三井不動産【8801】株式分割&株主優待で上場来高値後の低迷理由は? 3期連続最高益で巻き返しなるか
Finasee / 2024年12月26日 6時0分
Finasee(フィナシー)
分割&株主優待の新設で上場来高値 足元は公表前を下回る
三井不動産は2024年3月、株式分割と株主優待制度の新設を公表しました。分割割合は1:3、株主優待は100株以上の保有でポイントが進呈されるものです。ポイントは商業施設「ららぽーと」や「三井アウトレットパーク」などで利用できます。
この発表は投資家に好感されたようです。同月29日には上場来高値となる1709.5円まで買われました。
しかし、足元は調整色が強まっています。4月中ごろから値下がりが続いており、足元は1200円台で取引されています。これは公表時の株価(1381.33円、2024年3月1日終値)を割り込む水準です。
【三井不動産の株価チャート(過去5年間)】
・株価:1239.5円(2024年12月18日終値)
なお、三井不動産は2024年8月に「JPXプライム150指数」へ採用されました。採用理由は市場評価性(PBR基準)の高さです。純資産に対して株価が高く、投資家の支持が厚いと評価された格好です。
しかし上述のとおり、足元の株価は軟調です。再浮上の見通しはあるのでしょうか。足元の業績から探ってみましょう。またカギを握る新しく公表された長期経営方針についても解説します。
総合デベロッパー、売上は業界トップクラス 築地の開発予定者に選定三井不動産は総合デベロッパーの大手です。デベロッパーとは一般に、物件の開発を自ら行う事業者を指します。特に三井不動産は規模が大きく、売り上げは業界で最大級です。
【主な総合デベロッパーの売り上げ(2024年3月期)】
・三井不動産:2兆3833億円
・三菱地所:1兆5047億円
・東急不動産:1兆1030億円
※三菱地所は営業収益、その他は売上高
出所:各社の決算短信
三井不動産は都心の再開発の多くに携わっています。2024年4月には東京都の「築地まちづくり」の事業予定者に選定されました。築地市場の跡地を開発するもので、総事業費は約9000億円と見積もられています。事業予定者は11社(のちに10社へ変更)の企業団ですが、三井不動産はその代表を務めます。
ここで三井不動産の事業を整理しておきましょう。セグメントは「賃貸事業」「分譲事業」「マネジメント事業」「施設営業事業」「その他事業」の5つです。不動産にまつわる多様なビジネスを展開しています。
主力は賃貸事業と分譲事業です。賃貸事業はオフィスや商業施設などの貸し出し、分譲事業は戸建てやマンションなどの販売です。分譲マンションは「パークタワー」や「パークシティ」などのブランドで展開しています。賃貸事業と分譲事業は海外の収益も含まれます。
マネジメント事業は不動産の管理や資産運用などです。資産運用にはREIT(不動産投資信託)も含まれており、「日本ビルファンド投資法人」を筆頭に4本を運用しています。
施設営業事業はホテルやスタジアムの営業などです。三井ガーデンホテルズや帝国ホテル、ハワイのリゾート施設、東京ドームシティなどを運営しています。なお、帝国ホテルは持分法適用関連会社です。
その他事業は新築請負やリフォームなどです。子会社を通じて建築やリフォーム工事を請け負っています。またゴルフ場事業や花き・種苗・園芸用品などの小売り、送配電・熱供給事業などもその他事業に含まれます。
【三井不動産のセグメント業績(2024年3月期)】
出所:三井不動産 決算短信 売上・利益ともに過去最高 今期は低進捗も予想は据え置き次に業績を解説します。三井不動産は順調に事業を拡大しており、売り上げと利益はおおむね右肩上がりに増加しています。
直近10期はすべて増収でした。利益も2021年3月期を除き、いずれも増益です。直近の2024年3月期で売上高と各段階利益は過去最高を更新しました。過去最高の更新は売上高が12期連続、各段階利益は2期連続です。
なお、2021年3月期の減益は新型コロナウイルスの影響が主因です。商業施設やホテルの休館や稼働率の低下などが響きました。純利益の減少は、新型コロナウイルス関連の損失と土地や建物などの減損を特別損失に計上したことも影響しています。
