子どもに財布を握られて、病院にも行けない老夫婦。「経済的虐待」を防ぐための「無料の相談窓口」は?
Finasee / 2025年1月30日 18時0分
Finasee(フィナシー)
介護保険制度がスタートしたのは2000年。介護保険は、時代に合わせ、3年ごとに改正を続けています。しかし、知らなければ受けられないサポートもあります。
介護事業を運営する株式会社アテンド代表の河北美紀氏は、最後まで自分らしい生き方を追及するために、介護保険などの公的保障制度を正しく活用する大切さを説いています。
そこで豊富な相談例から「介護破産」の怖さ、そして対処方法を河北氏に紹介してもらいます。(全3回の2回目)
●第1回:【介護破産はこうして起こる】裕福な生活ができると思っていたのに…年金額の勘違いで80代女性が陥った大誤算
※本稿は、河北美紀著『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
夫婦共に要介護認定を受けている老老介護のEさん夫妻都内在住のYさん夫妻(夫94歳、妻92歳)。子どもは長女次女の二人ですが、それぞれ所帯を持ち今は夫婦二人暮らしです。ご夫婦共に要介護認定を受けており、夫は要支援2、妻は要介護1で認知症があります。妻は数時間前のことは覚えていない、外出したら帰れない、同じ話を繰り返すなどの症状があり、それを94歳の夫がサポートするといういわゆる「老老介護」の世帯でした。
夫は辛抱強く妻を見守り、近所のデイサービスにも仲良く一緒に通う姿も見られていました。
「通院したい」という親の意向、長女は認めずそんなある日、夫婦でデイサービスに行った際、夫がデイサービスの職員にこんなことを言いました。
「本当は妻を病院に連れて行きたいんだけど、前に外で転んだから外へ出るなって長女に言われているんだ。でも、長女も忙しいみたいでなかなか病院に付き添えないみたいだから、お宅のデイサービスの車で病院に連れて行ってもらえないかな?」というのです。
また、妻には糖尿病があり、放置したことで最近ますます視力が低下したようだと心配していました。妻があまりにも「見えない見えない」というので市販の目薬を使わせているらしく、これを放置しては危険な状況だと判断した介護職員は、すぐにケアマネジャーへ連絡をしました。
この話を聞いたケアマネジャーも、すぐに通院介助が受けられるよう話を進めてくれたのですが、その話を聞きつけた長女は「両親に病院へ行くお金はないです。介護サービスも、勝手に増やされても困るので待って下さい」と言ってきたのです。
定期預金や保険を解約すればお金はあるはず、ところが…困ったケアマネジャーは、Yさん夫妻に確認しました。
「長女さんが、病院にいくお金も追加の介護サービスのお金もないっていっているんだけど、実際はどうかしら?」と聞くと、夫は「いや、1年前に俺の預金200万円を解約して長女に渡したから、お金はあるはずだよ」と答えました。そして「お金のことは、長女に任せてるから」とも言ったのです。
この時ケアマネジャーは、両親にはお金があるにも拘らず通院させない、介護サービスを利用させない長女の行為は、高齢者虐待の一つである「金銭的虐待」に該当するかもしれないと感じました。
これはチームで話し合いにあたった方がいいと考えたケアマネジャーは、地域包括支援センターへ連絡。Yさん夫婦と長女次女を交え話し合いの場を持つことにしました。ところが、話し合いに出席予定だった長女は直前で「用事がある」と言って欠席。仕方なく、当日はキーパーソンの長女抜きで話し合いが始まりました。
競馬好きな長女の夫による「経済的虐待」と判明話し合いの場に出席した次女によると、両親は持ち家であり年金も月20万円近く受け取っているため生活には困らないはず。またある程度貯えもあり、病院にも行けないということはないはずだと言いました。
そこで次女から長女へ連絡を取ってもらい、Y夫妻の200万円の預金はどうなっているのか問いただしました。しかし、「忙しいから、まだ銀行へ行っていない」というばかり。そして何度か長女とやりとりをするうち、なにかやましいことがあるかのようにメッセージが一切既読にならなくなったというのです。
その後は区が介入。長女のことを調べたところ、長女の夫による預金の使い込みが判明。自分の生活費やギャンブルなどに使っていたことがわかりました。
援助のポイント・対処方法 「経済的虐待」は珍しいことではない高齢者虐待の中でも、1位の身体的虐待に次いで多いのは「経済的虐待」です。お金のことは、介護事業者も把握することは難しく、公共料金や介護サービス利用料が滞ってはじめて「お金がない」ことが分かったりします。
今回はキーパーソンとなった長女が親の金銭管理を代行していましたが、そもそも「夫がギャンブル好き」なのに、なぜ金銭管理を任せたのか?という適正も気になるところです。とはいえ、「親のことは長男・長女がやるもの」というY夫妻の考え方もあったのかもしれません。
きょうだいの一人が親の金銭管理をするのであれば、毎月通帳の記帳頁を全員で共有する、親に見せるというルールを最初に作っておくべきでしょう。
「日常生活自立支援事業」の利用を子が親の金銭管理を行うことが一般的ではありますが、子どもがいない世帯もありますし、遠く離れた場所に住む子どもに金銭管理を任せるのは現実問題難しいでしょう。
そんな時は、社会福祉協議会が行う『日常生活自立支援事業』を利用し、お金の入出金や保管までお願いすることができます。相談は無料です。
今回のケースのように、親のお金を管理する子やその家族にギャンブル好きがいたり、借金がある場合は親のお金を使い込んでしまう可能性も考えられます。子の適性を見極め、必要ならばこうした支援事業を利用すると良いでしょう。
一方、真面目に親のお金を管理しているのに、きょうだいからお金の使い道を疑われてしまうケースもあります。
「どうせ分からないからって、少し多めに引き出しているんじゃないか」とか、「内緒で小遣いもらってるんじゃないか?」などと、心ないことを言われてしまうこともあるようなのです。
個人的には、仮に介護をしてくれる子に親が小遣いをあげたとしても、それがそんなに悪いことか?と筆者は思いますし、金銭感覚に問題がない親のお金の使い方を干渉してくるのは、親のお金を「自分のお金」とどこかで思っている証拠なので、良いことではありません。
とはいえ、大切な親子間・きょうだい間だからこそ、お金で揉めるのを避けたいですね。こんな時は第三者を入れることで解決できることも多いため、ぜひ紹介したサービス(日常生活自立支援事業)などをご活用し、無用なトラブルを避けましょう。
●第3回は【生活苦に悩んでいた要介護の老夫婦が、実は申請できた「2つの手当」】です。(1月31日に配信予定)
介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート著者名 河北美紀
発行元 実務教育出版
価格 1,870円(税込)
河北 美紀/アテンド代表取締役
東京生まれ。旧三菱銀行およびみずほ銀行で窓口・ローンアドバイザー業務に携わったのち、2013年に株式会社アテンドを設立。同年に通所介護の高齢者リハビリデイサービス「あしすとデイサービス」、2020年に訪問介護「あしすとヘルパーステーション」を開所。2017年、全国35か所で開催された介護コンクール横浜会場において最優秀賞を受賞。現在は介護施設経営に加え、東京都江戸川区の「介護認定審査会委員」として、介護手当の受給もれや要介護認定が下りないといった情報不足によるトラブル、介護離職や介護費用など仕事・お金の問題を解消することで、全世代が安心して生活できるよう日々精力的にセミナー・執筆活動を行っている。
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