相談なしに高額な買い物をするパートナーはアリ? ナシ? 交際1カ月の同棲カップルに訪れた「意外な結末」
Finasee / 2024年12月5日 18時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
瑠璃(34歳)は結婚に焦っていた。11月の連休を使って、独身仲間の友人と出雲大社に良縁祈願へ行った。
そのかいあってか、マッチングアプリで知り合った大貴(31歳)と趣味や価値観が似ていることが分かり、盛り上がる。結婚への価値観も似通っていた瑠璃たちは、交際1カ月で同棲を始めることになった。
ある日、大貴が相談なしに30万のロードバイクを買ってきた。健康のためだというが、良いと思ったものには糸目をつけずお金を使う大貴に、瑠璃は面を食らう。
相談くらいしてよと伝えるが、大貴は「俺たちもう大人じゃん。なんで自分で稼いだお金を使うのにいちいち瑠璃の許可がいるの?」と、あきれた態度を取られてしまう。
●前編:「なんで自分の稼いだ金を使うのに許可がいるの?」交際1カ月で同棲に至ったカップルの「お金のモヤモヤ問題」
相談なしの高額な買い物はあり・なし?「だってさ30万だよ。そんなものをさ、相談もなしに買ってきちゃうってちょっと変じゃない?」
ロードバイクの件があってから2日後、瑠璃は光莉とランチを食べながら大貴のことを愚痴っていた。
「まあ、瑠璃の気持ちは分かるよ」
「普通さ、一緒に住んでるんだから相談くらいしてくれても良くない? 自転車なんていっぱいあるのに、わざわざそんな高いものを買うなんてさ……」
ロードバイクを購入した日、お互いに気まずさを感じているのかあまり会話をすることはなかった。それからロードバイクについて大貴と話をすることはない。お互いにこの件について話をするとけんかになるだろうということを、なんとなく理解しているからだ。
ここまであっという間に同棲まで来たので、瑠璃たちは1度もけんかをしたことがなかった。一緒に暮らしているとは言っても、まだ出会って3カ月。お互いのことをよく知り、関係が成熟しているとは言いがたい。もし今回できた心の溝が埋まらない状態が続けば、燃え上がっていた愛情が冷めて関係解消になる可能性すらあるのではないかと思った。
「まあ、瑠璃の気持ちは分かるけど、私は別にその彼氏が悪いとは思わないけどなぁ」
話を聞いていた光莉は安穏とした口調でケーキをほおばる。
「え? 何でよ?」
「だってさ、別に同棲しているだけでしょ? 結婚してたら別だけど、まだ同棲なら別に相談しなくてよくない? 家賃とかそういうのは払ってくれてるし、家事とかだってきっちり分担なんでしょ?」
「う、うん。それはちゃんとしてくれてる……」
「だったらそんなに文句言わなくていいんじゃない? やるべきことはちゃんとやって、余ったお金を使って自分がなにをしようと勝手じゃん。それで口出しをされたら、私だったらちょっと嫌かもな……」
光莉の意見を聞いて、瑠璃は目線を落とす。
それがきっと大貴の意見なんだと思う。やることはやってる。だとしても、瑠璃は自分の言ってることが間違ってるとも思えない。
「でもさ、単なる同棲じゃないんだよ。結婚を前提としているやつじゃん。そうなるとこの段階から将来に向かって貯金とかそういう話になるよね?」
「でも2人の貯金に手を付けたとかじゃないんでしょ?」
光莉の言葉に、瑠璃は力なくうなずく。
「ほら、だったら悪くないじゃん。お金の使い道がギャンブルとかでもないんだし、怒るようなことじゃないって」
光莉の意見は筋が通っている。それでもあのとき、怒ってしまったのは将来に向けて貯金をしていこうと言うのは当然、分かってくれてると思ったからだ。
大貴とは初対面のときから何でも話があった。結婚観だって似ていた。だからこそ大貴とは言わなくても通じ合えているのだと思い込んでいた。
だからこそ、瑠璃は大貴の行動が裏切りだと感じてしまった。本当はそんなことはなく、大貴はただ、いい買い物をしたんだという喜びを、瑠璃と分かち合いたいだけだったのだろう。
