もしも行き詰った下請け工房が「プライベート・エクイティ」と出会ったら?――話題の“アクティビスト”とは違う幸福な“再生”とは
Finasee / 2024年12月20日 12時0分
Finasee(フィナシー)
プライベート・エクイティをわかりやすく知る
先日、プライベート・クレジットについて解説したが、今回は多くの方がより耳にしたことがある「プライベート・エクイティ(PE)」について、わかりやすく説明したい。プライベート・クレジットが「上場していない(プライベートな)貸付債権」への投資であるのに対し、PEは「プライベートな株式」への投資となる。
まず、株式と債権を投資対象とした場合の基本的な違いを簡単に整理しておこう。
出所:筆者作成債権は会社にお金を貸し付け、契約通り利息と元本が返済されればリターンが確定する。反面、業績がいくら良くなっても、決まった利息以上のリターンは得にくい。
一方、株式は会社の所有権を持つため、業績向上による配当や株価上昇が期待でき、成長次第でリターンは大きく伸びる可能性がある。
PEファンド、特に「バイアウト型」と呼ばれるファンドは、投資先企業の過半数超の株式を取得し、経営権を握ることが多い。こうして企業の戦略や組織を根本から見直し、価値を高めた上で、その株式を他の事業会社やファンドへ売却したり、IPO(新規株式公開)を行ったりしてリターンを得る。
とはいえ、こうした説明だけではイメージが湧きにくいかもしれない。そこで、架空のストーリーで具体例を示そう。
~K工房の変身――日本固有の素材で世界の高級家具市場へ~――「K工房」は、大手家具メーカーの子会社として長年操業していた。職人たちは高い技術とこだわりを持ち、優れた品質の家具を生み出せる。しかし、販売先はほぼ親会社のみ。しかも親会社は低価格路線を採っていたため、K工房は本来の価値よりはるかに安い価格で製品を卸さざるを得なかった。
さらに、親会社は生産拠点を海外の低コスト地域へ移し、国内のK工房は戦略的優先度が下がっていた。そこへ目を付けたのがPEファンドだった。親会社は余剰資本を得て事業ポートフォリオを整理するためにも、K工房の売却に応じた。
PEファンドは親会社からK工房の株式を買い取り、新たに発行された株式も引き受けてK工房へ資金注入を行った。経営権を手にしたPEファンドはすぐに改革を開始。新進気鋭のデザイナーを起用し、これまでの無個性な量産品から洗練されたモダンデザイン家具を開発。「ヒノキ」や「ケヤキ」など日本特有の木材を生かし、それを魅力として海外の高級家具市場へ打って出た。
この戦略は功を奏し、欧米やアジアの高級インテリアブランドやラグジュアリーホテルチェーンから注文が相次ぐようになる。ついには世界的に有名な家具メーカーからOEM※供給の依頼が舞い込む。かつては親会社への安値卸売りに頼るだけだったK工房がグローバルなハイエンド家具ブランドへと成長、収益性は飛躍的に改善した。
数年後、K工房は投資時の数倍の価格で国際的な高級ブランドに売却され、PEファンドは大きなリターンを獲得。K工房は下請け的存在から独立した高品質ブランドへと変貌。職人をはじめ従業員の賃金も上昇し、モチベーションもアップ。さらに、職人を目指す有能な若手が集うようになり、人材面での好循環ももたらされた。こうしてK工房は職人技や日本固有の素材を世界へ発信する新たなステージを迎えた――。
※OEM…相手先ブランド製造
外からではなく、「内」から企業価値を引き上げるこの例はフィクションだが、現実にも、正しい戦略と資本注入によって著しく収益性を改善できる企業は存在する。PEファンドはそうした企業を発掘し、経営権を握ってバリューアップを図り、リターンを得るビジネスモデルを展開している。
ちなみに、近年注目を集める「アクティビスト」と異なる点は、PEファンドが支配的な株式比率を取得し、企業内部に入り込んで直接的な改革を行う点だ。アクティビストは上場企業株式の一部を保有し、外部から提案や圧力をかけることが多いが、PEファンドは「中」で改革を主導する。そのため、より大胆な変革が可能となり、企業価値を根本から引き上げることができるのである。
木村 大樹/Keyaki Capital代表取締役CEO
野村證券でオルタナティブ商品の営業に従事した後、ニューヨークで証券化ビジネスに携わり、サブプライム危機に直面しながら問題解決に努める。帰国後はバークレイズ証券を経て、2012年にシティグループ証券の年金ソリューション部長、2015年からはマッコーリー・インベストメント・マネジメント日本代表。2020年に個人に公開されていない世界中のプライベートアセットへの投資機会を、充実感と高揚感に満ちた投資体験として提供するKeyaki Capitalを創業。一橋大学経済学部卒。
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