三菱UFJ銀行のウェルスナビ買収で再注目!? 「ロボアド」での投資は個人にとってメリットはあるのか
Finasee / 2025年1月23日 11時0分
Finasee(フィナシー)
ロボアドの周囲が再び賑わいつつあります。ロボアド(=ロボット・アドバイザー)は、人工知能によって、利用者それぞれに適したポートフォリオを助言してくれるサービスのことで、一任型と助言型とに分かれています。
両者の違いは言葉のとおりです。一任型は各人に適したポートフォリオを助言してくれるだけでなく、そのポートフォリオに応じた資金配分をし、運用まで行ってくれます。
これに対して助言型は、「こういうポートフォリオで運用してみてはどうでしょうか」という助言まではしてくれますが、運用は行ってくれません。提示されたポートフォリオの通りに運用するかどうかは、あくまでも利用者本人の裁量に委ねられます。
一任型と助言型のどちらが主流かというと、現時点においては前者です。業界最大手とされるウェルスナビや、SBIグループで気を吐いているFOLIO、昨年11月時点で運用資産残高が1000億円を超えた、マネックス・アセットマネジメントが提供する「COMPASS」などは、いずれも一任型です。
ロボアドサービスを提供している会社は、独立系のフィンテック企業としてスタートしたところもあれば、大手金融機関がインハウスで生み出したものもあります。「ダイワファンドラップONLINE」は大和証券が、「COMPASS」はマネックス・アセットマネジメントが独自に開発したものですが、業界最大手のウェルスナビやFOLIOは、フィンテック・ベンチャーとして立ち上がったという背景を持っています。
三菱UFJ銀行のウェルスナビ買収にはどんな狙いがあるのか?ただ、最近の動きとして注目されるのは、大手金融機関が独立系のロボアド会社を、自社の傘下に組み込む動きが活発化していることです。
業界最大手のウェルスナビは当初、SBI証券との業務提携で顧客拡大を行ってきましたが、SBIグループは2021年8月からFOLIOを傘下に入れており、ウェルスナビに送客するのは合理的ではないという経営判断から、2022年11月に業務提携を解消しました。
この業務提携解消によって、一時は口座数の減少が懸念されるといった報道もありましたが、新NISAに対応した「おまかせNISA」もリリースし、利用者は順調に拡大。預かり資産は1.3兆円(2024年7月時点)、利用者も41万人(2024年9月時点)に達しています。そしてこの1月には、三菱UFJ銀行によるTOBを受け入れ、その傘下に入ることになりました。
ちなみにロボアド業界2位である「THEO」(お金のデザイン)の預かり資産が2200億円超、利用者が13万人(ともに2024年1月時点)ですから、ウェルスナビは、ロボアドの分野で圧倒的な優位性を築いています。
そうであるにもかかわらず、なぜ大手金融機関の傘下に入ったのでしょうか。
ウェルスナビとしては経営の安定を図りたいという意図があったように思えます。同社の2023年12月期決算を見ると、営業収益が81億6792万円。これに対する営業利益は5億2367万円で、営業利益率は6.41%です。
単純な比較はできませんが、一任型であることを考えると、投資信託などを設定・運用している運用会社が比較対象になるでしょう。業界最大手である野村アセットマネジメントの損益計算書を見ると、2024年3月期の営業利益率は22.05%、独立系であるコモンズ投信のそれが15.06%です。また、ほぼ同じ運用資産額を持つレオス・キャピタルワークスの営業利益率が、18.57%です。
このように比較すると、投資信託とロボアドの違いこそありますが、利用者のお金を運用する場としての収益性から見て、ウェルスナビのそれはいささか低く、そこを補強する狙いが、三菱UFJ銀行によるTOBの受け入れにあると推察します。
一方、三菱UFJフィナンシャルグループにとって、ウェルスナビを傘下に入れるメリットは何でしょうか。
それは恐らく省人化でしょう。ウェルスナビが三菱UFJ銀行と業務資本提携を結んだ2024年3月時点の、ウェルスナビ柴山CEOのコメントによると、「これからのウェルスナビは、資産運用だけでなく、保険や年金、住宅ローンまで、お金の悩みを総合的に解決するサービスの実現を目指します」とあります。
それに先立ち、三菱UFJ銀行は2023年度中に店舗を4割削減したうえで、2025年度までには窓口業務の7割をデジタル化する方針を打ち出していました。これまで人を介して行われてきた窓口相談業務にウェルスナビの機能を組み込んで、省人化を進めるというストーリーが見えてきます。
資産形成層にとって「ロボアド」での投資はアリか?では、実際のところ個人がロボアドを用いて資産形成をする価値はあるのでしょうか。
何もしないよりはした方が“マシ”ですが、ロボアドが資産形成の最適解かどうかについては、何とも言えません。
ロボアドの多くが、5つか7つくらいの質問に答えていくなかで、どのようなポートフォリオが良いのか、ゴール設定した将来に向けて運用資産がいくらになるのかを、おおまかに提示してくれますが、その通りになるという確証はありませんし、運用期間中にAIが自動的に行ってくれるのは、分配金の自動再投資、自動リバランス、自動税金最適化、くらいのものです。
目先、マーケットが急落しそうだからリスク資産の比率を下げる、大底を打って上昇に転じそうだからリスク資産の組入を高める、といったような、マーケットの先を人工知能で予測し、ポートフォリオの最適化を図るというところまでカバーしてくれるロボアドは、少数です。
ちなみにFOLIOが提供している「ROBOPRO」は、人工知能が市場動向を予測してパフォーマンスを追及することになっていますが、それが確実に高いリターンを実現してくれるかどうかは、正直なところ分かりません。いくつかの質問に答えた後、達成金額のシミュレーションが提示されたりしますが、それは絶対に実現できるものではなく、あくまでも参考程度と捉えておくようにしましょう。
このように挙げていくと、果たしてロボアドを使うメリットがどこにあるのか、ということになりますが、ひとつだけあります。
少なくとも証券会社や銀行の窓口に行って、そこで勧められる商品を言われるがまま買うよりは、はるかにマシだということです。
ロボアドには営業目標が一切課せられません。これが証券会社や銀行の窓口になると、自分の営業目標を早く達成したいがために、顧客のリスク許容度やライフプランなど全無視で、自分たちが販売したい商品を押し売りしてくる営業担当者に遭遇してしまうリスクがないとはいえません(もちろん、こうした営業担当者はかつてに比べ減ってはいます)。ロボアドなら、少なくともそのリスクを排除できるわけです。
特に、今まで一度も資産運用をした経験がなく、何から始めれば良いのか、全くわからないという初心者にとってロボアドは、押し売りを一切してこない、そこそこ優れたパートナーになってくれるはずです。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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