「アメリカがドル覇権の特権を振り回すのはけしからん」…着々と進む人民元決済の拡大の実態
Finasee / 2025年1月10日 11時0分
Finasee(フィナシー)
2025年は、アメリカ・ファーストの政策を掲げるトランプ大統領の返り咲きによって、世界経済の先行きは不透明感が強まりそうです。野村総合研究所、中央大学大学院教授などを経て評論活動に専念している髙橋琢磨氏は新著『通貨覇権の興亡』のなかで、米中の対立を軸に米ドル1強の世界がどう変わるのかをつぶさに分析しています。今回は本書から南米でも強まる脱ドルの動きを紹介します。(全2回の2回目)
●第1回:BRICSは「ドルによる覇権」に異を唱えるが…新たな共通通貨はまだまだ先といえる“これだけの理由”
※本稿は、髙橋琢磨著『通貨覇権の興亡』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。
FRBが政策転換に振り回される新興国ダラリゼーション(自国通貨に代わってドルが大々的に流通すること)が起きていればもちろん、たとえダラリゼーションが起きていなくても、ドル建てで借金を重ね、ドル建てで貿易決済をしている現状に国際投資の動きが絡めば、FRBが政策転換を図るたびに新興国が振り回されるという問題が起こっていた。
たとえば、FRBが利上げする局面では新興国からアメリカ本国への資金引上げが起こり、新興国は通貨安を伴ったインフレに直面し、新興国の中央銀行は「望まぬ利上げ」を強いられることになる。これはアメリカが新興国に「国内経済の低迷も甘受せよ」と言っているに等しい。
こうした現状を踏まえ、E7(中国、インド、ロシア、ブラジル、インドネシア、メキシコ、トルコ)が2030年にはG7を凌駕する近い将来を展望すれば、「いつまでもアメリカがドル覇権の特権を振り回すのはけしからん」という心境が芽生えても不思議ではない。
人民元決済が拡大実際、中国政府は相次ぎ二国間協定の締結に動き、ブラジルとは2023年に入ってから対中貿易で人民元決済を始めた。2022年には、鉄鉱石、大豆、原油などブラジルの中国向け輸出が897億ドル、中国からの輸入は607億ドルで、対中輸出入がほぼ見合っており、最大の相手国でもあることから人民元決済も導入しやすく、実効性がありそうだ。
一方、アルゼンチンは2023年4月、中国からの輸入品の決済を米ドルから人民元に切り替えると発表しているが、アルゼンチンでの政権交代でいったん宙に浮くことになった。
また、ロシアがヨーロッパから原油や天然ガスの輸出仕向け先を振り替える際には、輸入国が主導権をとり、人民元建て、ルピー建てが増えた。つまり、西側諸国の輸出規制を受けるロシアが中国製品への依存度を高めるという、ロシアの対中国従属化で「脱ドル化」が進んでいる。
一方、対インドでは2022年2月まで日量5万バレル程度だったインドのロシア原油輸入が、最近は日量200万バレル前後まで急増し、それがルピー建てで決済され続けているが、インドには中国のようにロシアへ輸出できるものがない。ルピーがロシアに積み上がっているという状況だ。いずれ、先輩格のイランが対中国で差額決済に持っていったような工夫とともに、その尻をハードカレンシー決済にするといった措置に持っていかざるを得ないだろう。
通貨覇権の興亡著者名 髙橋 琢磨
発行 日本実業出版社
価格 2,420円(税込)
髙橋 琢磨/経済評論家・作家
1943年岐阜県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。MBA(カリフォルニア大学バークレー校)、論文博士(中央大学)。野村総合研究所時代には、ニューヨーク駐在、ロンドン拠点長、経営開発部長、主席研究員などをつとめ、北海道大学客員教授、中央大学大学院教授などを経て、評論・著作活動に。
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