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「eMAXIS Slim」の爆売れと新NISA成功は印象的だが…“ある運用会社の事業終了”も重要なワケ【2024年投信振り返り】

Finasee / 2024年12月27日 12時0分

「eMAXIS Slim」の爆売れと新NISA成功は印象的だが…“ある運用会社の事業終了”も重要なワケ【2024年投信振り返り】

Finasee(フィナシー)

2024年もいよいよ年の瀬。

この1年間、投資信託業界でもさまざまな出来事がありましたが、そのうち大きなものとしては以下の3つが挙げられるでしょう。

1.NISAの制度見直し
2.インデックスファンドの隆盛
3.投資信託会社の事業継続性

それぞれについて簡単に解説していきたいと思います。

まずNISAの制度見直しです。これはさまざまなメディアでも触れられたので、改めて仕組みについて解説する必要はないと思いますが、生涯非課税枠が1800万円まで拡大されるのと同時に、制度の恒久化、非課税期間の無期限化が実現し、NISAの利用者、利用額は大きく伸びました。

金融庁が定期的に公表している「NISA口座の利用状況に関する調査」を見ると、2023年の1年間で開設された口座数は、一般NISAが約76万口座、つみたてNISAが約248万口座で、合計約324万口座でした。

それが2024年1月にNISA制度の見直しが行われて以降、6月時点までの半年間で開設された口座数は、成長投資枠とつみたて投資枠の別は公表されていませんが、合計で約300万口座です。残り半年間でどの程度、口座が開設されたかについてはまだ先の公表になるので、何とも言えませんが、口座開設のペースが一気に加速したと考えられます。

ちなみに買付額で見ると、2023年1年間では一般NISAが3兆5409億円、つみたてNISAが1兆6972億円であるのに対して、2024年の半年間の買付額を見ると、一般NISAの流れをくむ成長投資枠は7兆9163億円、つみたてNISAの流れを汲むつみたて投資枠は2兆2178億円なので、明らかにNISAを通じての買付額は増えています。少なくとも2024年6月までの数字を見る限り、NISAの制度見直しは成功だったと言えるでしょう。

一方、日本証券業協会が公表している、証券会社10社の統計によると、2024年中におけるNISA口座開設件数は、1月が73万口座だったものの減少を続けています。月末時点における口座数推移の前月比は、

2月:3.99%
3月:3.19%
4月:1.51%
5月:1.69%
6月:1.47%
7月:1.18%
8月:1.49%
9月:0.77%
10月:0.76%

大手証券会社10社の数字なので、全体像を示しているわけではありませんが、傾向は見えるでしょう。月を追うごとに、増加率は低下しています。

なお、6月末時点のNISA口座数は全体で2425万2356口座でした。2024年6月時点における20歳から59歳までの人口は、約6077万人ですから、もっとNISA口座が増えても良いはずです。その意味で、月を追うごとにNISA口座の開設数が低下しているのは、いささか心配でもあります。

資金流入や純資産総額でみれば、「eMAXIS Slim」のひとり勝ち

2点目はインデックスファンドの隆盛です。三菱UFJアセットマネジメントによって設定・運用されている「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の純資産総額が、10月28日時点で、ETFを除く公募型投資信託のなかでは過去最大の純資産総額になりました。その額は5兆7696億円で、それまで過去最大だった「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の5兆7685億円を抜いたのです。

これは私が計算した概算値なので、正確な数字と若干乖離(かいり)はあるかと思いますが、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の資金純流入額は、新NISAが始まる前、2023年12月の1カ月間が約780億円だったのが、2024年1月が2090億円、2月が1780億円、3月が1550億円というように、毎月1000億円超の月が続いています。

これは「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」も同じで、2023年は1カ月あたり多い月で1000億円、少ない月だと300億円台だったのが、2024年に入ってからは2000億円から3000億円の資金純流入が続いています。ちなみに、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」の純資産総額は、12月23日時点で4兆9822億9500万円です。

ちなみに、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の純資産総額が12月23日時点で6兆3593億1900万円となり、両者には1兆3770億2400万円の差がありますが、現在のペースでの資金流入が続くと、来年の今頃は両者の規模が逆転し、「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」が純資産総額のトップになっているかもしれません。

PayPayアセットマネジメント事業終了が残したもの

そして3点目ですが、恐らくこれが来年の投資信託で大きな問題になると考えています。運用会社の事業継続性です。

日本の運用会社は長年、大手金融機関ならびに外資系金融機関の日本子会社として設立され、事業を展開してきました。そのため大半の運用会社は、それほど資金が集まらなくても、とりあえず事業を継続できました。

実際、過去において投資信託事業を行ったものの、金融庁からの業務改善命令に従わず、行政処分でライセンスを取り消された運用会社が2社ありました。ムーンライトキャピタルとあいグローバル・アセット・マネジメントがそれです。

しかし2025年9月末をめどに投資信託事業から撤退するPayPayアセットマネジメントの場合、業績悪化を主因として自ら事業撤退を決めた初めてのケースといっても良いでしょう。業績悪化による事業撤退という既成事実ができたことにより、今後、投資信託ビジネスが軌道に乗らない運用会社が、投資信託の運用から撤退することも十分に考えられます。

もちろん運用会社が投資信託事業から撤退したとしても、運用しているファンドの多くがインデックスファンドであれば、他の運用会社に運用を引き継いでもらうことも可能です。実際、PayPayアセットマネジメントも、インデックスファンドを中心にして他の運用会社に運用を移管させます。

しかし問題なのは、アクティブファンドの場合です。アクティブファンドの場合、運用会社が変わることによって、ファンドの運用哲学、運用方針、もっといえば運用担当者の能力も全く違うものになってしまう恐れがあります。いや現実問題として、全く同じ運用を継続できるとは、とても思えません。

NISAの制度見直しによって、長期間、非課税の恩恵を受けるために投資信託で資産運用する人が増えています。来年になればiDeCoの拠出限度額が引き上げられ、さらに長期の資産形成に対する関心が高まるでしょう。こうしたなか、アクティブファンドで資産を運用するのであれば、運用会社の事業継続性をしっかり見極める必要があります。

では、どうすれば運用会社の事業継続性を見極められるのか、ですが、まず投資信託協会のサイトから、「統計データ/調査」のタブから「運用会社別資産増減状況」をクリックしてください。このうち「純資産総額」の小さな運用会社は注意した方が良いでしょう。

ただし、この純資産総額はあくまでも個人向けに販売している投資信託ビジネスにおける純資産総額であり、なかには法人・機関投資家向けの運用を行っているところもあります。たとえばコモンズ投信の場合、上記の資料で見ると個人向け投資信託の運用資産総額は771億5300万円です。しかし、私募などそれ以外のファンドも含めた運用資産総額は、2024年3月時点で1144億2200万円もあります。運用資産総額がいくらあれば安心とは一概に言えませんが、できれば1000億円は欲しいところです。

純資産総額を把握したら、次は自分が購入したいと思っているファンドの運用会社の業績をチェックします。運用会社のホームページに、貸借対照表と損益計算書が掲載されているので、これを時系列でチェックすれば良いでしょう。赤字が何期も続いている運用会社は避けた方が無難です。

かつては大手金融機関系や外資系しか投資信託ビジネスに参入できませんでしたが、参入規制の緩和によって、独立系などもだいぶ増えてきました。

しかし、だからこそ事業継続性を十分にチェックする必要性が、ここ最近は特に高まってきていることを、認識しておくべきでしょう。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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