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「謝罪botかよ」年始から突如働けなくなった夫にバリキャリ妻が辛辣な言葉を投げかけたワケ

Finasee / 2025年1月22日 19時0分

「謝罪botかよ」年始から突如働けなくなった夫にバリキャリ妻が辛辣な言葉を投げかけたワケ

Finasee(フィナシー)

夫が会社に行かなくなった。

年末年始の長い休みを終えたときのことだった。

「ちょっとしんどいから休むね」

出社のための身支度を整えた里沙が寝室にいる夫に声をかけると、ベッドに潜りこんだままの夫の明らかにしなびた声が返ってくる。昨日の晩から頭が痛いと言っていたし、休みとはいえお互いの実家に顔を出したりしなければならない年末年始は慌ただしく疲れがたまっていたのだろう。

「分かった。風邪薬の場所分かるよね? 今日、会議あるから帰り遅くなるけど、私のご飯は心配しなくていいから」

里沙は特に気に留めずに家を出た。

人間なのだから体調を崩すことだってある。体調管理だって社会人の基本だが、もうお互い30代も後半に差し掛かる立派な大人だ。そんな分かり切ったことを今さらつべこべ言う必要もない。

しかし休みも1日、2日、と積み重なれば話は別だった。

夫は年が明けてから1度も、つまりもうかれこれ10日近く、仕事を休み続けている。

仕事から帰ってきた里沙は、ソファで毛布にくるまりながら、寝ているのか起きているのかも判然としない夫の様子にいら立ちを覚える。

たしかに夫が勤める出版社は激務だ。作家のなかには明らかに常識やマナーが欠如したものもいるし、土日でも夜中でも関係なく連絡が来ては急ぎ対応しなければならないような不規則さもある。

とはいえ、この世の中に大変ではない仕事なんてない、と思う。里沙が働く中堅の医療機器メーカーが相手にする医者は非常識で高圧的な人も多いし、毎日の残業は当たり前。繁忙期になれば帰宅が0時を超えることだって珍しくはない。

当然、嫌なことや腹が立つことだってある。

ぼろ雑巾みたいになってしまった夫

まだ20代だったころ、担当していた病院の医師からほとんど難癖に近いクレームをつけられ、病院を出入り禁止にされた。あのときは本当に辛かったしムカついた。心の底から会社に行きたくなくなったし、実際にたまりにたまっていた有給を突っ込んで、夫と2人旅行に出かけたりもした。

だがそれでも働く。嫌なこともいら立ちも、乗り越えて毎日働き続ける。仕事自体はやりがいがあるし、成果を出せばそれが給料として返ってくる。何より仕事を通じて社会に貢献しているという感覚が楽しかった。

だから甘ったれたことを言って会社を休み続けている夫の姿が心底不気味だった。ある朝突然、夫が理解できない不気味な生き物に変わってしまったような感覚にさえ陥った。

里沙はつけっぱなしのテレビを消した。消した瞬間、毛布のなかで夫が動いた。

「見てたのに」

小さい子供みたいなことを言う。里沙は内心で溜息をつく。お互い自立した人間だから夫婦なのだ。これでは子育てや介護と何ら変わらない。

「大丈夫なの? そんなに辛いなら病院行って風邪薬ちゃんともらってきたら?」

無精ひげを蓄えた夫を見下ろす。ぼろ雑巾みたいだと思う。

「うん……でも、頭が痛くてさ。なんか身体も怠いし」

「熱は?」

「いや、ないと思うけど」

「思うけどって、測ってないの?」

里沙の声が鋭く尖る。

体調不良は仕方ないという考えは今も変わっていない。それがたとえ1日だろうと1週間だろうと、悪いものは悪いのだから無理をする必要はない。だが、状態を知るために熱を計ったり、治すために病院に行ったり、そういう努力を怠るのはただの怠慢でしかない。

「……ごめん」

夫は自分が被害者だと言わんばかりにしょんぼりして謝ってくる。会社に行けなくなってからはいつもこうだ。健康に働いている里沙を、まるであくどい独裁者を見るような表情で見つめてくる。

「ねえ、どうしちゃったの? こんな状態、異常だよ? 治そうともしてないし。いい加減にしてよ」

「うん、ごめん……」

「だから、それだよ、それ。なんで自分が被害者みたいな顔してるのよ」

「ごめん……」

里沙は吐き捨てるように溜息をついた。これでは会話にもならない。

「なにこれ、謝罪botかよ」

外したマフラーを夫に投げつけ、シャワーを浴びに向かう。

ただの役立たず

その日、里沙は本当に忙しかった。朝から5軒の病院を訪問し、夕方に会社に戻ったあとは新製品の勉強会に参加、さらに後輩の発注ミスが発覚してその対応に追われた。帰宅できたのは優に日付を回ったころ。頭の先から足の先まで、どっぷりと疲労感に浸かっている。

いつもなら早く帰って熱い風呂に浸かり、缶ビールでも飲んでぐっすり眠りたいと、駅から家に向かう気持ちは急いただろう。

だが里沙の足取りは重い。

それは疲れすぎているからというわけではなく、もはや家も心身が休まる場所ではないからだ。

玄関を開けるとリビングの電気がついていて、まだ夫は起きていた。ソファに横たわり、ぼんやりとテレビを観ている。

「おかえり」も「今日は遅かったね」のひと言もない。会社にも行かず家でのんびりしているだけなのに、夜遅く帰宅した妻をねぎらうこともできないのかと、恨みを込めてよく聞こえるように舌打ちをし、手を洗おうと洗面所に向かった。洗面所には朝から何ひとつ状況の変わっていない洗濯物の山があった。朝、洗濯しておいてと頼んでいたのに。洗濯をする時間ぐらいいくらでもあったはずなのに。

里沙は荒っぽく濡れた手を拭き、かかとを鳴らしてリビングに戻った。

「――いい加減にしろって!」

横になっていた夫がびくりとからだを震わせて起き上がる。何が起きたのか状況が理解できないらしく、夫はとぼけた顔で里沙を見ている。

「会社には行かないし、家事もやらないってどういうこと? これじゃあ、ただの役立たずじゃない。そういうの、本当に意味が分かんないんだけど! しっかりしてよ!」

口に出した瞬間『言い過ぎた』と思った。しかし、もう遅かった。里沙の言葉を聞いた徹の顔がくしゃくしゃに歪んだ。そして、あろうことか赤ん坊みたいな大声で泣き出してしまった。

ソファに顔を埋めて号泣する徹を見た里沙は、夫はただの体調不良ではないし、仕事が嫌になってしまったわけでもないのだと悟った。徹の心はもっと深刻な問題を抱えているのではないか。

そんなことを考えながら、里沙は呆然と立ち尽くしていた。

●仕事に没頭するも変わってしまった徹の姿が頭から離れない。そんなおり、里沙は職場で予想外のトラブルが起こったことを知るのだった。後編【夫はメンタル不調、“尊敬する先輩”はまさかのパワハラ…そしてバリキャリ妻が気づいた「夫婦にとって大切なこと」】にて詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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