eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)信託報酬引き下げ―S&P500ファンドのコスト競争もそろそろ終わるかもしれない“これだけの理由”
Finasee / 2025年1月15日 16時0分
Finasee(フィナシー)
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)が信託報酬率の引き下げ実施へ
三菱UFJアセットマネジメントが設定・運用する「eMAXIS Slimシリーズ」の勢いが止まりません。
2023年9月には、同シリーズのうち「全世界株式(オール・カントリー)」の信託報酬率を年0.05775%に引き下げ、2024年10月には「米国株式(S&P500)」の純資産総額が、それまで過去最大だった「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の5兆7685億円を抜き、公募型投資信託のなかでは過去最大の純資産総額になりました。ちなみに1月10日時点における「米国株式(S&P500)」の純資産総額は、6兆7074億円です。
1月9日のリリースによると、年初第3営業日目の両ファンドの設定は、1日で3100億円超となり、前年を大きく上回っています。さらに、この勢いに乗じるかのように、「米国株式(S&P500)」の信託報酬率を、1月25日から引き下げ、従来の料率である年0.09240%~0.09372%から、年0.07568%~0.08140%になります。
なぜ、ここまで信託報酬率を下げられるのかというと、ほぼ一人勝ちの状態になっているからです。
eMAXIS Slimシリーズの「全世界株式(オール・カントリー)」がベンチマークとしているMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスや、「米国株式(S&P500)」がベンチマークとしているS&P500への連動を目標としたインデックスファンドは、三菱UFJアセットマネジメント以外の運用会社も設定・運用しています。
そして、いささか乱暴な言い方になりますが、同じ株価インデックスをベンチマークにするインデックスファンドであれば、運用会社が違ったとしても、運用成績にそれほど大きな差は出ません。
要するにインデックスファンドは、コモディティ化しているのです。
そうである以上、差別化要因は価格になります。投資信託にとっての価格は、購入時手数料や信託報酬などのコストです。このうち、購入時手数料は今や大半の投資信託がノーロード化しているため、価格での勝負は信託報酬率の引き下げ競争に収れんしていきます。
そして、これまで多くの運用会社が、インデックスファンドを中心にしてコスト引き下げ競争を繰り広げてきました。が、それもそろそろ終わりに近づきつつあるのかもしれません。
オール・カントリーやS&P500インデックスファンドは「ウィナー・テイク・オール」の様相に!?そのように考える一番の理由は、少なくともS&P500と、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスへの連動を目標とするインデックスファンドに関しては、前述したように、三菱UFJアセットマネジメントが一強状態に入りつつあるからです。
たとえばS&P500への連動を目指すインデックスファンドの信託報酬率を比較すると、現時点での最安はブラックロック・ジャパンが設定・運用する「つみたてiシェアーズ米国株式(S&P500)インデックスファンド」の年0.05860%です(ただしこの料率は2026年5月7日までで、それ以降の料率は年0.09072%に引き上げられます)。
それ以外だと、ステート・ストリートが設定・運用する「ステート・ストリートS&P500インデックス・オープン」の年0.07480%、楽天投信が設定・運用する「楽天・プラス・S&P500インデックス・ファンド」の年0.07700%……ここに前述したeMAXIS Slim米国株式(S&P500)が年0.07568%~0.08140%の新料率を提示したわけです。
こうした低コスト・S&P500インデックスファンドの純資産総額を比較すると、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は他社を引き離しつつあります。上記のなかでeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)に次いで、純資産総額が多いのは楽天・プラス・S&P500インデックス・ファンドの4484億5500万円(1月10日時点)となっています。これに対して、eMAXIS Slimの「米国株式(S&P500)」の純資産総額が6兆7074億円。
年初第3営業日目の1日で1000億円超の資金流入があるeMAXIS Slim米国株式(S&P500)は、資金を集める力が全く異なります。そして、コモディティ化したインデックスファンドの信託報酬引き下げ競争は、最終的に勝者が全てを得る「ウィナー・テイク・オール」の状態をつくりあげる可能性もあります。
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の運用会社が得る信託報酬率は年0.03080%ほどで(引き下げ実施後)、この数字に純資産総額をかければざっくりとした収入を計算できるわけですが、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の場合、6兆円で不変だとすると、1年あたり18億円超が得られます。
他の商品を同様に計算すれば、数億円から少ないものでは数十万円のものまであります。純資産総額が数兆円規模に増えなければ、中長期的には厳しいビジネスになってしまうのです。
インデックスファンドもさまざまな経費はかかるので運用資金が重要こうしてコスト引き下げ競争に参戦したものの、運用資金が集まらず、撤退していく運用会社がこれから増えていく可能性は否定できません。年間の収入が数十万円では、そのファンドを運用し続ける限り、少なくともそのファンドの収支は単体では赤字になります。
「インデックスファンドはリサーチが不要だから、ローコストでも大丈夫」などと言われますが、インデックスファンドも、たとえばS&P500に連動するタイプなら、S&P500を算出している会社に対して、インデックスの使用料を払わなければなりませんし、そのインデックスにしっかり連動させるために必要なシステムや、ポートフォリオを管理するファンドマネジャー、組入銘柄の売買コスト、ファンドの監査費用など、さまざまな経費が必要です。
これらの経費を賄ったうえに、さらに運用会社として利益を生み出させるためには、一にも二にも運用資金を集めなければなりません。
しかし、現状S&P500とオール・カントリーに関しては、日本国内の公募投資信託では三菱UFJアセットマネジメントが圧倒する構図になりつつあります。一方で資金が集まらず、赤字のままのファンドは運用継続が困難になる可能性も否定できません。そして、その先に待ち受ける「繰上償還」になってしまったら、その資金は三菱UFJアセットマネジメントのS&P500とオール・カントリーへと流れ、ますます同社の2ファンドの純資産総額は大きくなることも考えられます。
S&P500とオール・カントリーの2大インデックスに限定して考えると、この先eMAXIS Slimシリーズの対抗馬になりえそうな存在は、今のところ見当たらず、その意味においてコストの引き下げ競争も、そろそろ一段落を迎えるのではないかと思うのです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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