2025年、世界を揺るがすトランプ関税。日本の投資家が備えるべきリスクシナリオとは…第一生命経済研究所・永濱利廣氏に聞く
Finasee / 2025年1月10日 12時0分
Finasee(フィナシー)
歴史的な乱高下に象徴された2024年、日本は解散総選挙でリスクオンの異例
――2024年を振り返って、世界経済および金融市場の主な動き、流れは?
日銀が利上げサイクル入りする中で日本の長期金利は上昇して市場も乱高下する局面があったが、想定上に米国経済が堅調だったことや、トランプ再選トリプルレッドなどもあり、ドル高圧力がかかりやすい年となった。
特にドル円で30年以上ぶりの1ドル160円台を記録したことや、日銀のタカ派スタンスへの豹変やサームルール※点灯に伴う世界同時株安など、総じて日米の金融政策と日米の政局を巡って市場が大きく乱高下した一年だった。
こうした中で特に興味深かったのは、日本の解散総選挙で少数与党になって政権が不安定となり、通常であればリスクオフになるのだが、逆に消費者の目線に立った経済政策を打ち出す国民民主党がキャスティングボートを握った結果、リスクオンになったことである。
※サームルール…景気後退期開始の目安となる失業率に関する指標
2025年の米国経済は前半堅調も後半にかけ減速、利上げは2回程度――2025年の世界経済の見通しは?
最も大きなカギを握るのは、米国の政治と金融政策の動向だ。年明け発足のトランプ政権がどのタイミングでどんな政策を発動するのか。加えて、連邦準備制度理事会(FRB)が中立金利に向けてどんなペースで利下げを実施するかも、マーケットを大きく左右するだろう。
具体的な展開としては、就任当初はシェールオイル増産期待などから原油価格の下落を通じたディスインフレで米経済は堅調に推移するが、年後半にかけて追加関税引き上げの影響が顕在化することから、経済成長率が減速に転じると予想する。
具体的な米国経済成長率の見通しはプラス2%程度と24年からやや減速を見込むも、潜在成長率とされる1%台後半は引き続き上回り、インフレ率が下がりにくい環境が続くだろう。こうした中、FRBの利下げは年2回程度となり、緩やかな金利低下とドル安基調の中、株価は年前半は上がるが、後半は踊り場という展開を予想する。
日本の経済成長率は1%程度に改善、ドル円はやや円高レンジに――2025年の日本経済の見通しは?
一方で日本の経済成長率は1%程度となり、マイナス成長の可能性が高い24年よりやや改善すると予想。24年はスタグフレーションに伴う民間の実質購買力の低下等から低成長となったが、25年は人手不足に伴う前年並みの春闘の一方で、民間の節約志向などから企業の値上げペース鈍化などによりインフレ率が低下し、実質賃金がプラスに転じると期待される。
ただ、実質賃金プラスは日銀の追加利上げを後押しすることになり、利上げは年2回を想定。結果として株価は年前半はそこそこ堅調に推移も、年後半は米国の追加関税の影響などを受け、踊り場からやや調整局面を見込む。
長期金利は日銀による利上げが実施される半面、米長期金利の低下の影響も受け、1%台前半で推移。ドル円はやや円高レンジに振れるだろう。
リスクシナリオはトランプ政権の過剰な追加関税――2025年のマーケット展望は?
欧米が中立金利に向けた緩やかな利下げを続ける一方で、日銀が緩やかな利上げを進めることから、為替相場は24年よりもやや円高レンジにシフトすると見ている。トランプ大統領のドル高けん制発言も円高ドル安に加担。とはいえ、24年の150円台中心のレンジが140円台中心のレンジにシフトする程度だろう。
長期金利も各国で緩やかな金融政策シフトにとどまるため、米国で4%程度が中心レンジ、日本も1%台前半で安定すると予想している。
一方でリスクシナリオは、トランプ大統領の行き過ぎた追加関税が市場に悪影響をもたらすことだ。そうなると、トランプ1期目の2年目のように、米経済が大幅減速し、日本経済も景気後退局面入りする可能性が高い。となれば、ドル円も130円台中心レンジまで円高ドル安が進み、米長期金利も3%台、日本の長期金利も1%割れ水準となろう。
トランプ政権1期目が参考に。国内は大阪万博関連の経済効果にも注目――2025年、投資家が注目すべき点は?
トランプ政権1期目の動きが参考になるだろう。ちなみに、トランプ1期目はシェール増産に伴う原油安とトランプ減税期待で1年目の株価は上がったものの、2年目は追加関税掛け合いの影響で株価は踊り場からやや下落。そして3年目は、2年目の米経済悪化を受けた利上げの打ち止めと利下げ期待により再び株価は上昇に転じている。
このため、今回もどのタイミングでドル高けん制発言やシェールの増産、そして何よりも追加関税が発動されるかに細心の注意を払うべきだろう。そして注目指標としては、やはりFRBのデュアルマンデート※にかかわる物価と雇用のデータが挙げられる。日本では流動化している政局に加え、4月から始まる大阪万博関連の経済効果にも注目だ。
※デュアルマンデート…「物価の安定」と「雇用の最大化」という2つの使命
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
永濱 利廣氏
早稲田大学理工学部工業経営学科卒、東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。第一生命保険に入社後、日本経済研究センターに出向。現在、第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。内閣府経済財政諮問会議有識者、総務省消費統計研究会委員、景気循環学会常務理事、跡見学園女子大学非常勤講師。2015年に景気循環学会中原奨励賞受賞。著書は『「エブリシング・バブル」リスクの深層 日本経済復活のシナリオ』(講談社、共著)、『給料が上がらないのは、円安のせいですか?通貨で読み解く経済の仕組み』(PHP研究所)ほか多数。
Finasee編集部
「一億総資産形成時代、選択肢の多い老後を皆様に」をミッションに掲げるwebメディア。40~50代の資産形成層を主なターゲットとし、投資信託などの金融商品から、NISAや確定拠出年金といった制度、さらには金融業界の深掘り記事まで、多様化し、深化する資産形成・管理ニーズに合わせた記事を制作・編集している。
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