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【プロが解説】自動車業界で大変革進行中! EV、テスラ登場の裏で、修理人材不足が課題に

Finasee / 2024年12月13日 13時0分

【プロが解説】自動車業界で大変革進行中! EV、テスラ登場の裏で、修理人材不足が課題に

Finasee(フィナシー)

自動車業界では、100年に一度と言われる地殻変動が進行中です。今回はボディに焦点を当ててお話しします。

まず、自動車業界の大きな変化の一つとして挙げられるのがEV(電気自動車)の登場です。EVはバッテリーが非常に重いため、車体全体の軽量化が大きなテーマになっています。そのため、よく使用されてきた鋼材よりも軽い、アルミニウムを活用する方向性です。アルミよりさらに軽い素材として、マグネシウムが一つの候補ですが、リサイクルの難しさに加え、新地金供給の大部分を中国が占めている点が懸念事項です。

もう一つの大変革は、テスラがもたらしたギガキャストです。ギガキャストとは、車体を超大型鋳造機でひとかたまりの部品として生産する方式です。今まで常識だった溶接・ボルト留めが不要となり、ボディ剛性や生産効率が向上するメリットがあるため、世界中の自動車メーカーが注目しています。

その一方でデメリットもあります。アルミ材を使用していますが、巨大で複雑な鋳物であるため、パーツごとに加工して組み立てる従来のオールアルミボディ車と違って、加工硬化による剛性(金属加工で力を加えると素材の強度が上昇します)が得られず、薄く作りにくいそうです。そのため、軽量化を期待してアルミニウムを使っても、思うほど効果が得られていないようです。

また、その一体不可分で厚みのあるボディ構造が鈑金修理を困難にしています。加えて、アルミ材は熱影響に敏感であるため、修理には専用工場や高度な技術が必要です。この結果、修理が不可能、あるいは非常に高額となり、僅かなダメージでも全損扱いにされるケースが報告されています。この影響でテスラ車との契約を拒否する保険会社すら出現しています。

もちろん、自動車業界はこのような課題をただ傍観しているわけではなく、リペアビリティ(修理可能性)の解決に向けて取り組みを進めています。矢面に立つテスラはボディ修理の研究開発投資を続けており、最近では修理の選択肢が出てきたとのことです。例えば、亀裂が50mm以下なら溶接補修が可能な場合があるようです。一方で、完全一体成型ではなく複数に分けて生産する「いいとこどり」のアプローチを採用する企業も出てきており、修理問題は改善の兆しが見られます。

リペアビリティで進展がある一方で、肝心の修理人材の不足は依然として深刻な状況です。

従来型の車でも、ドアなどの脱着可能なパーツの修理はすでにAssy交換(まるごと交換)が主流になっており、鈑金・塗装技術の習熟に長い年月がかかるにもかかわらず、若い世代の技術研鑽の機会が減少しているようです。また、職人の高齢化が進行しており(*1 )、若い世代の流入が少ないことも問題です。さらには、現行車種で主流のハイテン鋼(通常の鋼より高強度で、薄くて軽い)の修理さえ難しいとされているところに、同様に高度な技術を要するアルミなどの素材が増えていく可能性があります。「車を直そう!その1」(*2)で述べたように、高度な安全装置の普及により、修理を手掛けにくい車が増加していくことも留意しておきたいポイントです。

これらの影響により、ボディ修理はやはり困難なままとなり、実質的に買い替えが唯一の選択肢になる恐れがあります。そのため、鈑金・塗装工場の再編や、職人技を再現できるファイバーレーザー溶接機(初心者でも扱いやすく、細いレーザーによる精緻な仕上がりや熱影響の少なさ、高速自動溶接が特徴)のような高額な機械の導入が求められる局面が増えると考えられます。

ここまでアルミを前提にお話を進めてきましたが、某アルミ関連企業の元研究者から、「日本の製鉄会社のハイテン鋼の技術が極めて高い水準にあり、自動車ボディのアルミ化は現実問題として難しいだろう」との見解を伺いました。製鉄技術のさらなる進化によって、アルミボディ、ひいてはギガキャストの普及が限定的になるシナリオには注意を払う必要があります。

以上のように、自動車業界の技術革新が進む一方で、修理の課題は今なお大きなテーマです。これからは、ボディの進化とアフターサービスの両輪でサステナビリティの実現が求められています。

 

【注釈】
*1 厚生労働省 職業情報提供サイトjobtag 「自動車板金塗装」 労働条件の特徴
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/558
*2 コモンズ投信 ザ・2020ビジョン 2023年12月月次レポート p6「車を直そう!その1 『修理する権利に要注意!』」
https://www.commons30.jp/pdf/fund2020/2020pdf_2023_12.pdf

奥 翔子/コモンズ投信 ジュニアアナリスト

1997年兵庫県芦屋市生まれ。趣味はモータースポーツ。京都大学卒業後、2021年12月にコモンズ投信に新卒で入社。不動産セクターを主に担当。

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