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「投資する方がいいと思ったんだよ!」長年貯めていたはずの娘のお年玉を使い込んだギャンブル狂夫のあきれた言い訳

Finasee / 2025年1月19日 11時0分

「投資する方がいいと思ったんだよ!」長年貯めていたはずの娘のお年玉を使い込んだギャンブル狂夫のあきれた言い訳

Finasee(フィナシー)

<前編のあらすじ>

佳菜子の一人娘美菜は20歳になり、ついに巣立ちのときを迎えていた。佳菜子は独り立ちする娘に渡そうと思っているものがあった。ずっと貯めてきたお年玉である。

口座の中身を確認しよう。そう思い、佳菜子は銀行に足を運ぶ。しかし、100万ほどあった預金はごくわずかしか残っていない。

思い当たる節があった。ギャンブル好きの夫・勇司だった。問い詰める佳菜子を前に勇司が口にしたのは、とんでもない使い込みの理由と呆れ果ててしまうような言い訳だった。

●前編:「…残高が、ない」ほとんど空になっていた門出の日に渡すはずだった娘の”お年玉貯金”その行方とは

夫は観念したように溜息をつき……

夕食の片付けを終え、美菜が自室に戻っていったタイミングを見計らって、佳菜子は切り出した。

「勇司、ちょっと大事な話がある」

彼はテレビのリモコンをいじりながら、「何だよ」と気のない返事をした。リビングには夫婦2人だけ。佳菜子の手には、今朝記帳したばかりの通帳があった。

「この通帳の残高……これはどういうことなの?」

勇司がぴたりと動きを止めた。

「……何の話だ?」

「とぼけないで。美菜のお年玉、全部貯金してたはずなのに、残高がほとんどないの。あなた、何か知ってるでしょう? ちゃんと説明して」

勇司は一瞬だけ目をそらした。そして、観念したように、ため息をついて言った。

「まあ、その……一応、悪いとは思ってるよ」

ガリガリと頭をかきながら使い込みを認めた勇司。

「自分が引き出したことは認めるわけね……何に使ったの?」

「競馬とかスロットとか、まあ色々……」

その言葉を聞いた瞬間、身体のなかの、内臓という内臓が沸騰した油のような怒りが噴き出した。

「嘘でしょ……⁉ どうして美菜のお金に手をつけたの? あの子のために貯めてたお金なのよ! 信じられない……!」

思わず声は鋭くなる。勇司は眉間にシワを寄せ、露骨に苛立った顔を見せる。

「そんなに責めるなよ。増やしてやろうと思ったんだよ。俺なりの親心ってやつだろ?」

「増やすって…そんなの、ただの言い訳よ! 使って遊んだだけじゃない」

「お前だって、ギャンブルでいい思いしただろ? 勝ったときは焼肉行ったり旅行行ったり、家族で楽しくやったじゃねえか」

「そんなの……」

佳菜子は思わず言葉に詰まった。

確かに、時々勇司がスロットや競馬で勝ったときに家族で贅沢をしたことはあった。しかし、そのために美菜の貯金が使い込まれていたとなれば話は別だ。

「美菜のために貯めてたお金なのよ。あなたが遊ぶお金じゃない。あの子が将来使うためのものだったの!」

「だから、悪かったって言ってんだろ!」

部屋の空気のすべてを薙ぎ払うように、勇司が声を荒げた。

「……そんなに責めるなよ。俺だって悪気があったわけじゃねえんだ」

張り詰めるリビングの空気に抗って、佳菜子は立ち上がる。

「悪気がなければ何をしてもいいわけじゃない」

勇司は黙り込む。リビングにはテレビから聞こえる笑い声がむなしく響いている。

同じこと聞くなよ

それから間もなく、勇司の使い込みは、美菜本人の知るところとなった。

「どういうことなの、お父さん?」

リビングに響く、美菜のいつになく冷たい声。テーブルの上には、件の通帳が置かれていた。

