頑張って保険料を納めてきて良かった…事故を乗り越えて働く60代男性を救った「厚生年金加入のメリット」
Finasee / 2024年11月25日 11時30分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
順一さん(63歳)は10年前の事故で手足に障害が残り、障害等級2級の障害年金を受給中。現在、障害基礎年金、障害厚生年金、加給年金、障害年金生活者支援給付金で年間226万円を受け取っています。妻の泉さんは家計を支えるため、短時間勤務で働いています。
63歳の誕生日を迎えた順一さんは、「ねんきん定期便」に記載された65歳からの老齢年金が現在の障害年金より少ないことを見て、年金事務所に相談に訪れます。
そこで職員から「65歳からの年金は今より増える」との説明を受け、驚きとともに老後の不安が軽減されていきました。
●前編:【「年金は今より増えますよ」給与の大幅ダウンを嘆く60代男性…尽きない老後不安を解消した年金の“新事実”】
65歳から変わる受給パターンは要確認!会社に勤め、これまで厚生年金に加入していた順一さんの場合、年金は基礎年金と厚生年金があり、2階建て制度となっています。障害基礎年金と障害厚生年金を受給している順一さんが65歳になると老齢基礎年金と老齢厚生年金の受給権を得ることになります。
障害基礎年金、障害厚生年金、老齢基礎年金、老齢厚生年金の4つの権利があることになります。しかし、これらを全て受給できるわけではなく、調整されて受給することになります。順一さんは「年金は全て受け取れないというのは聞いたことがある」と言います。
本来、年金の種類が異なる老齢年金と障害年金はあわせて受給することができません。しかし、65歳以降、①「老齢基礎年金と老齢厚生年金」、②「障害基礎年金と障害厚生年金」だけでなく、③「障害基礎年金と老齢厚生年金」の組み合わせで受給することも可能となっています。
つまり、1階部分の基礎年金と2階部分の厚生年金の組み合わせのパターンとしては①②③の3つとなります。
65歳から増える年金老齢基礎年金は75万円に対し、障害基礎年金は81万6000円、2階建ての1階部分の年金は障害基礎年金が高いことになります。一方、2階部分は障害厚生年金115万円より老齢厚生年金135万円のほうが高く計算されます。
妻の泉さんがいることによって加算されている障害厚生年金の加給年金は23万4800円ですが、老齢厚生年金にも加給年金があり、こちらは特別加算額込みで40万8100円となっています。つまり、障害厚生年金を選択するより老齢厚生年金を選択するほうが加算額も多くなります。
年金生活者支援給付金については、障害基礎年金を受給すると上乗せされる障害年金生活者支援給付金を受け取っています。老齢基礎年金に上乗せされる老齢年金生活者支援給付金もありますが、老齢年金生活者支援給付金は支給条件となる所得基準額が低く設定され、非課税世帯であることも条件であることから、支給されそうにありません。
仮に支給されたとしても、現在の障害年金生活者支援給付金より低い額となりそうです。そのため、65歳以降も引き続き障害基礎年金を受けていれば、現在の障害年金生活者支援給付金が支給され続けることになります。
結果、③が最も金額が高くなります。障害基礎年金81万6000円、老齢厚生年金約135万円、加給年金40万8100円、障害年金生活者支援給付金6万円強で合計263万円以上と今の226万円よりも多く支給されることになります。非課税の障害年金と異なって老齢年金が課税対象になることを考慮しても、障害者手帳の交付も受けていて税法上障害者控除の対象にもなるため、③のパターンがベストでしょう。
なお、加給年金については、老齢厚生年金、障害厚生年金いずれを選択しても、泉さんが65歳になると加算されなくなります。
保険料は掛け捨てになっていない障害厚生年金は障害認定日(原則、障害の原因となるケガや病気の初診日から1年6カ月経過した日)までの厚生年金加入月数でしか計算されません。
しかし、順一さんは引き続き現在まで短時間勤務でも厚生年金に加入し続け保険料も掛けてきたため、老齢厚生年金がその分増え続けていたことになっています。63歳時点での「ねんきん定期便」では135万円ですが、65歳まで引き続き勤務すればさらに増やすことも可能となっています。
「短時間勤務で働きながら払った保険料も65歳からの老齢厚生年金に反映されるのか。頑張って払ってきたことも意味があったのですね」と、保険料が掛け捨てになっていなかったことも理解し、「あまり身体の自由が利かないけど、頑張れるだけ頑張って働いてみよう」と65歳までこのまま厚生年金を掛け続けることにしました。
こうして、障害年金を受け続けていた場合も65歳で老齢年金が受けられるようになり、65歳で老齢年金の手続きが必要であることを理解しました。受給できる年金の内訳や受給合計額が変わるため、その手続きは大きな意味を持つようになります。65歳前から障害年金を既に受給している場合、65歳になったらどのように年金が変わるか、65歳前にあらかじめ確認し、必要な手続きは忘れずに行うことが大切です。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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