「令和のブラックマンデー」が再来しても日本株市場が回復できる“今までとは違う”理由 マネックス証券 広木隆氏に聞く
Finasee / 2025年1月7日 12時0分
Finasee(フィナシー)
カギ握る物価と賃金上昇の好循環、プライム上場企業は5年連続最高益更新へ
――2025年の日本経済の見通しは?
2025年の世界経済の成長率は、ひとまず従前どおり3%強と仮定するのが適当か。世界的にインフレが鎮静化し、中央銀行は金融緩和を進め、グローバル景気は緩やかに回復基調をたどるだろう。そうした環境下、「グローバル景気敏感」とされる日本の上場企業の業績は底堅く推移する。
国内の景気も堅調である。資材高などがピークアウトしている一方で、企業の設備投資の潜在的な需要は高い。人手不足がボトルネックだが、先送りされた設備投資も徐々に進展し、実行に移されていくだろう。25年の賃上げも高い水準になることが予想される。「年収の壁」も税制改正で調整されれば、消費には多少なりともプラスの効果があるだろう。
プライム上場企業の業績は24年度中間決算時点で4年連続最高益だが、本決算もこのまま着地して、来期(26年3月期)も5年連続の最高益更新を目指す。しかし、さすがに業績の伸びの勢いは鈍化するだろう。上場企業全体では10%前後の純利益の伸びとなるのではないか。
すでに製造業には業績不振が鮮明になっている業種も散見され、企業ごとに回復の度合いが異なるだろう。サービス業は堅調さを維持すると思われるが、ポイントは価格転嫁が奏功するかだ。そのカギを握るのは物価と賃金上昇の好循環だが、その観点からも来春の賃上げ動向を注視したい。
注目セクターは追い風吹く金融 国際緊張高まる防衛産業にも注視――2025年の日本株市場の見通しは?
注目セクターは金融だ。金利上昇や新しいNISA(少額投資非課税制度)など良好な国内環境を背景に好調が継続するだろう。加えて米国の規制緩和も追い風になる。トランプ政権による反トラスト法(独占禁止法)の運用強化撤回によってM&A(合併・買収)が活性化するだろう。特に金融や暗号資産、プライベートエクイティなどの分野ではM&Aが増加しそうだ。米国の規制緩和であっても、これらの分野はグローバルなスピルオーバー(波及)効果があり、日本の金融機関にも恩恵があるだろう。
トランプ氏の政策が経済に与える効果は現時点では不透明だが、国際情勢に及ぼす影響についてはある程度、予見可能だと考える。トランプ氏の米国第一主義は端的に言って「米国以外の世界」への関与の低下であり、それはグローバル協調体制の脆弱化とロシア、中国、イラン、北朝鮮などの権威主義国家の増長を招く。その結果、世界情勢はより不安定化し各地で紛争が起こりやすくなるだろう。
日本を取り巻く国際環境も安全保障上の緊迫の度合いが増すことは明確である。日米の軍事的な協議がどう進展するかを別としても、三菱重工(7011)、川崎重工(7012)、IHI(7013)、三菱電機(6503)など日本の防衛産業への注目度は高まるだろう。
株主還元は過去最高水準、企業の構造改革が加速すればさらなるアップサイドも――2025年の株式市場の高値、安値予想は?
日経平均株価:高値4万4000円〜安値3万9000円
25年に日本企業の成長期待が高まる要因が現時点では見当たらないため、日本株のバリュエーション(PER(株価収益率)など)は変わらないと仮定する。よって日本株の推移については業績の伸びと同等の10%程度の上昇を見込む。日経平均株価では4万4000円程度の高値を想定している。
非常に重要な要因として、日本企業の構造改革がある。企業は資本効率を考慮した経営に舵を切っており、株式の持ち合い解消、不採算事業からの撤退などを進めている。そうしたこともあり自社株買いや増配など株主還元は過去最高水準に増加しており、下値を支える大きな材料となる。
こうした企業の構造改革が加速するようであれば、成長期待が台頭しバリュエーションも高まるだろう。むろん株価の上値も切り上がる。アップサイドシナリオとして日経平均株価では4万6000~7000円程度までの上昇も想定し得る。
長期デフレのトンネルを抜ける日本のポジションが相対的に高まる――2025年、投資家が注目すべき点は?
リスク要因のひとつは政治の不安定さだ。国内では夏の参院選まで石破政権がもつかどうか。さらに不安定なのが欧州の政治情勢である。特にドイツではショルツ首相の連立政権が崩壊し、総選挙が25年2月23日に実施される。連立が瓦解したドイツに続き、フランスでも内閣総辞職が決まった。欧州の政治的な不安定さの背景には反EU(欧州連合)の空気がある。ドイツでもフランスでも極右政党が支持を伸ばしている。
25年のテールリスクとして「Dexit」を挙げたい。「Deutschland(ドイツのドイツ語による呼称)」と離脱を意味する英語「exit」を組み合わせ「デグジット(Dexit)」、つまりドイツのEU離脱である。
もちろん可能性は極めて低い。だからこそ、テールリスクなのである(テールリスクとは、実現する確率は低いが起きたら大惨事になるようなリスクのこと)。
もしも、そんな事態になればユーロの通貨システムも瓦解し、欧州発の世界恐慌にまで発展するかもしれない。
だからこそ、そんなことが起きる可能性は万にひとつもないが、可能性がゼロでない限り、「デグジット(Dexit)」の悪夢は市場を揺らし続けるだろう。
先日、中国の長期金利が日本を下回ったことが話題となった。昔は日本が唯一、長期デフレに悩まされ、低成長・低金利の代表国だったが、その立場が逆転したようだ。
しかし、驚くことに、今度はドイツの30年債利回りが日本のそれを下回った。
中国も、ドイツも「ジャパナイゼーション(日本化)」に陥り始めている。
世界経済にとっては憂うべき事態である。しかし、そこに少しの光明を見出そうとするなら、国際的な資産配分の観点からは日本株の買い材料になる。中国もダメ、欧州もダメとなれば、相対的に日本のポジションが高まるからだ。中国と欧州、ざっくり言って世界の半分がジャパナイゼーションに陥ろうとするなか、日本はそれを克服し、ようやく長いトンネルを抜け出ようとしている。海外とのサイクルがあまりにも違いすぎるが、今般は逆にそれが有利な立ち位置となりそうである。
こうしたことに加えて、前述の日本企業の構造改革が日本株相場の下支え要因となって大きな崩れはないだろう。仮に「令和のブラックマンデー」のような急落があっても、すぐに買戻しが入るだろう。
マネックス証券
チーフ・ストラテジスト
広木 隆氏
上智大学外国語学部卒。神戸大学大学院・経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。帝京平成大学・人文社会学部経営学科教授。社会構想大学院大学・客員教授。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。2010年より現職。テレビ東京「モーニングサテライト」、BSテレビ東京「NIKKEI NEWS NEXT」等のレギュラーコメンテーターを務めるなどメディアへの出演も多数。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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