018年1月22日付で上場廃止となりました。
S&P1000は、米国の中小型株1000銘柄で構成されたインデックスでは今般、日興アセットマネジメントが設定したインデックスファンド、「Tracers S&P1000インデックス(米国中小型株式)」が連動目標としているS&P1000とは、どういうインデックスなのでしょうか。
S&P100が時価総額上位100銘柄で構成された大型株のインデックスであるのに対し、S&P1000は米国の中小型株1000銘柄で構成されたインデックスです。日興アセットマネジメントの資料によると、2024年8月末時点の米国株式市場時価総額は57兆8000億米ドルで、このうち86.3%がS&P500の構成銘柄で占められているのに対し、S&P1000の構成銘柄はこのうち7.7%を占めているだけに過ぎません。それだけ1社あたりの時価総額が小さいことを意味します。
そのためセクター別構成比率もS&P100やS&P500とはだいぶ違います。
「情報技術」と「通信サービス」を合わせた構成比率は、S&P100だと50.7%を占めますが、S&P1000では12.1%に過ぎません。その代わりに資本財や金融、一般消費財が大きな部分を占めています。またウエイト上位10銘柄が全体に占める比率も、S&P100の50.3%、S&P500は34.9%に対し、S&P1000はわずかに4.5%です。そういう意味では、S&P100やS&P500に対するパフォーマンスにも、かなりの違いがあるのではないかと考えられます。
では、実際のところはどうなのでしょうか。
これについて、日興アセットマネジメントの資料では、1999年1月4日を起点にしたS&P500とのパフォーマンス比較が掲載されており、2024年8月30日までだと、S&P1000がS&P500を大きく上回っていることが分かります。このグラフを見れば、大半の人は「S&P500よりもS&P1000で運用した方が有利ではないか」と思うのではないでしょうか。
ひとつだけ注意点を挙げておきます。
データはいつを起点にするかによって、それを見た人の印象を大きく変えられます。1999年1月4日を起点にした比較では、確かにS&P1000がS&P500を大きく上回っていますが、たとえばS&P100、S&P500、S&P1000について、2014年10月31日を100として、2024年11月15日までの推移を比較すると、どうなるでしょうか。計算結果は以下のようになります。
S&P100・・・・・・382.66
S&P500・・・・・・349.58
S&P1000・・・・・・261.04
●S&P100、S&P500、S&P1000の推移(米ドルベース)
筆者作成差は歴然としており、S&P1000はS&P100やS&P500に対して、大きく劣後しています。
これは年次データを見ても明らかで、S&P1000が他の2指数を大きくオーバーパフォームしたのは2016年と、2022年が他の2指数に比べて下落率を低めに抑えられたくらいで、残りの年次では、他の2指数に対してかなり後れを取っています。特に金利上昇局面において、中小型株は大型株に比べて業績が悪化しやすい特性があり、それが色濃く表れたと考えられます。
●S&P100、S&P500、S&P1000 毎年の騰落率(米ドルベース)
筆者作成いずれにしても、データを見る時には複数の切り口から見た方が、より正確な事実に近づけるということです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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