「65歳で会社を辞めたほうがよかったのか」年収1800万円の男性が抱いた悩み。将来、妻が受け取る遺族年金を増やすには…
Finasee / 2025年1月23日 19時0分
Finasee(フィナシー)
夫が亡くなった後、妻に遺族年金がいくら支給されるかで妻のその後の生活が左右されることになるでしょう。亡くなった人が自分の老齢年金を繰下げ受給していたり、働いていたりすると、遺族年金の金額に影響がでるのでしょうか。
高収入だと繰下げ効果が薄いことが判明さかのぼること5年前、当時65歳で中堅メーカーの取締役である正樹さん(仮名、以下同)は当時60歳の専業主婦の弘枝さんと暮らしていました。大学卒業後に今の会社に就職し、60歳前で執行役員、64歳で取締役になった正樹さんは65歳以降役員報酬も月150万円受け取ることになっています。
正樹さんは働いていることから「年金はまだいらない」と考え、65歳からの老齢基礎年金と老齢厚生年金を将来繰下げ受給して増額させようと年金事務所に相談に行きました。しかし、帰宅して不満そうな様子を弘枝さんに見せます。「繰下げで年金が増えると言われているのに、自分がいざ繰り下げるとあまり増えないんだってさ」と納得がいかない様子で弘枝さんに伝えます。
何があったのか気になる弘枝さん。正樹さんによると「老齢基礎年金は影響を受けないからいいんだけど、65歳以降在職中の人が老齢厚生年金を繰下げすると、在職老齢年金制度の支給停止を除いた額に対して増額されると言われた。もらったパンフレットにもそう書いてある。なんか難しいけど、要は65歳以降給与とか役員報酬が高いと、老齢厚生年金は繰り下げてもあまり増えないとのことだ」とのことでした。
老齢基礎年金と老齢厚生年金は1カ月繰下げにつき0.7%増額されると言われていますが、高い役員報酬を受ける正樹さんの場合、老齢厚生年金の増額は0.7%より遥かに少ないことになります。
正樹さんは続けて「老齢厚生年金は、65歳で会社を辞めてる人とかなら、1カ月0.7%そのまま増えるらしい。今、収入が高くて年金はまだいらないから、繰り下げようと思ったんだけどなぁ、あんまり増えないんじゃなぁ。あの今の社長の下で役員になるといろいろ重圧もあるし、役員報酬年間1800万円って割に合うのか、どうなのか。うーん。むしろ同期の連中みたいに65歳でさっさと会社を辞めてしまったほうがよかったのか」と愚痴をこぼします。
弘枝さんは「役員までなれる人なんて少ないし、その歳でそれだけ高収入なのは恵まれてるってことじゃないの?」となだめます。
結局68歳で繰下げ受給をすることに結局、正樹さんはその後68歳になるまで役員を続け、68歳になる月で老齢基礎年金と老齢厚生年金を繰下げ受給し始めました。役員退任によりそれ以降厚生年金の加入もなくなり、受給する年金は在職老齢年金制度によるカットもされることなく全額支給されることにもなります。
正樹さんの65歳時点での老齢厚生年金は、65歳受給開始(繰下げなし)、在職老齢年金制度の停止はない額だと年間160万円でした。もし、65歳で退職していたら68歳でのその繰下げの増額分が40万円程度でした。
しかし、68歳まで役員をして68歳で繰下げをした場合、実際に繰下げによって増えたのは1万5000円弱で、また、3年間(65歳から68歳まで)厚生年金に加入して厚生年金保険料を掛けたことで増えた老齢厚生年金(報酬比例部分)は12万円となります。
「同じ68歳繰下げでも、65歳で辞めると160万円+40万円で合計200万円、68歳まで3年間役員やってると160万円+1万5000円弱+12万円で合計173万円。役員やっているほうが老齢厚生年金は27万円少ないのか。けどもう仕方ない、受け取りを始めよう」と決めたのでした。
同時に繰下げをした老齢基礎年金のほか、当時65歳未満の弘枝さんがいることから配偶者加給年金も加算され、正樹さんの年金生活が始まりました。
正樹さんが亡くなり、遺族年金が支給されそうだが…それから時は経過し、正樹さんは70歳で亡くなりました。夫の他界直後、心の整理ができない弘枝さんでしたが、弘枝さんには遺族年金が支給されるということから、その手続きのため年金事務所へ行きました。これからの生活にあたって遺族年金がいくらになりそうか気になる弘枝さん。正樹さんとの会話を思い出し、職員に尋ねます。
「夫は役員で報酬も高かったから繰下げしても増えないみたいなこと言ってたけど、夫が65歳で会社も辞めて繰下げしていたほうが私の遺族年金は多くもらえたり、何か影響とかあったりはするのですか?」
これに対し職員によると「役員報酬が高いほうが遺族年金は高く計算されますね」とのこと。遺族年金は具体的にはどういう計算になるのでしょうか。
●職員の意外な回答に驚く弘枝さん。遺族年金を受給するなら知っておきたい知識を、後編【高収入の会社役員を続けたおかげで貯蓄は3000万円に…高齢妻の老後資金を増やした夫の「ベストな選択」】で詳説します。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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