「年収もすごいんじゃないんですか?」結婚を焦るアラフォー男性が初めての婚活で直面した「残念な現実」
Finasee / 2024年12月19日 18時0分
Finasee(フィナシー)
どこか憂鬱(ゆううつ)な空気が漂う月曜日のオフィス。正志は重い身体を引きずるように自分のデスクにたどり着いた。書類の詰まった肩掛けバッグを置いてため息を吐くと、ひと際元気なあいさつが響く。
「皆さん、おはようございます! これ、新婚旅行のお土産です!」
声の主は、同じ部署の後輩だ。
つい先月結婚式を挙げたばかりの彼は、ハワイの土産物が入った紙袋を抱えながら、皆のデスクを回っていた。手渡された小さな包みには、「Hawaii」の文字が金色であしらわれている。正志は聞いたこともなかったが、何やら有名な店のお土産らしい。
「わー、ありがとう」
「ハワイなんてうらやましいなあ!」
後輩が歩いたところから、次々と声が上がった。
「いいよな、夫婦2人だと気楽に行けてさ。うちは子供がいるから、飛行機なんてもうしばらく乗れてないよ」
奥のデスクで、課長がそう言いながら菓子の包装を開けた。
40代半ばの課長は、いつも家庭の愚痴をこぼしながらも、どこかうれしそうな表情をしている。
確か小学生の子供が2人いるんだったか。
その声に同じく子持ちの同僚が反応する。
「ほんとですよ。日帰りで出掛けるのにも子供の準備が大変で……この前なんか、行く前日に熱出されて結局キャンセルしましたよ」
「はは、そういうのも含めていい思い出になるんじゃないか?」
2人は肩をすくめて笑い合う。
彼らの会話はいつも通りの調子だし、愚痴っぽい部分だって少なくない。だが、どことなくにじむ充実感が隠しきれていないのだ。そんな彼らの家庭的な幸せを垣間見るたびに、正志の心中にはうらやましい気持ちが募っていくのだった。
人は見た目が9割という残業を終えた正志は、帰りの電車で窓の外をぼんやりと眺めていた。窓に映っているのは、くたびれたスーツに身を包む疲れた顔の男。
「結婚か……」
口の中でつぶやいたその言葉は、思った以上に重く響く。途端に家族の話をする同僚たちの笑顔が目に浮かぶ。
妻や子供の文句を言いながらも、どこか誇らしげに話す既婚者たち。
正志には、あんな顔をして話せるような存在がいない。家に帰れば、待っているのは殺風景な広い部屋。これといった趣味もなく、ただただ会社と自宅を往復する日々だった。
その晩、正志はスマホを手に取り、マッチングアプリを検索した。
「まあ、これくらいならやってみてもいいか」
こうして思いつきのまま、マッチングアプリをダウンロードした正志だったが、すぐに操作の手を止めることになった。
「プロフィル写真……」
スマホの画面を眺めながら、正志はため息を吐いた。
自分の顔写真を掲載するのは恥ずかしかったが、他のユーザーのプロフィル写真を見る限り、ただの風景やペットの写真では誰も反応してくれそうにない。
だがただ顔写真を載せたところで意味はないだろう。人は見た目が9割だという。電車の窓に映ったくたびれた自分の姿を思い出し、まずは外見を整えなくてはならないと感じた。
正志はマッチングアプリを閉じ、高級サロンの予約サイトを開いた。
最初に訪れたサロンで、美容師に「婚活用の髪型を」と頼むと、丁寧にヒアリングをしながらカットをしてくれた。
髪型が整うと、鏡の中に映る自分が少しだけましに見えた。
担当した美容師も鏡越しに褒めてくれたが、これで終わりではないと考えた正志は、次にスーツの専門店へ向かった。
「こちらの生地は最高級のウールでして……」
店員のセールストークを聞きながら、正志はクレジットカードを差し出した。
オーダーメードを待っていると婚活に向いた気持ちがそがれてしまいそうなので、ひとまず既製服の高級ブランドのものを買ったが、これまでサイズ合わせもてきとうな安物のスーツばかり着ていたせいか、新しいスーツはぴたりと体に合い、心なしかスタイルすらよくなったように見えた。もちろん靴やシャツ、ネクタイ、バッグや時計も一緒に買った。
