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「…情けないな」推しを現実逃避の道具にしていたと悔いる女性が見つけた「人生の目標」とは?

Finasee / 2025年1月8日 18時0分

「…情けないな」推しを現実逃避の道具にしていたと悔いる女性が見つけた「人生の目標」とは?

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

アラサーの満里奈は日韓共同の6人組アイドルグループLumiStar (ルミスター)、そして、メンバーのアユンを推していた。しかし、惜し活をはじめて7年、アユンが突如卒業する。しかも、そのわずか2週間後には若手実業家との婚約を発表することに。

グッズ購入やコンサート参加のため満里奈は毎年200万円近いお金をそして何よりも大切な時間をささげていた。満里奈は突然の推しの喪失に茫然自失となる。そんな折に誘われたのが同期入社した沙織の結婚披露宴だった。

久しぶりにそろう同期の面々。あるものは寿退社し子育てに追われ、あるものは起業し成功への道を歩み始め。皆、人生の目標に向かって行動を起こしていた。

それに引き換え推し活を優先した満里奈はいまだに下っ端として働いている。

「自分が惜し活にささげた7年は空虚な時間だったのではないか……」

満里奈は一人苦悩する。

●前編:「目標なんて何もなかった」推しが突然卒業し、アラサー女子が気づいた”惜し活”にささげた7年間の代償

満里奈は二次会などには参加せず、結婚披露宴が終わると真っ直ぐ帰ることにした。これ以上、成功しているかつての仲間たちとの時間を過ごすのは苦痛だった。

電車に揺られながら、満里奈はアユンと出会ったときのことを思い出す。

大学卒業後、今の会社に入社し、膨大な仕事量と厳しい上司に追い詰められて何か支えがないと立っていられないような状態だった。そんなときに出会ったのがルミスターであり、アユンだった。テレビで見ていたアユンは満里奈にとって太陽のような存在だった。慣れないダンスに悪戦苦闘しながらも、少しずつ上達をしていき、周りから評価を得ていく姿は満里奈にとっての希望だった。

だから、満里奈も面倒で退屈な毎日を乗り越えることができた。どれだけ辛い状況でもアユンは笑顔を絶やすことはなかった。その笑顔に満里奈も救われていた。

きっとアユンがいなかったら、今のように仕事を続けることはできなかっただろう。今、こうして当たり前に仕事ができているのはアユンのおかげだった。

だからアユンを推した日々に後悔はない。卒業後、ファンを切り捨てるように即結婚したとしても、推し活が終わったあと、満里奈の人生に何も残っていなかったとしても、満里奈とアユンが過ごした日々の輝きは変わらない。

悪いのは全て自分だった。アユンを理由に怠けていた。恋愛だって、仕事だって、推し活をしながら一生懸命になることはできたはずだ。

満里奈はいつしか、アユンを現実逃避の道具にしてしまっていた。上手くいかない現実から目を背けて、着実に成功をつかみ取っていくアユンに自分を重ねて悦に浸っていただけだ。

「……情けないな」

沈んでいたら、電車を乗り過ごしそうになり、満里奈は慌てて電車を下りた。閉まりかける扉をすり抜けて駅のホームに出る。慣れないヒールを履いていたからか、足がもつれて地面に転ぶ。

ストッキングが破れ、擦りむいた膝には血が滲んでいた。

英語ぺらぺらなんですか!

何かしなくちゃという焦燥感はあった。むしろ結婚式に行って、沙織や佑香や宏美の様子を知って、その気持ちは強まった。しかし思うだけで何をしたらいいか分からないまま、満里奈は漫然とした日々を過ごし続けていた。

「Excuse me.」

と、声をかけられたのは、クライアントとの商談を終え、新卒の智美と新宿駅の改札を出たときだった。

振り返ると、大きなリュックを背負った外国人女性2人組が満里奈のすぐ後ろに立っていた。

話を聞けば、浅草に行きたいがどの電車に乗ればいいか分からず困っているとのことで、満里奈は彼女たちが見せてくれたスマホを見ながら、乗り換えの仕方を英語で伝えた。

「Oh, thanks!」

「You’re welcome. Have a nice trip!」

2人組は手を振って改札へと入っていく。満里奈のとなりでは、一部始終を見ていた智美が目を輝かせていた。

「満里奈さん、すごいですね! 英語ペラペラなんですか!」

「え? あ、まあ、誰にも言ってなかったか……」

「もしかして帰国子女とか?」

「違うよ。たしか、5年前くらいからかな。本当にちょっとずつだけど、勉強してて」

「ちょっとずつの勉強で、あんなに喋れるようになるのすごすぎます」

「そんな大したことしてないよ。サブスクで映画とかドラマを見るときに英語音声の英語字幕にしてみたりとか、そんな感じ」

「へぇ~、やっぱみなさんちゃんと色々考えて勉強とかしてるもんですよね」

智子はずいぶんと好意的に解釈してくれたが、満里奈にとってはただの推し活の一環だった。

次は自分の番だ

世界を意識して活動していたアユンは英語の勉強に熱心で、かなり流暢に喋ることができたことはファンなら誰でも知っている。なかでも握手会などのイベント時、英語で話しかけるとアユンが喜ぶというのは、デビュー間もないころにネットニュースにもなった話題で、アユンが楽しめるならと満里奈も英語を必死に勉強した。

さっきこうして英語で道案内ができたのは、10数秒の握手のあいだに伝えたいことを伝えて、アユンの言葉を受け取らなければいけないイベントで培った英会話スキルのたまものだった。

日本に住んでいる限りはめったに使うことのないスキルなので忘れていたが、日本語ではなかなか話すことのできない気持ちでも、母国語ではない言葉で話すと自然と喋ることができたりするので、思っていたよりも楽しかったことを思い出す。とくに、ルミスターがロサンゼルスで初の海外公演を行ったとき、現地のファンたちと交流したのは、今でもいい思い出だ。

「私もなんか勉強しないとな、とは思うんですけど、なにやったらいいのか難しくて」

「そんな難しく考えなくてもいいと思うけど……私だって、別に英語が仕事に活かせてるわけじゃないし」

自分でそう言って、少し悲しくなった。アユンが芸能界からいなくなった以上、たまの道案内くらいでしか英語を喋る機会はないだろう。

「たしかにもったいないですよ。あんなに喋れるなら、海外のクライアント担当する部署とか、そもそも海外で働くとか、もっといろいろできそうなのに」

たぶん智子は何気なく言ったのだろう。だが満里奈はハッとした。

海外で仕事をするなんて考えてみたこともなかった。だけど、面白そうだと思った。同時に自分にそんなことができるだろうかというネガティブな感情も湧いた。

こんなとき、アユンならどうするだろうか。不安なときこそ、くじけそうなときこそ、アユンは努力で壁を乗り越えようとしていた。

そんな姿が、新卒入社で右も左も分からないまま上司に怒られる日々を過ごしていた自分に重なって、満里奈はアユンのファンになったのだ。

次は自分の番だ。

自然とそう思った。

「あ、でも辞めないでくださいね。私、満里奈さんにまだいろいろ教えてもらいたいことあるんで」

真っ直ぐに満里奈を見てくる智子に、満里奈は「教えることなんてないよ」と小さく笑った。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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