BRICSは「ドルによる覇権」に異を唱えるが…新たな共通通貨はまだまだ先といえる“これだけの理由”
Finasee / 2025年1月9日 11時0分
Finasee(フィナシー)
2025年は、アメリカ・ファーストの政策を掲げるトランプ大統領の返り咲きによって、世界経済の先行きは不透明感が強まりそうです。野村総合研究所、中央大学大学院教授などを経て評論活動に専念している髙橋琢磨氏は新著『通貨覇権の興亡』のなかで、米中の対立を軸に米ドル1強の世界がどう変わるのかをつぶさに分析しています。今回は本書から南米でも強まる脱ドルの動きを紹介します。(全2回の1回目)
※本稿は、髙橋琢磨著『通貨覇権の興亡』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。
ドルによる覇権に異を唱えるBRICS多くの新興国は為替取引で米ドルへの依存を減らしたいと考えているのは確かだろう。アメリカがドルの支配的な地位を使ってロシアに金融制裁を実施したことで、一部の国々が「脱ドル」を考える契機となったのだ。
BRICSが西側陣営と対峙するシンボルとして「ドル覇権への挑戦」という旗を掲げるのはそれなりに説得力を持つ。ブラジル大統領、通称ルーラ・ダ・シルヴァが提唱するのは、BRICS共通通貨だ。だが、ユーロにならった共通通貨が成立するためには、マンデルの提唱した最適通貨圏(OCA:Optimal Currency Area)の条件を満たすかどうか、まずは理論的なチェックが必要だろう。
OCAの条件として、①対象国間で産業構造に類似性があること、②対象国間で貿易開放度および貿易依存度が高いこと、③対象国間で生産要素価格の伸縮性・移動性の高さがあること(≒端的には労働力の移動が自由であること)、④対象国間で円滑な財政移転が可能なことの4つが挙げられる。
見切り発車ができる状態ではないユーロ圏ですら最近でこそ基金を設け、④の対象国間である程度の財政移転を可能にしたものの、ユーロ発足時にはOCAの条件を満たしておらず、スタートできるかどうか危ぶまれたが、見切り発車した経緯がある。ユーロを導入すれば自然に産業構造などが変化し、景気循環も収斂して条件が整っていくと考えたのである。
一方、地理的にも文化的にも乖離が大きいBRICSの場合、現加盟国でみても、拡大BRICSでみても、この条件はまったく満たせていない。到底、見切り発車ができる状態ではない。BNYメロンの市場・戦略・インサイト部門を率いるボブ・サベージが、「米ドルがすぐに世界的な基軸通貨としての地位を失うことはないだろう」と述べ、BRICSがドルに代わる通貨を創出したり、見つけようとしたりしてもすぐには取って代わる通貨を見いだせないからと指摘するゆえんだ。
それでもルーラ大統領は、BRICS銀行の2023年の総会で「なぜすべての国が自国の貿易取引をドル建てでしなければならないのか」と呼びかけた。
●第2回は【「アメリカがドル覇権の特権を振り回すのはけしからん」…着々と進む人民元決済の拡大の実態】です。(1月10日に配信予定)
通貨覇権の興亡著者名 髙橋 琢磨
発行 日本実業出版社
価格 2,420円(税込)
髙橋 琢磨/経済評論家・作家
1943年岐阜県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。MBA(カリフォルニア大学バークレー校)、論文博士(中央大学)。野村総合研究所時代には、ニューヨーク駐在、ロンドン拠点長、経営開発部長、主席研究員などをつとめ、北海道大学客員教授、中央大学大学院教授などを経て、評論・著作活動に。
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