「家族の絆なんてないんですよ」生前贈与が相続争いの火種に…弟を追い詰めた姉の「強硬手段」
Finasee / 2025年1月18日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
長澤家の長女の浩美さん(仮名、以下同)と弟の隆人さんとの間で起きた相続争い。原因は2年前、隆人さんが姉の浩美さんに内緒で父親の治さんからおよそ500万円もの金銭支援を受けていたことだった。当時、治さんと隆人さんで贈与契約書を作成していたものの、浩美さんには告げていなかった。
その事実が2年後、治さんが亡くなったことで遺品整理中に通帳の履歴から発覚した。
説明を尽くしても納得しない浩美さんに対し、隆人さんは贈与契約書を突き付ける。しかし、印鑑が実印でなかったことで、浩美さんの疑念はますます深まり、訴訟の話にまで発展してしまう。
●前編:【「もう一生かかわりたくない」父親の遺品整理中、通帳に不審な履歴を発見…弟が姉に隠していた秘密】
隆人さんが実印を押さなかった理由後日、私は隆人さんからことの経緯を聞いた。そして彼に即答した。
「なぜ実印で押さなかったのですか? 私は再三注意しましたよね?」
隆人さんはバツが悪そうに答える。
「面倒に思ったのと……印鑑なしでも契約の効果自体はあるってネットで見たので……」
そう、彼の言う通り贈与契約自体もそうだが契約書の有効無効にも実印かどうかは関係がない。
しかし、一般的にはこういった相続が絡むなど重要な場面であるからこそ、実印でないことがおかしく感じられることもある。それゆえ、時期や金額などによってはその贈与契約書が偽造であり、お金の動きも不法なものと思われかねない。
それが相続の場において、親から相続人の1人たる子への贈与の発覚とあれば、相続人同士でもめることは誰にでも簡単に想像できる。
「お願いですから、契約書を作ったことだけでも姉に話してもらえないでしょうか」
彼に懇願され悩むが、最終的に私は「別途費用はいただきますが、契約書を作成した旨とその経緯などに限って説明させていただきます」と回答した。
納得がいかない浩美さんその2週間後、私は隆人さんの自宅にて浩美さんと対面。隆人さん同席のもと、浩美さんに話を説明していく。
生前に父である治さんと隆人さんの依頼を受けて贈与契約書を作成したこと。そして実印での押印を指示したことなど契約書作成の経緯を丁寧に話していく。加えて、補足して一般的には贈与契約自体は契約書がなくとも有効であることも説明する。
しかし、浩美さんは一歩も譲らない。
「話は分かりました。でも私は納得いきません」
そしてこうも続ける。
「契約書の作成だって、この子が父を騙しているかもしれないし、なにか裏があるのかもしれない。実印じゃないと信用できない」
その後は主に隆人さんと浩美さんの話し合いとなったが結局話はまとまらなかった。
姉の強硬手段にとうとう折れる隆人さんそこからさらに2週間後、とうとう浩美さんが強硬手段に出た。なんと浩美さんが弁護士を雇ったのだ。以降はその弁護士と連絡を取るように書かれた内容証明郵便が届いたという。
さらには10日以内にお金を返金したうえで遺産分割を等分で実行することに同意しなければ、裁判手続きでの解決に移行するとも書かれていた。
ここで隆人さんは絶望し、何もかもがどうでもよくなったという。そして、浩美さんの言い分に従い、お金を全額返金し、遺産分割を行った。
「家族の絆なんてないんですよ、綺麗ごとですあんなのは」
久方ぶりに話をした隆人さんはずいぶんとやつれていた。あれ以来ショックで仕事を休職し基本的には家に引きこもっているといい、その日は5日ぶりの外出だったそうだ。
姉の浩美さんとは全く連絡を取っておらず、今後もとる気はないという。
別れ際「印鑑は実印で押すべきだった……」と隆人さんは心労の極まった表情でつぶやく。
おそらく浩美さんと隆人さんの事例は本当に氷山の一角。このように契約書の押印が相続問題に発展し、姉弟の絆を引き裂くこともある。
契約書は家族間であっても必ず実印で押印すべきだ。契約自体の効力と人間の気持ちは別問題。契約は有効だと思い甘く見ると痛い目を見ることになる。
繰り返すが契約書への押印は実印でするのが基本。浩美さんや隆人さんのように家族がバラバラになってしまわないためにも、特に贈与や相続に関する押印には実印を徹底するべきなのだ。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
柘植 輝/行政書士・FP
行政書士とFPをメインに企業の経営改善など幅広く活動を行う。得意分野は相続や契約といった民亊法務関連。20歳で行政書士に合格し、若干30代の若さながら10年以上のキャリアがあり、若い感性と十分な経験からくるアドバイスは多方面から支持を集めている。
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