これまで稼いだ金をろくに使うこともなかったから、資金だけは大量にあった。
だから正志は勢いのまま、高級車の購入にも踏み切った。迎えに行ったとき、レンタカーではかっこうがつかないと思ったからだ。
「この車なら、どんな場所に行っても注目を集められるでしょう」
ディーラーの言葉にうなずきながら、正志は運転席に座り、ハンドルを握りしめた。
自分は準備万端だと思った。
金目当ての女たち落ち着いた雰囲気のイタリアンレストラン。
柔らかい照明に照らされたテーブルに座る女性は、思っていたよりも美しかった。早速利用したマッチングアプリで知り合った彼女は、プロフィル写真の印象そのままの、清楚(せいそ)で華やかな雰囲気をまとっていたのだ。
「このお店、すてきですね。予約してくれてありがとうございます。こういうお店はよく来るんですか?」
都内の企業で受付嬢として働いているという10歳年下の彼女はほほ笑みながら、グラスに口をつける。
正志は、内心ホッとした。この店は、彼女のリクエストとネットの口コミを頼りに探した場所だ。
「んー、たまにですかね。一緒に来る相手もいないですし」
「さすが牧田さん、やっぱり余裕のある人って違いますよね」
彼女は笑顔を崩さずに言ったが、その言葉にはどこか引っかかりを感じた。
会話の流れを誘導されているような気がしてならない。
しかも、正志の望まない方へ向かって。
「いや、そんなことないよ。僕なんて普通だから」
「えー? 普通の人が、こんな高いレストランをさらっと予約したり、高級車に乗ったりしないと思いますけど」
彼女は笑いながらそう言うと、正志の手元の腕時計に視線を落とした。
「その時計、すごくいいものですよね? ブランド名はわからないけど、高そう……」
女性に褒められること自体は悪い気分ではない。しかし、会話が続くにつれて、どこか重たいものが胸にのしかかってくるのを感じた。
決定的だったのは、彼女の趣味の話になったときだった。彼女は旅行好きらしく、最近訪れた観光地の写真をスマホで見せてくれた。
「旅行行き過ぎて、私、全然貯金とかできないんですよ。だからやっぱり、もし結婚するなら牧田さんみたいにバリバリお仕事頑張ってる人がいいなあって思うんですよね。外資系なんですよね? 年収もすごいんじゃないんですか?」
「まあ、それなりにね」
控えめに答えつつ、正志は内心ため息をついていた。
確かに外資系企業に勤める正志は、同年代と比べて高い年収を得ている。
だからこそ高級スーツや時計、車などを短期間でそろえることができたわけだが、女性たちからこうも露骨な反応を示されるとは思ってもみなかったのだ。
企業名を聞いて目の前で年収を検索し始めたアラフォーOL。
車種を知るためにドライブデートに誘ってきた30代の看護師。
ストレートに貯金額を聞いてきた女性もいた。
彼女たちを受け流しながら、正志は次第に疲弊していった。どの出会いも、どの会話も、自分という人間ではなく、身にまとったものや収入にしか興味を持たれていないと感じさせるものだったからだ。
「もう、限界かもしれないな……」
その夜、正志は自室のベッドに横たわりながらスマホを握りしめ、アプリをアンインストールした。これ以上、婚活を続ける気力が湧かなかったのだ。
●婚活に挫折してしまった正志に、思ってもみない出来事が訪れる――。後編【「似合わなすぎる」マッチングアプリ婚活に失敗したアラフォー男性を一蹴…バツイチ同級生の「核心を突いた言葉」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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