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棚からぼたもちで手に入った遺産2000万、しかし自宅に届く借金の督促状、夫驚愕のそのワケとは

Finasee / 2025年1月15日 18時0分

棚からぼたもちで手に入った遺産2000万、しかし自宅に届く借金の督促状、夫驚愕のそのワケとは

Finasee(フィナシー)

薄明かりの差し込むリビングには、拓郎の衣擦れの音だけが漂っていた。

壁際に置かれたデジタル時計は午前4時。そろそろ出発の時間だ。

拓郎は使い慣れたバックパックに機材を詰め込み、肩に背負うとそっと寝室を覗いた。ベッドの上で規則正しい寝息を立てている妻の悠里。拓郎はふっと微笑むと小声でささやいた。

「行ってくるよ」

当然返事はない。拓郎はそれ以上何も言わず、静かに寝室のドアを閉めて玄関へ向かう。愛用の一眼レフなどの機材が入ったキャリーケースの重量感を確かめ、やはり静かに家を出る。

今年42歳になった拓郎は、いわゆるフリーカメラマンだ。細々ではあるが、夫婦2人、十分に食べていけるだけの仕事を得ながらなんとかやっている。

「まだ暗いな……」

ふと青く染まった早朝の街を眺めてつぶやく。毎日見ているはずの光景も、時間が違えば新鮮な刺激を拓郎の感性に与えてくれた。

拓郎は白い息を吐き、鞄から取り出したカメラを構える。朝の澄んだ空気の隙間に、軽やかなシャッター音が差し込まれる。

派手になっていく妻

拓郎の日常に変化が訪れたのは突然だった。

悠里が叔父の遺産数千万を相続することになったのだ。彼は悠里の母の実弟にあたり、脚本家として名をはせた人物でもある。生涯独身を貫いた彼には直系卑属がおらず、実の家族である悠里の母や祖父母たちもすでにこの世を去っている。そのため、昔から可愛がっていた姪の悠里に財産を残すことにしたらしい。

「こんな話が本当にあるんだな」

悠里とともに弁護士から遺言書の内容を聞いたあと、拓郎は静かに言った。相続税などを差し引いても、拓郎たちの手元には2000万以上もの金が残る。いきなり降って湧いた相続の話は、まだ現実味がなかった。

「叔父さんらしいわね。結婚式のときだって、こっそり私たちを支援してくれてたし……」

「悠里を大切に思ってくれてたんだな。ありがたい話じゃないか」

「でも、私も拓郎も働いてるし、今は特に不自由してないでしょ? このお金、どうしよっか? とりあえず貯金? それともパーッと使う?」

「うーん、悠里の好きにすればいいと思うよ。叔父さんが悠里のために遺してくれたお金なんだし」

もともとなかったお金なんだし少しくらい贅沢をして過ごせばいいと、拓郎は思った。それに悠里にはこれまでたくさん苦労をかけてきた。自分の力ではないが、その苦労が少しでも報われてくれるのなら、拓郎も嬉しかった。

しかし数週間後、遺産の受け取り手続きが終わると、悠里は変わり始めた。

拓郎が最初に気づいたのは、彼女が新しいバッグを買ったとき。高級ブランドのエレガントなデザインが、彼女の姿をどこか新鮮に見せた。

「お、新しいバッグ? 似合ってるじゃないか」

「ありがとう。ずっと欲しかったやつなの。でも、ちょっと贅沢しすぎかな」

そうは言いつつも、悠里は次々と新しい服やアクセサリーを揃えていく。どれも彼女に似合っていたし、自由にできる叔父の遺産の範疇で買っている分には特に問題もない。

悠里の変化はそれだけではなかった。悠里は次第に外出が増え、知らない顔ぶれとの付き合いを持つようになった。

ある日、帰宅した彼女は明るい笑顔で拓郎に声をかけた。

「今日、すごい人たちと会ったの! 叔父さんの知り合いで、テレビのプロデューサーや芸能人がいたのよ」

「そうか。よかったじゃないか」

拓郎はパソコン画面から目を離さずに答えた。

「ねえ、次の食事会、あなたも来ない? 大きな仕事につながるかもしれないわよ」

その誘いに応じ、拓郎は数度その場に足を運んだ。悠里の華やかな衣装や巧みな会話術を横目に、彼女がこういった社交に本格的に溶け込んでいく様子が頼もしくもありながら、なんだか遠い存在になってしまったと一抹の寂しさを覚えもした。

しかし、悠里の言う通りそこでの出会いは大きな仕事に繋がった。広告代理店のディレクターと知り合い、企業PRの撮影や駅に張り出されるようなポスターの撮影を依頼されるようになった

2人の生活はゆっくりと変化を遂げ、やがてそれは日常となっていった。

まさかの督促状

半年が過ぎた。拓郎は玄関に無造作に積み上げられた数通の封筒を手に眉をひそめていた。封筒はどれも見覚えのない宛名から送られてきていたが、すべて悠里宛て。裏面の差出人の名前と、封筒の一部から見える「督促状」の文字が鮮やかな赤色で印字されていた。

「悠里、これ……」

封筒を持ちながら声をかけると、リビングのソファで雑誌を読んでいた悠里が顔を上げた。

次の瞬間、悠里の顔からさっと血の気が引いた。その様子を見て、拓郎の胸にざわつくような不安が広がるのが分かった。悠里が封筒をひったくり、雑誌の下に隠した。

「大したことじゃないから、心配しないで」

「いや、心配するなって方が無理だろ。何があったんだ?」

悠里は黙ったまま俯き、言葉を探しているようだった。拓郎はその沈黙が何よりも不穏な答えであることを理解した。

「悠里、ちゃんと話してほしい。さっきの封筒、あれは何だ? 『督促状』って書いてあったぞ」

悠里は、逃げ場がないことを悟ったのか、観念したようにソファに腰を下ろした。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「実は……カードローン……利用したの……」

「いくら?」

悠里はしばらく答えなかったが、震える声でようやく数字を口にした。

「……300万、くらい……」

「どうしてそんなことになったんだ?」

悠里は俯きながら答えた。

「叔父さんの遺産が入ったとき、気が大きくなってたの。あれこれ買い物して……それで、友達付き合いも広がって、交際費だって必要でしょ? 気づいたら、カードの支払いが膨らんで......でも、大丈夫だと思ってたの。そのときはまだ遺産があったから」

「で、その遺産は?」

思わず詰め寄るように言うと、悠里は蚊の鳴くような声で呟いた。

「……今はもう、ほとんどない」

拓郎は頭を抱えた。

遺産は悠里が相続したものだから、彼女が自由に使っていいと考えていた。だが、それがすでに底をつき、それどころか借金まで抱えているとは思いもよらなかった。

さらに消費者金融で200万円の借金があることも判明し、拓郎は愕然として悠里を見つめたが、言葉は出なかった。

●困惑する拓郎に悠里はぽつぽつと、500万円まで借金がかさんでしまったワケを語るのだった。後編【「贅沢するつもりなんてなかったの」遺産2000万を使い切り借金を重ねた妻がこぼす「知られざる苦悩」】で詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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