「なぜ仕事をしないのか?」40代ひきこもり息子が年金暮らしの両親に打ち明けた「意外すぎる本音」
Finasee / 2024年12月4日 17時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
杉浦隆さん(仮名、40歳)は現在無職で20代の頃からひきこもり状態にある男性です。年金暮らしの父親(70歳)と母親(68歳)と共に暮らしています。
隆さんがひきこもるようになったのは、就職活動での挫折、アルバイトが続かないなど、労働への自信を失ってしまったことがきっかけでした。ある時、母親の勧めで病院に行くと発達障害があることが発覚。その後は障害年金を受給しながら静かに暮らしていました。
ところが、父親のリタイアを機に家族の雰囲気は一気に険悪になります。仕事を辞めて家にいる時間が増えたことから、ひきこもり状態にある隆さんに苦言を呈するようになったのです。父子の関係は日に日に悪化していきますが、別居しようにも両親には6000万円の負担がのしかかります。
●前編:【ひきこもり歴20年】働かない40代息子に怒り心頭…年金生活の高齢両親が直面する「老後破綻の危機」
隆さんの口から語られた「意外すぎる本音」とは?父親の発言から、隆さんが仕事をしていないことに腹を立てていることは伝わってきました。その一方で、筆者の頭の中には「隆さんが仕事を再開するのは難しいのではないか」という思いも浮かんでいました。
さて、どうしたものか。筆者が考えあぐねていると、隆さんがおずおずと口を開きました。
「僕としても、働きたい気持ちはあるんです……」
この発言に筆者と母親はびっくりしてしまいました。長年ひきこもっているお子さんは、社会に出ることに抵抗を感じているケースが多いからです。
さらに隆さんは続けました。
「でも、長い間仕事をしていなかったので、急に働くとなると自信がありません。また、働くための知識やスキルもありません。今までアルバイトをしたことはありますが、いずれも長続きしませんでした。こんな僕でも働ける職場なんてあるのでしょうか?」
働きたい気持ちを絶やさないために「就労移行支援」を提案どうやら隆さんには働いてみようという気持ちがあるようです。
その火種を絶やしてはいけない。そう思った筆者は次のような提案をしてみました。
「それならば、まずは就労移行支援を受けるところから始めるとよいかもしれません。就労移行支援では、仕事に必要な知識やスキル向上のサポートを行ってくれます。しかも利用料は無料です(※交通費や昼食代などは実費)。また、隆さんに発達障害があることを支援者に伝えれば、それを理解したうえでサポートくれることでしょう。就職先についても、発達障害に理解を示している会社を探すとよいのではないでしょうか」
「なるほど、そのようなものがあるのですね。就労移行支援には興味がありますが、自分1人で支援先へ相談に行くのはちょっと怖いです。うまく話ができるのか自信もありません。何かよい方法はありますか?」
「それならば、最初のうちはお母さまにも同席してもらいましょう。就労移行支援の相談は親子ですることも多いようなので、特に問題はありません。慣れてきたら隆さん1人で行くようにすればよいと思います」
「そうなんですね。少し安心しました」
隆さんはほっとした表情を見せました。
頑固な父親も息子を見守ることにしぶしぶ納得そこまで話が進んだところで父親が質問をしてきました。
「仮に息子が就職できたとして、収入はどのくらいになるのでしょうか?」
「ケースバイケースなので何とも言えませんが、就労は障害者雇用を検討することになるので、最初は月数万円を想定してみます。働くことに自信が持てるようになれば、最終的には月に手取りで10万円~12万円くらいを目指すことになるでしょう」
「最初は月数万円からって……。そんな金額ではとても息子は生活できませんよね? 正社員を目指さなければいけないのではないでしょうか」
「お父さまのおっしゃることもごもっともだと思います。ですが、隆さんの今までの状況を鑑みると、正社員で働くようになるのはかなりハードルが高いかもしれません。せっかく就労しても、続かなければまたひきこもりのような生活に戻ってしまいます。それならば、『障害基礎年金と障害者雇用による収入でなんとか自活できるレベルを目指してみる』といった方がまだ現実的だと思われます」
筆者はさらに続けました。
「隆さんには生まれつき発達障害があり、日常生活や就労に困難を抱えています。それは隆さんが悪いわけではありません。もちろんご両親のせいでもありません。生まれつきなのでどうすることもできないのです。厳しい言い方になりますが、発達障害を受け入れて生きていくしかありません。幸いにもご家族で話し合った結果、隆さんも行動を起こす決心が固まりつつあるようです。否定することなく、まずは事の成り行きを見守っていくといったことも大事ではないでしょうか」
この話に、父親はやむを得ないといった様子で黙ってうなずきました。
家族会議の後、隆さんと母親はさっそく就労移行支援の事業所を調べることにしました。いくつかのサイトを見比べ、よさそうな事業所を見つけたので、相談の予約を入れた後、隆さんは母親と一緒に相談に行きました。就労移行支援先では、どの支援者も隆さんの発達障害に理解を示し優しく接してくれました。
「ここならなんとか通えそう」。隆さんはそう思ったそうです。
現在も隆さんは就労移行支援に通っており、就労に向けて一歩一歩進んでいます。ひきこもり状態から脱したことで、ひとまず父親の苦言も減り、父子で言い争うこともほとんどなくなったそうです。そのため、当面は隆さんと両親は同居を続けることになりました。
ひとまず深刻な事態は免れたようでよかった。
母親から隆さんの近況を聞いた筆者は、ほっと胸をなで下ろしました。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
浜田 裕也/社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
親族がひきこもり経験者であったことから、ひきこもり支援にも携わるようになる。ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度のアドバイスも行っている。ひきこもりのお子さんに限らず、障害をお持ちのお子さん、ニートやフリーターのお子さんをもつ家庭の生活設計の相談も受けている。『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。
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