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「血のつながった子供でなければなおさらです」実家の大掃除で明らかになった「家族の触れてはいけない過去」

Finasee / 2024年12月25日 18時0分

「血のつながった子供でなければなおさらです」実家の大掃除で明らかになった「家族の触れてはいけない過去」

Finasee(フィナシー)

窓を開ければ年の瀬の冷たい空気が肌を刺す。美果は大きく伸びをした。

「本当にすまんな」

美果の背後ではこたつに入った昭道がすっかり薄くなってしまった白髪だらけの頭を美果に向けていた。

「何言ってんの。家族でしょ。大掃除くらいなんてことないって」

「そうか。すまない」

だから、と口を開きかけて、美果は言葉をのみ込んだ。

母が病気で亡くなってから3年。父は昔の頑健ではつらつとした姿など見る影もなく、すっかり憔悴(しょうすい)して痩せてしまった。母が大事にしていた庭仕事をしようとして腰をやってしまったのもあるのだろう。めっきり動かなくなってしまった父は外出もろくにしていないのか、日用品を買ったらしい通販サイトの空き箱が、つぶされもせずに玄関先に積んである。

だが美果が何より気になるのは昭道の態度だ。母がいなくなってから、父はよそよそしく偏屈な態度をとるようになり、すっかり冷たくなってしまった。今日だって散々来なくていいと言われていたし、何ならつい15分前まで、到着した美果と玄関で「大掃除なんていい。帰りなさい」と押し問答をくり広げすらしていた。

「取りあえず、まずは書斎ね。どうせもう読まない本ばっかなんだから、これを機にさっぱりするからね」

美果は腕まくりをして、絞った雑巾とバケツを持って2階に上がる。腰が悪い父はもともと2階にあった寝室も1階の和室に移しており、ほとんど使っていない2階は1階以上にほこりっぽい。

片っ端から窓を開けると、滞留していた空気が循環を始め、部屋のなかが心地よく冷えていく。

使っていない書斎は片付いてこそいるものの、本棚や床にはほこりがうずたかく積もっていた。指でなぞればほこりに覆われて隠れていた茶色い木目が顔を出した。美果は眉をひそめながら拭き掃除を始めた。

長らく開かれていない本は手に取るとほこりが舞い、何の本かと開いてみれば固まったのりがパキパキと音を立てた。一冊一冊のほこりを丁寧に拭き取り、1階から上げてきた段ボールにしまい込む。途中、昭道が様子を見に2階へと上がってくる。

「取っておいてほしい本とかある?」

「いいや。すっかり老眼でどれももう読めないから、持っていても仕方がない」

「そっか。じゃあ全部詰めてっちゃうね」

美果は段ボールに本を詰めていく。年明けにでも夫と息子を使ってリサイクルショップへ運べばいいだろう。想像よりもずっと重くなった段ボールは、読書が趣味だった父がまだ元気だったころの確かな痕跡を思わせた。

祖母からの手紙

段ボールを積み上げ、空になった本棚を拭いていく。昭道はあっという間の手際で片付いていく書斎の様子を廊下からぼんやりと見つめている。その表情は寂しそうにも見えたし、すがすがしく感じているようでもあった。あるいは、何か手伝えることはないだろうかとタイミングを計っているのかもしれない。

「そしたらさ、お父さん、私、押し入れ片付けるから拭き掃除代わってよ」

昭道に絞り直した雑巾を渡し、美果は押し入れの前に立つ。ふすまの隅を、手のひら大のクモがはっていった。

「ぎゃあっ!」

「ど、どうしたっ?」

美果はたまらず悲鳴を上げた。昭道も素早く振り返り、飛びのいた美果に寄り添う。

「クモ! あそこにクモ!」

美果はふすまを指さした。昭道は「どれどれ」とふすまに近づいて、丸めた両手でクモをつかんだ。

「ちょっと何してんの。つぶしてよ!」

「つぶさないよ。クモは、仏様の使いなんだから」

昭道はそう言って笑いながら窓からクモを逃がしてやる。美果は深呼吸をひとつ挟み、押し入れの片づけに取り掛かる。

古い段ボール箱の中身を確認すると、古いアルバムが入っている。和装で並んだ父と母がいて、生まれたばかりの美果がいて、ろうそくを立てたケーキを囲む家族3人がいる。そこには家族の思い出と歴史が並んでいる。

これは捨てられないね、と美果はアルバムを段ボールにしまう。次の段ボールを開けると、美果が小学生の時に使っていた教科書やノートが出てきて、美果は後ろで丁寧に窓を拭いている昭道をちらと見やりながら、よくこんなもの取っておいたなと思わず笑みがこぼす。

捨てられない段ボールを脇に避け、押し入れの奥に手を伸ばし、今度は古いお菓子の缶を取り出した。

ゆがんでいるせいか、さびているせいか、開きづらいふたを強引に引きはがす。かぽっと気の抜けるような音がしてふたが浮く。

中身は古い手紙だった。差出人は父の田舎からだった。美果の教科書を取っておいたり、アルバムを丁寧にため込んでいたり、本当にまめなんだからと、軽い気持ちで手紙を広げる。中身は書道をやっていた祖母の達筆な筆跡。美果は手紙を読んだ。

 

〈昭道へ

元気にしてますか。こちらは寒くなってきて、お父さんは膝が痛いと泣きごとばかりです。

あなたの決意は理解しました。納得はできないけれど理解しました。

けれどあなたが思っているよりもずっと、子供を育てるということには大きな責任が伴います。たくさんの苦労と、たくさんの愛情が求められます。まして血のつながった子供でなければなおさらです。

口うるさいと思わず、覚悟を持って果織さんと美果ちゃんを大切に――〉

 

それ以上は読めなかった。手紙から顔を上げると、青ざめた表情の昭道と目が合った。

「お父さん、これ、どういうこと?」

昭道は黙っている。

「血がつながってないって、どういうことなの?」

●父と実の親子ではなかった……。父の口から衝撃の事実が明らかになる。後編【「母さんとは、お互い再婚だったんだ」今は亡き母、出生の秘密を知った30代娘が「たどり着いた末の父への提案」】にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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