「だから、増やそうと思ったんだよ。母さんと同じこと聞くなよ」

勇司はどこか開き直ったような態度だった。

「競馬とか、スロットとかで?」

「そうだよ。俺だって家族のことを思ってやったんだ」

黙って見ていようと思っていた佳菜子だったが、思わず「は?」と低い声が出た。

「家族のことを思って? 美菜のためのお金を使い込んで、そんなのただのギャンブル依存じゃない!」

しかし売り言葉に買い言葉。勇司も声を荒らげて、佳菜子をにらむ。

「あー、もう! ちょっと借りただけだろ! それに銀行で寝かしとくより、投資する方がいいと思ったんだよ!」

「お父さん、それまじで言ってんの?」

美菜の鋭く冷たい視線が父親の威勢を削ぐ。

「……わ、悪かったって言ってるだろ!」

勇司の露骨な舌打ちが響く。

「俺だって失敗くらいするさ。でも、家族なんだから許してくれてもいいだろ?」

その言葉に、佳菜子と美菜は同時に息を呑んだ。  

「許せなんて簡単に言わないで」

美菜が小さな声で言った。

「信用を裏切られるのって、すごく辛いんだよ。たとえお金を返してくれたって、もう遅いから」

佳菜子は娘の横顔を見つめた。目にはうっすら涙が浮かんでいたが、それでも美菜は泣かないように必死で耐えていた。  

「お父さん、何もわかってないんだよ」

勇司はもう一度舌打ちをして、荒っぽく溜息をつく。その音が、壊れていく家族の音なのだと、佳菜子は遅れて気づくのだった。

気ままな生活が始まった

春めく柔らかな風に乗って、扉のベルの音が軽やかに鳴る。

「お母さん、遅いよ!」

駅前のカフェに着くと、美菜が手を振って佳菜子を出迎えた。まだ卒業してから1か月程度しか経っていないのに、社会人になった娘はどこか大人びた気がする。

「ごめんごめん。バスが遅れてね」

佳菜子が席に着くと、テーブルにはすでに水が2つ並んでいた。

「はい、注文どうぞ。お腹空いてるでしょ?」

「仕事はどう? 少しは慣れた?」

佳菜子は渡されたメニューを眺めながら尋ねた。

「うーん……どうなんだろう。先輩も同期もいい人たちばっかだけど、上司がいちいち細かくてちょっと苦手なんだよね。てかお母さんこそどうなの? 独り暮らしは」

「まあぼちぼち。でも気楽でいいもんよ。家事も1人分で済むしね」

佳菜子はあっけらかんと言って、少し大げさに肩をすくめる。

美菜が卒業し、独り暮らしを始めるタイミングで佳菜子は勇司に離婚届を突きつけた。佳菜子の見立てでは勇司が駄々をこねるだろうと思っていたが、貯金の使い込みから数か月のあいだの冷え切った視線が余程こたえたのか、勇司はすんなりとハンコを押した。佳菜子は今、1人用のマンションを借りて、気ままな生活を始めている。

とはいえ、これまでそれなりに賑やかな家で過ごしていたから、急に1人になったことは寂しくもある。ふと、美菜や勇司に話しかけてしまい、誰もいない部屋を振り返っては自嘲的に笑うのだ。

「あ、そうだ。お母さんに聞きたいことあったの。この前、同期が家に遊びにきたとき、ジュースこぼされちゃってさ。カーテンってどうやって洗うの? てか洗えるの?」

「なに、そんなこと? 洗濯表示見たらいいじゃない」

「見てもよく分かんないだってば」

大人びて見えたと言っても、こうして話していればいつまでも子どもなんだと改めて思う。もう少し、あるいはずっと自分は母親で、美菜は娘なのだろう。それはきっとこの先何があっても、どこにいても、変わることはない。

ふと視線を投げた窓の外で、雀が1羽、青い空に飛んでいく。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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