【石破政権の政権運営に暗雲】懸念ポイントを解説
Finasee / 2024年11月25日 7時0分
Finasee(フィナシー)
解散総選挙後の石破政権の政権運営スタンス
自公政権は先の衆議院選挙で過半数割れした。すぐに取り組むべきは、政治とカネに決着をつけ、補正予算を成立させることだ。補正予算の目的は能登半島地震の復興需要と景気対策が目的なので時間的猶予はない。
そこで、自公政権は、まずは野党案をほぼ丸呑みして政治とカネの問題に決着をつけ、すぐに補正予算に進むとみられていた。補正予算では、従前の政策の不備を修正することで、特に経済政策が改善される可能性があった。選挙結果が判明した後にやや株価が上昇したのは、この期待を織り込んでのことだった。
ところが、最近になってこのスタンスに暗雲が垂れ込み始めた。政治とカネの問題が遅々として前に進んでいない。更に、ここにきて先行きに不安感を抱かずにはいられないニュースが立て続けに出た。まだ初期ではあるが、事態の推移を慎重に見定め、状況次第で考え方を変える必要がある。ポイントを指摘しておこう。
(1)ガソリン代補助
ガソリン代補助の支給方法には2つある。1つは石油業界の業者への補助金だ。もう1つは税率を下げることで消費者が直接的にメリットを受けられるようにする方法だ。
自公政権は、コロナ禍以降に始まったガソリン代補助を、業者向け補助金の形で支給し続けた。この方式には明らかな問題がある。それは、石油業者や関連業者が主としてその恩恵を受け、消費者まで届かないのではないかという疑念だった。そしてその疑念が事実であることを会計検査院は明確に具体的事実として指摘している(*1)。一方、国民民主党(以下、国民民主)が求めるトリガー条項の凍結解除は、税率の引き下げなので、このような疑念は生じえない。
この状況で自公政権は、補正予算に組み込むガソリン代補助について、従来と全く同じ業者向け補助金で支給する案を打ち出した(*2)。補正予算の成立には野党の協力が必要だ。それにもかかわらず自公政権は、なぜ会計検査院の指摘と国民民主の要求を軽視する補正予算案を出したのか疑問だ。これから国民民主との交渉に入るので、バーを上げた可能性がない訳ではない。しかし、そのような高等戦術を駆使するとは考えにくい。
(2)年収の壁
年収の壁には所得税と地方税の103万円、社会保険の106万円と130万円など何種類かがある。このような他省庁にまたがる案件は、官邸が主導してトップダウンで進めるのが常道だ。ところが、そうした動きが見えない。むしろ正反対に、地方税を管轄する総務省や社会保険を管轄する厚生労働省がバラバラな動きをしている。官邸にはリーダーシップを期待したい。
(3)日中首脳会談
日中首脳会談が11月15日(現地時間)に開催された。ペルーで開催されたAPEC首脳会談の機会を利用して岸田前政権が進めた日中関係正常化を進展させること自体は既定路線だった。そしてそれは、岸田前総理とバイデン大統領が進めた堅い信頼関係を前提としている。堅い信頼関係の1つが日米統合作戦本部の創設など日米同盟の緊密化だ。
しかし、石破総理とトランプ次期大統領の間に信頼関係が築かれているとは言い難い。しかも、石破・トランプの電話会談の順番が他国と比較して遅い、会談時間も5分と短い、と既に指摘されている。ただ、石破総理はトランプ本人について「非常にフレンドリーな感じがした」と表現した(*3)。
故安倍元総理は2016年にトランプ氏が大統領選挙で当確となってすぐに仲介のための特使を派遣して会談を申し込み実現させた。石破総理は、日中首脳会談の後にフロリダのトランプ邸に立ち寄っての会談を申し込んだものの、断られたと指摘されている。少なくとも日中首脳会談の後ではなく前に会談を申し込むべきだった。会談実現に向け特使を派遣したという報道もない。このような行動によって、トランプ次期大統領に、石破政権は日米関係よりも日中関係を優先しているとみなされるリスクがあることは、明確に認識すべきだろう。
(4)日英2+2
(3)の懸念を増幅される驚きのニュースがこれだ。11月13日にNHKは以下のように報じた(*4)。
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「関係者によりますと、日本とイギリスの両政府は今月(11月)ブラジルで開かれるG20サミットにあわせて、石破総理大臣とスターマー首相が首脳会談を行い、外務、経済閣僚による経済分野の協議の枠組み、経済版「2プラス2」を新たに設ける方向で調整を進めています。(中略)世界経済をめぐっては貿易などを通じて影響力を強める中国を念頭に経済安全保障への対応が課題になっているほか、アメリカ大統領選挙で保護主義的な政策を掲げるトランプ氏が当選するなど、先行きの不透明感が増しています」
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婉曲な表現だが、関税引き上げなどトランプ政権への対応を日英共同で進めるとの観測記事だと言うのだ。このタイミングでスターマー政権と接近し、トランプ政権発足後に備えるというのは、国際政治の感覚として違和感がある。というのも、この政権は米国大統領選挙に介入して、ハリス陣営に肩入れした疑惑があるからだ(*5)。2016年の大統領選挙にはロシアが介入した疑惑があり、米国では特別検察官を設置して解明が進められた。今回、スマーター政権が本当に選挙に介入したかどうかは現時点では判然としない。とはいえ疑惑の渦中にあるスターマー政権と共同戦線を張り、関税引き上げなどトランプ政権の保護主義的な政策に備える日英2+2を創設するとは、国際感覚に疑問を持たざるをえない。しかも、その直後のタイミングで上述のようにトランプ氏との面談を申し込んだというのも理解し難い。米国サイドから曲解されるリスクがあることは否定できないだろう(脱稿11月18日)。
*1:「ガソリン補助金、小売価格の抑制効果に疑問 検査院調査」日本経済新聞 2023年11月7日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE0264K0S3A101C2000000/
*2:「政府が経済対策で低所得者向け給付金を1世帯3万円とする方向で検討に入った」時事通信社 2024年11月13日
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024111301144&g=flash
*3:「トランプ氏と電話会談の石破首相『非常にフレンドリーな感じがした』『本音で話ができる方だという印象』」読売新聞 2024年11月7日https://www.yomiuri.co.jp/politics/20241107-OYT1T50059/
*4:「日英 経済版『2プラス2』新設で調整 日本にとり米に続く2例目」NHK 2024年11月13日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241113/k10014637571000.html
*5:「トランプ陣営、『大統領選に英与党が干渉』と申し立て」CNN 2024年10月23日
https://www.cnn.co.jp/usa/35225267.html
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りそなアセットマネジメント マーケットレポート内「黒瀬レポート」https://www.resona-am.co.jp/market/report/#tabSwitchC03
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黒瀬 浩一/りそなアセットマネジメント チーフ・エコノミスト/チーフ・ストラテジスト
1999年より20年以上にわたり、エコノミスト/ストラテジストとして資産運用業務に一貫して従事。「りそなの顔」としてBSテレビ東京「日経+9」、日経CNBC「昼エクスプレス」等のレギュラーコメンテーターを務めるなど、情報メディアへの執筆・出演も多数。2023年からはNewsPicksプロピッカーとして「THE UPDATE」などに出演中。
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