米国経済はソフトランディングの見通しも トランプ政策によってインフレ過熱シナリオが浮上(後編)
Finasee / 2024年12月24日 6時30分
Finasee(フィナシー)
第一生命経済研究所経済調査部 主任エコノミスト桂畑 誠治 氏 追加関税と対抗措置の応酬でグローバルな株式市場に下落の懸念
――追加関税は米国だけでなく、ほかの国々にも大きな影響が出そうです。
その通りで、追加関税は経済面での「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」の象徴的な政策と言えるでしょう。トランプ氏は選挙戦を通じて中国製品に最大60%、全輸入製品に10~20%の関税を課すと発言してきました。さらに、当選後の11月末には、大統領就任後直ちに、違法薬物の流入を理由に中国からの全輸入品に10%、違法薬物や不法移民の放置などを理由にカナダやメキシコからの全輸入品に25%の関税をかけると発言しました。米国内の産業界や企業への影響は考慮しつつも、トランプ氏は大統領令によりスピード感をもって公約を実現するため関税を利用していくことが予想されます。
ただ当然ながら、追加関税は相手国からの対抗措置を招くことになります。実際、第1次トランプ政権時にはEUや中国が報復関税を実施しましたし、特に中国との間では報復追加関税の応酬となりました。これからの追加関税はトランプ氏が示唆するほど大規模になるかどうかは不透明ですが、少なくとも追加関税を巡る衝突は2025年も起こり得ます。
追加関税を巡る衝突はグローバル経済にとってマイナス要素です。確かに米国だけを見れば、輸入価格が上昇してもドル高、米国内生産や投資の拡大である程度吸収できるかもしれません。しかし追加関税を課された各国は輸出や投資が伸び悩み景気後退の可能性が高いでしょう。自国通貨が下落することで、インフレ再燃の可能性もあり、スタグフレーションに陥れば、グローバル株式にも下落の懸念が高まるでしょう。
日本に関しては、第1次トランプ政権時に主要国では例外的となる不平等な貿易協定を結んでいるので、幸か不幸か他の国よりも影響は軽微にとどまりそうです。実際に貿易協定以降、対米黒字は増えていません。ただ、貿易交渉次第ではより厳しい対応を迫られる恐れもありますので、リスク要因として注視しておく必要はあるでしょう。
――米国経済のリスク要因として、商業用不動産について言及されることも少なくありません。
商業用不動産のリスク再燃はあり得るでしょう。トランプ政策の法案の進捗状況によっては、FRBが動かなくても長期金利が上昇し、ローン借り換え時の金利負担増や市況悪化に伴う信用リスクの上乗せなどが起こって、不動産融資の焦げ付きも懸念されます。これにより、不動産融資を手掛けている中小規模の銀行の経営破綻が顕在化する恐れもあります。
現状は利下げ局面なので、そうしたリスクはさほど警戒しない見方が優勢ですが、トランプ政策の効果によって金利があまり下がらず、逆に上昇に転じるようなら、商業用不動産のリスクは一段と高まるでしょう。
――米国経済を見通すうえで注視すべきポイントを教えてください。
2025年前半は、追加関税や移民規制、減税など、トランプ氏が公約に掲げた政策をどの程度推進できるかに注目すべきでしょう。特に新政権発足後の最初の100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれて高い支持率を得やすく、また大統領に就任できる最後の任期とあって、トランプ氏は人事や政策立案のピッチをかつてなく上げてくると予想されます。2025年および今後の米国・世界経済を占ううえでも、年頭から目が離せない状況と言えそうです。
そして2025年後半は、FRBがどのようなかじ取りをするのか見ておきたいところです。金融政策を見通すためには、雇用統計や失業率とともに、インフレ指標としてPCEデフレーターの動向をチェックすることをお勧めします。足元では労働市場の軟化が継続し(図2)、中期でのインフレ圧力は弱まっている状況ですが(図3)、トランプ政策の実施によりこれら指標がどの方向に振れていくかに注意が必要です。
オルイン編集部
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