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「俺、1000円でいいですよね?」最悪な合コンに救世主が…遅れてやってきたハイスぺ30代男性の「ヤバい本性」とは?

Finasee / 2024年12月12日 18時0分

「俺、1000円でいいですよね?」最悪な合コンに救世主が…遅れてやってきたハイスぺ30代男性の「ヤバい本性」とは?

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

真美(31歳)は数合わせで誘われた合コンに参加していた。自己紹介をしていると、どうやら男性側にお店を任せておいたようで、大きな鍋が卓に運ばれてくる。

合コンで鍋って……と、女性一同はセンスを疑いながらも、料理を楽しむ。

しかし、じか箸で鍋のなかをかき回す男、食べながら話す、いわゆる“クチャラー”の男と、女性たちのテンションは下がるばかり。

その時、男性が1人遅れてやってきた。イケメンで、スーツを上品に着こなす男性に、女性一同のテンションは一気に盛り上がった。

●前編:「じか箸にクチャラー」忘年会シーズンに30代OLたちを震え上がらせた「あり得ない鍋合コン」の実体

手のひらを返す女性陣

檜山一喜は、都内の投資銀行で働いている同い年の32歳だった。仕事は忙しく、今日は割と早く上がれたほうだと言っていたから、きっと忙しさのあまり女性に縁がないままこの年齢を迎えたのだろう。葛西と遠藤とは社会人サッカーサークルの仲間で、ふたりに誘われて合コンに参加したのだという。

「おなかぺこぺこですよ。もう皆さんだいぶ出来上がってると思うんで、頑張って追いつきます」

檜山は鍋に追加した野菜や肉を入れながら、かなりのペースでお酒を飲んでいる。正面に座る智子に取り分けてもらった唐揚げやサラダの小皿を受け取り、上品さで具材を口のなかへと運ぶ。

「お仕事大変そうですね」

「まあそうですね。日頃数字ばっかり追っかけてるのもあって、休みの日なんかはキャンプ行ったり、自然に囲まれてリフレッシュして、なんとかバランスとってやってる感じですね」

「キャンプとか行かれるんですか!」

「こいつの作るカレーめっちゃうまいだよ。みんなにも食べてほしいよな」

「遠藤ってば褒めすぎだろ。別に普通のカレーだよ。今度皆さんも一緒にどうです?」

「気になる~」

イケメンに目がない智子は手のひらを返した積極さで合コンに参加している。テーブル下のグループチャットも静かになっている。いい男が1人いるだけで、こうもテーブルの雰囲気とは変わるものかと、真美は感心していた。

檜山の語り口は、まったく気取ったところがなく、エリートの嫌みを1ミリも感じさせない。もちろん話も面白いおかげで場は盛り上がり、話題はいつの間にか旅行好きだという絵里奈の一言から、檜山が学生時代にしたバックパッカーの話になっていた。

「いろんなご経験されてるんですねぇ」

「いや、でも学生らしい、アホみたいな経験ばっかですよ。ベラルーシで野宿していたら、当地の警察に捕まりそうになったり」

「出た出た。檜山の鉄板ネタ」

「鉄板ネタ言うな」

ちゃかしてくる葛西の肩を檜山が軽く小突く。イケメンだったらなんでも許されると思っているようで認めたくないが、檜山が入るだけでさわやかな男子校での一幕のようにすら見えた。

「え、なんですかそれ」

「どうして野宿なんてしたんですか?」

「だって、外国で野宿とか面白そうじゃないですか」

檜山は笑いながらそう言うと、日本酒を飲む。

それにしても、なんという優良物件なのだろうか。ルックスが良く、有名企業に勤務しており、話も面白い檜山のような男がどうしてまだ独身なのか不思議でならない。

そんなことを考えながら、真美がぼんやりと鍋の中の野菜に箸を伸ばした瞬間のことだった。

一気に冷えるテーブルの空気

「野菜はまだ早い!」

鋭い声と同時に、箸が飛んできて、真美の箸をはじいた。

「え?」

「白菜、もっとしっかり煮てからじゃないと」

「はぁ、そうなんですか」

「逆に、肉は似すぎると硬くなりますからね。はい、小皿貸して」

言われるがまま小皿を渡すと、檜山は肉をこんもりと盛り付けて真美のもとに小皿を戻す。

それから檜山は菜箸で具材の位置を調整し始めた。眉間にしわを寄せながら鍋のなかを見ていたかと思えば、「やっぱり、スープが煮詰まって濃くなってるな」とつぶやいて店員を呼び、スープを足すように指示を出す。

