生活苦に悩んでいた要介護の老夫婦が、実は申請できた「2つの手当」
Finasee / 2025年1月31日 18時0分
Finasee(フィナシー)
介護保険制度がスタートしたのは2000年。介護保険は、時代に合わせ、3年ごとに改正を続けています。しかし、知らなければ受けられないサポートもあります。
介護事業を運営する株式会社アテンド代表の河北美紀氏は、最後まで自分らしい生き方を追及するために、介護保険などの公的保障制度を正しく活用する大切さを説いています。
そこで豊富な相談例から「介護破産」の怖さ、そして対処方法を河北氏に紹介してもらいます。(全3回の3回目)
●第2回:子どもに財布を握られて、病院にも行けない老夫婦。「経済的虐待」を防ぐための「無料の相談窓口」は?
※本稿は、河北美紀著『介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
要介護3のNさんはなぜ生活苦に陥った?要介護3のNさん(77歳男性)は、79歳の妻と都内で2人暮らしをしています。サラリーマンだったNさんは、若い頃からお酒と人づき合いが好きでした。飲み代や、人から誘われれば競馬やマージャンなどにお金を使い、奥様に渡す家計費はいつもギリギリで苦労をかけたそう。
そんなNさんも定年を迎え、年金生活に。飲み歩くこともなくなり、「ようやく夫も落ち着いてくれた」と妻が安堵したのもつかの間、突然Nさんは脳梗塞で倒れて救急搬送されてしまったのです。
幸い命に別状はなかったものの、左半身麻痺と重い障がいが残り要介護4に。リハビリを行いましたが、自宅では何度も転倒を繰り返しました。一方、年金暮らしの家計は、利用限度額いっぱいに介護サービスを利用するため苦しくなるばかり。加えて糖尿病持ちのNさんは、定期的な通院も欠かせません。
それまでは穏やかだった夫婦関係も、金銭的な不安から徐々に笑顔が消え、次第にケンカが絶えなくなりました。しかし妻の介護なしには生きられないNさんは言いたいことも言えず、ぐっと我慢する日々が続いていました。そんなある日、とうとう妻が限界を迎える瞬間がやってきます。「あなたのせいで何もできない! 私だって、あなたみたいに飲みに行ったり遊びに行ったりしたかったわよ!」とNさんを責めたのです。
これを聞いたNさんは、「俺はもうデイサービスも病院も行かない。お前の好きにしたらいい」と言って、本当にデイサービスも通院もやめてしまったのです。Nさん夫婦を心配したケアマネジャーが自宅を訪問しても、「自宅で過ごすからいい」の一点張り。その後も電話で様子をうかがっていましたが、Nさんは数カ月後に亡くなりました。生活苦と介護放棄によるものと思われます。
援助のポイント・対処方法 知識があれば申請できる手当てもある入院をきっかけに要介護4の在宅介護になったNさんは、実は2つの手当を申請することができました。一つは、お住まいの市区町村による「介護手当」月額1万5,000円。60歳以上の非課税世帯で要介護4以上の在宅介護が対象でした(※江戸川区の場合)。
もう一つ、「特別障害者手当」月額2万7,980円(※令和5年4月〜)の受給要件も満たしていたと思われます。所得判定と医師の診断書が必要になりますが、要介護4以上から支給対象になるケースが多いです。
通院にかかる医療費は、非課税世帯の場合自己負担の限度額は8,000円です。もし窓口でそれ以上に支払いをしていたとしたら、「高額療養費」の支給申請を行うことで医療費が返ってきた可能性があります。
要介護4の介護サービス利用料は月約3万円、通院は月8,000円が支払いの上限です。Nさんの家計を圧迫していた介護費・医療費合計3万8,000円は、2つの手当(合計4万2,000円)でカバーすることができたかもしれません。
また奥様の変化として、夫に対する言葉が「きつくなる」「責める」「攻撃的」になったことがありました。これは、介護の限界を超えたというサイン。速やかに専門職が介入し、「権利擁護」という視点で動くことで、救うことができたケースかもしれません。
介護のプロだけが知っている! 介護でもらえる「お金」と「保障」がすらすらわかるノート著者名 河北美紀
発行元 実務教育出版
価格 1,870円(税込)
河北 美紀/アテンド代表取締役
東京生まれ。旧三菱銀行およびみずほ銀行で窓口・ローンアドバイザー業務に携わったのち、2013年に株式会社アテンドを設立。同年に通所介護の高齢者リハビリデイサービス「あしすとデイサービス」、2020年に訪問介護「あしすとヘルパーステーション」を開所。2017年、全国35か所で開催された介護コンクール横浜会場において最優秀賞を受賞。現在は介護施設経営に加え、東京都江戸川区の「介護認定審査会委員」として、介護手当の受給もれや要介護認定が下りないといった情報不足によるトラブル、介護離職や介護費用など仕事・お金の問題を解消することで、全世代が安心して生活できるよう日々精力的にセミナー・執筆活動を行っている。
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