出所:三井不動産 有価証券報告書より著者作成今期(2025年3月期)の見通しも押さえましょう。三井不動産は今期から新たな利益指標として「事業利益」を開示しています。
事業利益とは企業の全体的な利益を指します。三井不動産の定義は、営業利益に持分法投資損益と固定資産売却損益を加算したものです。経常利益から見れば金融損益などの控除前、純利益から見ればさらに税費用などの控除前の利益と考えられます。
売上高は今期も伸長する見込みです。達成できれば過去最高を13期連続で更新します。利益は、経常利益を除いて増益の予想です。
経常利益の減益予想は、営業利益が前期並みにとどまる中、金利負担の増加を見込むためです。なお、税費用の増加も見込みますが、純利益は増益の予想です。このことから、費用を上回る特別利益の計上を計画していることが読み取れます。
【三井不動産の業績予想(2025年3月期)】
・売上高:2兆6000億円(+9.1%)
・営業利益:3400億円(+0.1%)
・事業利益:3700億円(+6.9%)
・経常利益:2600億円(-2.9%)
・純利益:2350億円(+4.6%)
※()は前期比
※同第2四半期時点における同社の予想
出所:三井不動産 決算短信
今期は中間まで決算を公表しています。進捗率は売上高が45%、事業利益が47%、純利益が38%です。消化ペースは低調ですが、業績予想は据え置かれました。下期の取り組みが期待されます。
新しい経営方針を公表 2030年度までに純利益1.7倍、ROE 10%以上を設定より長期の見通しも確認しておきましょう。三井不動産は2024年4月、新しい長期経営方針「& INNOVATION 2030(アンド・イノベーション・2030)」を公表しました。2031年3月期を最終年度とする計画です。
長期経営方針では定量目標が掲げられました。成長性と効率性の指標として、それぞれEPS成長率とROEを設定しています。
EPSは1株あたり純利益、ROEは自己資本に対する純利益の割合です。2030年度前後を目標に、EPS成長率は年間8%以上、ROEは10%以上を目指します。なお、マイルストーンとして2027年3月期まではより多くの目標が設定されています。
【長期経営方針の主な財務目標】
※EPS成長率の実績は2017年3月期比の幾何平均
※総還元性向と配当性向の実績は2024年3月期時点の予定
財務目標の到達期を2031年3月期と仮定すれば、EPSが毎年8%以上で成長したとき、株式数が変わらないなら純利益は2024年3月期から1.7倍以上に増加します。
三井不動産は「三本の道」とする事業戦略で成長を目指します。三本の道とは、コア事業の成長、新アセットクラスへの展開、新事業領域です。コア事業の成長は海外事業の強化など、新アセットクラスへの展開はラボ&オフィス事業やデータセンター事業などです。新事業領域は、注力分野を見極めて投資を実行します。
三本の道の推進に向け投資も積極化します。コア事業は成長投資として2026年度までに2兆円程度、新事業領域は2030年度までにM&Aで4000億円以上、スタートアップ出資で1000億円以上を投じる計画です。
さらに株主還元にも資金を振り向けます。上記の財務目標は、純利益と同時にROEも上昇させる計画です。したがって、ROEの分母となる自己資本は、利益剰余金の積み上がりをこなしつつ減少していなければなりません。つまり株主還元も相応の規模で行われることが期待されます。
計画では2027年3月期までの毎期で総還元性向50%以上を目指すことが設定されました。自社株買いが行われればEPSの上昇にも寄与するでしょう。三井不動産は2027年3月期までの株主還元の額を4000億円程度と見積もっています。
今期(2025年3月期)は長期経営方針の初年度です。売り上げや利益だけでなく、長期経営方針への進捗も注目を集めるでしょう。第3四半期の決算は2025年2月、本決算は同年5月に公表の予定です。
文/若山卓也(わかやまFPサービス)
若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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