「まあでも、2人のことだし正解なんてないと思うけどね。ちゃんと話してみるのがいいんじゃない?」
「うん……」
「てかそういう幸せな悩みはいいからさ、大貴さんの友達とか紹介してよ」
光莉はわざとらしい明るさで言って、デザートに頼んだパフェを頰張った。瑠璃は光莉の言葉通り、大貴と話してみようと思った。
大貴からの謝罪話をしてみようと思ってから1週間が過ぎた。まだ話せていなかった。話さなければいけないと思えば思うほど、何と言って切り出したらいいか分からなくなった。
大貴のほうも、ロードバイク通勤こそ続けているようだったけれど、特にそのことを話題に出すこともない。2人のあいだに会話はあるものの、核心を避けて言葉を選んでいるような、そんな空気があった。
「瑠璃、この間のことなんだけどさ……」
だから、2人でアニメを見ているときにそう切り出してきた大貴の言葉が醸しだす雰囲気を、瑠璃は敏感に感じ取って息をのんでいた。
「この間のことって?」
「ロードバイクのこと」
瑠璃はとぼけてみたが、大貴は真っすぐに踏み込んできた。大貴は流れているアニメのエンディングではなく、瑠璃のことを真っすぐに見ている。
「う、うん……」
やっぱり納得できないから別れよう――。そう言われるのではないかと不安に思ったので、瑠璃の返事は歯切れが悪かった。
しかし大貴は深々と頭を下げた。
「本当にごめん。1回ちゃんと瑠璃に相談するべきだった。前から買いたいと思ってたヤツが入荷しててさ、それで思わず買っちゃったんだ。せめて買う前に瑠璃に連絡を入れるべきだったよね……」
大貴から謝罪をしてきたことに瑠璃は面を食らう。
「……何で急に、そんな、謝ろうと思ったの?」
「実は、この前、友達にロードバイクのことを相談したんだ。瑠璃が怒ってた理由がいまいち分かんなくてさ。そしたら、友達にお前バカかよって怒られた。大学生じゃないんだから、将来のことちゃんと考えて貯金とか、そういうの彼女は考えてたんだろって。言われて、俺、確かにって思ってさ」
大貴から謝られて気づいたが、瑠璃自身、もう大貴のことを怒ってはいなかった。ただ単に恐れていた。2人の関係に取り返しのつかない溝が生まれてしまうことが、大貴に別れを告げられるかもしれないことが、怖かった。
だから、瑠璃の口からも、謝罪の言葉は素直にあふれた。それが正直な気持ちだった。
「ううん。私もごめんなさい。大貴はただ、うれしい気持ちをおすそ分けしようとしてくれただけだったのに、頭ごなしに価値観押し付けてたよね。貯金のこともさ、大貴と私ってなんだかんだ価値観が似てたから、そういうのも分かってるはずだろうって勝手に甘えちゃってたと思う」
うつむいた瑠璃を、大貴は優しく抱きしめた。
「……こんなことなら、最初からちゃんと話し合えばよかった」
大貴の言葉に、瑠璃もうなずいた。
しかし瑠璃は、こうしてお互いの価値観の違いを知れたことはよかったようにも思っていた。1度大きな溝が生まれたからこそ、2人は今こうしてより強固な気持ちで結ばれているのだという実感があった。
35歳のバースデーそれから3カ月がたち、瑠璃は大貴と付き合うようになって初めての誕生日を迎えた。
盛大に祝おうと大貴は言ってくれたが、平日だったこともあり、家で大貴の作ったロールキャベツと、有名パティスリーのケーキを食べた。プレゼントは、最近なくして困っていた新品のBluetoothイヤホンだった。
「実はね、もう1つプレゼントあるんだ」
そう言って、大貴は手のひらに収まるほどの小さな箱を取り出した。
「これ、相談なしに買っちゃったんだけど怒らないでね」
「何それ」
大貴は冗談めかして言いながら、ゆっくりと箱を開ける。箱の中にはダイヤモンドが光るリングが収まっていた。
「瑠璃さん、俺と結婚してください」
「はい、喜んで」
ふたつ返事でうなずいた瑠璃を見て、大貴はうれしそうに笑っていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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