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民営企業に成長ポテンシャルも 構造要因で経済成長率に下押し圧力(後編)

Finasee / 2024年12月27日 6時30分

民営企業に成長ポテンシャルも 構造要因で経済成長率に下押し圧力(後編)

Finasee(フィナシー)

 大和総研
経済調査部長 主席研究員
齋藤 尚登 氏
 

――中国経済が浮揚する可能性はあるのでしょうか。

基本的には厳しい見通しですが、1つ明るい材料としては民営企業のポテンシャルがあります。

これまで中国政府は「国進民退」という、民営企業よりも国有企業を優遇する政策を進めてきました。社会主義的な志向が強い習近平国家主席は、国有企業をより強く、より大きくしていく方針をとってきたわけです。

しかしここにきて、政策転換の動きが見えています。中国のGDPの約6割を民営企業が占め、雇用の8割以上を担っている現状を踏まえ、中国政府は10月に、公平な市場参入と競争、生産要素の平等な使用などをうたった「民営経済促進法」の草案を発表しました。これが実際に機能すれば、民営企業が活性化し、経済が上向く可能性はゼロではありません。これまで一貫して続けてきた国進民退の姿勢を抜本的に転換できるのか、習近平氏の覚悟と本気度が問われていると言えるでしょう。

また習近平氏が完全に引退すれば、それまでの社会主義的志向を転換し、経済の立て直しが進む可能性もあります。民営企業重視の方向へうまくかじ取りができれば、中国にはまだ成長余力が残されていると思います。

――日本の「失われた30年」と中国の現状は、よく似ているとの指摘も聞かれます。

日本と中国の状況は、大きく異なる部分があります。確かに不動産不況が経済低迷の主因になっている点はよく似ていますが、バブル崩壊当時の日本と異なり、中国の金融機関の不動産関連融資は意外に少ないのです。銀行貸出に占めるデベロッパー向けの割合は5~6%ですし、住宅ローン向けは15~16%程度で、不動産全体でも2割強です。しかも、その割合は徐々に減ってきています。このように銀行に過度なリスクを負わせていないため、不動産不況を端緒とする金融危機は起こりにくいと見られます。

したがって、実需に見合うように供給量を絞っていけば、不動産価格の暴落は回避できるかもしれません。国の経済成長率は下がりますが、経済全体を縮小均衡しながらソフトランディングさせることも可能でしょう。これが、今後の中国経済のベストシナリオだと思います。

米中対立で世界経済の分断が進むがポイントは習近平政権が続くか否か

――中国経済の動向が、日米をはじめ世界にもたらす影響をどう見ていますか。

中国経済の成長力は低下のフェーズに入っているので、世界経済の牽引役としての力は次第に落ちていくことになるでしょう。

それでも米中の対立構図は基本的に変わらず、覇権争いが続くと思われますが、有利なのはやはり米国でしょう。人口動態ひとつとっても、先述の通り中国の人口は大きく減っていく一方で、米国の人口は今後も増えていく見通しです。大統領選で勝利したトランプ氏の移民に対する姿勢はネガティブですが、それでも年間の移民の純流入は続くでしょうし、そもそも米国の合計特殊出生率は先進国の中では相対的に高水準を維持しています。

人口が大きく減る国と増える国を比べれば国力の差が歴然としているのは言うまでもなく、依然として世界経済の覇権は米国が握り、中国の存在感は薄れていくと見られます。

世界の覇権が遠のき西側諸国との関係が悪化する中にあって、中国は今後、独自の経済圏構想「一帯一路」や、新興国・発展途上国が集まる「グローバルサウス」の関係構築により注力していくと思われます。そうなれば世界経済は、米国をはじめとする西側先進国と、中国を中心とする新興国・発展途上国という2つのブロックに分かれていく可能性があります。

そこで日中関係ですが、これは非常に厳しい見通しです。第2次安倍政権時の関係は比較的良好だったのですが、日本が先端半導体製造装置の輸出規制を強化したことで、中国の対日感情が一気に悪化した印象です。

それでも米中対立などを横目に、中国政府は日本に対してある程度は神経を使っていましたが、これから日本の経済力が相対的に低下し、国際社会での力が弱まっていく可能性がある中で、中国にとっての日本の重要度は徐々に下がっていくでしょう。加えて、米国との覇権争いで劣勢を強いられる中で、米国の代わりに「日本をたたく」ということは当然考えられます。

石破茂政権で日中関係が改善の方向に進むかどうかは不透明です。日本企業は対中依存度が高くなりすぎないように常にコントロールする必要があるでしょう。

――機関投資家が中国経済を見通す上で、チェックしておくべきイベントを教えてください。

何より留意すべきイベントは、5年に1度開かれる中国共産党大会です。次の開催は2027年ですが、そこで習近平氏が留任するのか否か。完全引退となれば、習近平政権が継続してきた国進民退からの脱却など、中国経済の抜本的変化が期待できます。

もし習近平氏が留任するとなれば、現状の政策が続いていくと予想されますが、そうなれば経済は悪化する一方でしょう。また政権維持のために、台湾有事などのリスクが顕在化する可能性も否定できません。習近平氏留任の見通しが立ったら、機関投資家は中国経済に対する目線をもう一段下げていく必要があるだろうと思います。

オルイン編集部

「オルイン」は、企業や金融機関で業務として資産運用に携わるプロフェッショナル向けの専門誌です。株式・債券といった伝統資産はもちろん、ヘッジファンドやプライベートエクイティ、不動産といったオルタナティブもカバーする、国内随一の年金・機関投資家向け「運用情報誌」として2006年に創刊。以来、日本の年金基金や金融法人、公益法人といった機関投資家の運用プロフェッショナルに対し、その時々のタイムリーな話題を客観的かつ独自の視点でわかりやすくお伝えしています。

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