「ちなみに、お聞きしていいですか? ネギ、輪切りにしてありますけど、どういう意図ですか? 切れ目は斜めに入れたほうが、断面の面積が広がって味がよくしみこむと思うんですよ」

「えっと、あの、確認してきます」

「あ、いえ、そういうんじゃないんです。意図があるなら知りたかったってだけなので」

「申し訳ございません」

スープを足しにきた店員は頭を下げて個室から出て行く。

「よっ、鍋奉行!」

「やっぱ鍋は檜山がいねえと始まんねえよな」

遠藤と葛西は口々に叫ぶが、真美は終わったとしか思えなかった。盛り上がりかけていたテーブルの空気は冷えていた。鍋にこだわりがあるのはまだしも、バイトであろう店員を問い詰める意味が分からない。

〈やっぱ、ハズレ……?〉

〈てかなに今の 引くんだけど〉

テーブルの下でグループチャットが動き出す。

しかし言葉も出ない真美たちをよそに、檜山の「鍋奉行っぷり」はそこからも止まることはなかった。

絵里奈が気を利かせて鍋に肉を追加しようとしたら「白滝のとなりに肉を入れると、肉が硬くなる。これ常識ですよ?」と文句をつけられ、智子は「七味をかけすぎるとスープの繊細な味が分からなくなります。そんな食べ方、作った人間に失礼でしょう」としかられていた。

檜山は優良物件ではない。とんでもない事故物件だ。

真美の中で盛り上がっていた気持ちがどんどんしぼんでいった。しまいには「こんな状態の鍋をよく楽しめましたね」と鼻で笑われ、辛うじて笑顔を保っていた気持ちは完全になえてしまった。

スマートに進まない会計

結局、合コンが終わるまで檜山の鍋奉行っぷりは続いた。真美はこの苦痛な時間が一刻も早く終わってくれることを願った。さっきとは違う店員がふすまを開けてラストオーダーを取りにきたとき、ようやく解放されるんだと思うとホッとした。

残り30分のラストスパートをしのぎ、遠藤が店員からお会計をもらう。

「1人9500円ねー」

「9500円⁉」

遠藤の一言に思わず声を上げたのは絵里奈だったが、真美も、たぶん智子も同じ気持ちだった。いくら忘年会シーズンとはいえ高すぎる。それに、お通しが1番おいしいと言っていた遠藤の言葉通り、ごく一般的な鍋でしかなく、まさかそんな値段になるとは思わなかった。

「現金持ち合わせないから、電子マネー送るのでもいいですか?」

「いや、ごめんね。絵里奈ちゃん。俺やってないんだよね。だから現金でお願い」

だから現金ねえって言ってんだろ、と真美が絵里奈のとなりで叫びたい気持ちをのみ込もうとしていると、横から檜山が割り込んでくる。助け船を出してくれるのかもしれないと、この期に及んでもまだそんな期待をしたが、そんなはずもなかった。

「あ、俺、遅れてきて、そんなに食べてませんし、1000円でいいですよね?」

「たしかにそうだな。じゃあ2000円で。他の人は1万3000円ね。あ、いや、それだともらいすぎか。えっと」

ぽちぽちとスマホで計算している遠藤にしびれを切らした真美は、彼の手からお会計を取り上げた。

「面倒なので、ここ取りあえず私がぜんぶ出しますね」

「え、まじすか」

「おごりあざっす!」

「おごりじゃねえよ」

真美たち3人の声がぴたりとそろった。

真美は店員にクレジットカードを差し出し、手早く会計を済ませてしまった。もちろん現金は遠藤たちからきっちり徴収する。しかしどうやら遠藤こそ現金の持ち合わせがなかったらしく、財布のなかには3000円しか入っていなかったし、檜山は本気でお金を払わなくていいと思っているらしく、2000円しか徴収できなかった。

「じゃ、じゃあみんなで2軒目行きましょうか。次はカードで俺がおごるんで」

「やだな。行きませんよ」

遠藤のふざけた提案をきっぱりと断って、真美たちは店を出た。冷たい外気に触れながら、真美は絵里奈と智子と肩を組む。

「ねえ、私たちだけで飲み直そうよ」

「いいね、口直ししよ、口直し」

「私も賛成。次んとこ、わたしが出すよ」

男連中を置きざりにして、独身女性3人組はさっそうと夜の街に繰り出した。時計を見ると、まだ20時半。夜はまだ始まったばかりだった。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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