残高500億円「楽天・高配当株式・米国ファンド」に続き「SBI・S・米国高配当株式ファンド」も登場へ。SCHD人気の裏にある注意点は
Finasee / 2024年11月30日 13時0分
Finasee(フィナシー)
「シュワブSCHD」に投資できる投資信託が、楽天投信投資顧問とSBIアセットマネジメントから登場
「シュワブ・米国高配当株式ETF(SCHD)」が話題を集めています。文字通り、米国の高配当株式を組み入れて運用するETFで、ダウジョーンズ配当100インデックスに連動する投資成果を目指します。
ブルームバーグが公表している、11月28日時点のデータによると、ポートフォリオは「シスコシステムズ」、「ブリストルマイヤーズスクイブ」、「ホーム・デポ」、「ブラックロック」、「シェブロン」、「ベライゾン・コミュニケーションズ」、「ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)」、「テキサス・インスツルメント」、「アルトリア・グループ」、「アッヴィ」が組入上位10銘柄で、全体では103銘柄を組み入れています。2011年10月20日から運用が始まっており、1口あたりの価格は29ドル44セント。直近配当利回りは税込みで3.42%、経費率は年0.06%です。
以上が「シュワブ・米国高配当株式ETF」の全体像ですが、同ETFがインデックスファンド愛好家の間で話題になっているのは、楽天投信投資顧問とSBIアセットマネジメントが、同ETFを主要投資対象とする国内籍公募型投資信託を設定・運用したからです。
ちなみに楽天投信投資顧問のそれは「楽天・高配当株式・米国ファンド」で、9月27日に設定、販売開始されました。以来、わずか40日後の11月5日には、純資産総額が500億円に達する人気ぶりを見せています。
また、SBIアセットマネジメントも、12月20日に同じETFを主要投資対象とする「SBI・S・米国高配当株式ファンド」を設定する予定です。ちなみに両ファンドとも四半期決算で、その都度、分配金が支払われます。
運用開始日が違う点を除き、両ファンドの異なる点を挙げると、信託報酬率と決算月でしょう。「楽天・高配当株式・米国ファンド」の信託報酬率は年0.192%で、分配月は2、5、8、11月の各25日。対して「SBI・S・米国高配当株式ファンド」の信託報酬率は年0.1238%で、分配月は3、6、9、12月の各19日になります。
信託報酬の差については、ほぼ誤差の範囲内といっても良いでしょう。運用資産残高の平均が1000万円とした場合、両者の信託報酬の差は6820円です。あまり神経質になる必要はありません。
これはやや戯言ですが、両方とも買ってみるのも、ひとつの手です。そうすれば毎年、2、3、5、6、8、9、11、12月というように、年8回の頻度で分配金の支払いを得ることができます。資産形成層にはあまりお勧めできませんが、資産活用層の方々には魅力的な運用方法かもしれません。
資産形成層にとって“ぴったり”とは言えない…!?では、資産形成層にとって、高配当銘柄を組み入れ、高い分配金を出す仕組みを持った投資信託による運用は、はたして有効なのでしょうか。
資産形成層の運用で重視するべきは、決算日の度に受け取る分配金の多寡ではありません。
大事なのは成長性です。
この点を考えると、「シュワブ・米国高配当株式ETF」という、高配当銘柄を組み入れたETFは、資産形成層の投資対象としては、必ずしも適切とは言えないところがあります。
そもそも、高い成長が期待されるビジネスを営んでいる企業は、配当金を支払いません。これは株主に対して、どのような形で報いるのかということに関係しているのですが、成長著しい企業の場合、優先すべきは少しでも早く、より大きく企業を成長させることにあります。
そして、そのためには手元に豊富な資金を保持しなければなりません。豊富な手元資金を使ってさまざまな投資を行い、少しでも早く、より大きく企業を成長させる必要があるからです。成長の真っ盛りにある企業は、配当という形で株主に報いている余裕など、全くといって良いほどないのです。
しかし、だからといって成長企業が全く株主に報いないというわけではありません。企業が成長すれば、売上と利益が大きく伸びます。そして、売上と利益が伸びれば伸びるほど、株価は大きく値上がりします。売上と利益の伸びは、企業価値の向上とイコールになるからです。つまり成長企業は株価の値上がり益、つまりキャピタルゲインの増大によって、株主に報いているのです。
一方、企業の売上や利益が大きくなればなるほど、一般的に成長率は下がっていきます。10億円の売上を20億円にするのは簡単でも、1000億円の売上を2000億円にするのは至難の業です。なかには売上や利益が大きくなっても、なお高い成長率を維持する企業もありますが、それは極めてまれなケースです。
また産業そのものが成熟すれば、徐々に新規投資の機会も少なくなっていきます。新規投資が少なくなれば、企業は多額の現金を抱えることになります。いわゆるキャッシュリッチ企業になっていくのです。
しかし、現金をたくさん抱え込むと、今度は資本効率が低下して、株価の下落を招く恐れが高まります。結果、成熟段階に入った企業は配当という形で株主に報いようとします。同時に高配当、あるいは増配を何年にもわたって継続できる企業は、景気の良しあしに関係なく着実に業績を維持できる企業であると投資家から評価され、株価が下がりにくくなるメリットも生じてきます。
また高配当銘柄への投資は、投資効率を下げる恐れにつながります。
配当金の原資は、法人税を差し引いた残りの利益です。そして、株主が配当金を得た場合、その配当金にも課税されます。企業は株主のものであり、利益は株主に帰属するものという認識に立てば、株主は本来得られる利益から法人税と、配当課税という二重課税を余儀なくされます。それは言うまでもなく投資効率を下げることにつながります。
このように考えると、高配当銘柄を組み入れた投資信託による運用は、これから資産形成を進めていく人たちにとって、決して最善の選択とは言えなさそうです。「シュワブ・米国高配当株式ETF(SCHD)」が話題になっているのは分かりますが、実際に投資する場合は、そのあたりを慎重に見極めた方が良さそうです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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