大嫌いだったはずのバレンタインデーサプライズを決行した妻、夫が思わず笑顔になったその理由とは?
Finasee / 2025年2月2日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
イベントごとが苦手なこともあり、バレンタインデーを蛇蝎のごとく嫌っている真央。そんな彼女の心を波立たせる出来事が起こる。中堅Sierに転職した夫の昌志が原因だった。
もともとバレンタインデーとは縁もゆかりもないはずの昌志が、バレンタインデーに同僚からチョコをもらい帰ってきたのである。「昌志も浮ついたイベントが好きだったのか」と真央は落胆する。
一方で、喜ぶ昌志の顔を見て、真央の心には一抹の不安もよぎった。
「無理をさせていたのかもしれない、このままでは愛想を尽かされてしまうのでは」
友人の理香子に相談した結果、真央は自身もバレンタインデーチョコを作ることを決める。
前編:「このままじゃ、愛想を尽かされるかも」同僚からバレンタインチョコをもらい喜ぶ理系夫に妻が感じた”危機”
バレンタインデー準備のために有休を取得「いってらっしゃい」
「うん、いってきます。真央も遅れないようにね」
「ありがと」
真央はいつものように昌志を会社へと送り出し、扉が閉まったのを確認してから深く息を吐く。普段なら、スーツに着替えてメイクをして出社の準備をする真央だったが、今日はジャケットの代わりにエプロンをつけ、キッチンに向かった。
バレンタインデー当日、真央はチョコづくりのために有給を取っていた。
棚の奥に隠しておいたチョコレートをキッチンに並べる。SNSを開き、昌志にばれないようこの1週間で何度か試作してきたチョコテリーヌのレシピを開く。
1日で手軽に作れて、見栄えがいいものを探した結果、落ち着いた答えがこのレシピだった。
しかし、前回までの試作では、満足のいく完成品は作れていない。
理由は計量のずぼらさ、と真央は考えている。普段から料理をしている真央は何となく目分量でもそれなりの味付けをすることができるのだが、YouTube動画で学んだ限り、お菓子作りの成功は細かい計量が握っているらしかった。
「よし」
真央は腕をまくり、力強く声に出した。
驚く夫「え……? どういうこと?」
いつも通り19時前に帰ってきた昌志は目を丸くした。テーブルには、ロールキャベツや生地から手作りしたラザニアなど、手の込んだ料理が並んでいる。
「おかえり。もうすぐ準備ができるから手洗ってきちゃって」
真央は得意げな笑顔を浮かべて昌志に声をかける。しかし昌志は固まって動こうとせず、眉尻を下げた弱々しい視線を真央に向けた。
「真央、ごめん……」
「え? 何を謝ってるの?」
「今日って何かの記念日だったっけ? ごめん、忘れちゃった……」
申し訳なさそうに話す昌志を見て、真央は思わず吹き出した。
「あ、ごめんごめん、そういうことじゃなくて。記念日とかそういうのじゃないから」
「え、じゃあなんでこんな豪華な料理を作ってるの?」
「ほら、今日ってバレンタインデーでしょ? たまには、と思って、作ってみたの」
真央が軽い調子で説明すると、昌志はまた眉尻を下げて困ったような顔になった。
「バレンタインデー? ああ、今日か」
「もしかして今日がバレンタインデーだって忘れてた?」
「だって、今までこんな感じでやったことなかったし……」
見たところ、今年の昌志は紙袋を下げてはいなかった。今思い出したということは、きっと会社でも特にチョコレートをもらったりはしなかったのだろう。
「なんだ。私、考えすぎだったみたい」
「……え? 何が?」
「いや、それがね……」
真央は昨年のバレンタインデーの話を正直に打ち明けた。話を聞いた昌志は声を出して笑った。
「ああ、あのことね。そんなに気にしてたとは思わなかったよ」
「だって、昌志が嬉しそうにしてたんだもん」
「ごめんごめん。でも、そんな嫉妬する感じが真央にあるとはね」
「何? 子供みたいだと思ってる?」
「いいや、かわいいとこあるなーと思ってさ」
昌志はそう言って歯を見せて笑ったが、少しからかわれているようで真央は昌志を睨みつけた。
「それに、去年のあれは本当に周りのみんなが入ったばっかの俺を気を遣ってくれただけだよ」
「ふーん、そうなんだ……」
昨年言われても信じなかったとは思うが、今年チョコをもらってないところを見ると本当にそうなのだろう。
今まで食べたチョコで一番おいしいかもそれから2人は食卓を囲んだ。料理が豪華なせいか、普段の食事よりもさらに会話が弾んだような気がした。料理をすべて平らげれば、残すはデザートのチョコテリーヌだけ。
真央と昌志は並んでキッチンに立ち、型に入れていたチョコテリーヌを皿の上に出した。
が、四角い長方形で盛り付けられるはずのテリーヌは、うなだれるように台形に潰れていった。
「うわ、固まり切ってない……」
真央は思わず溜息をつき、肩を落とす。ちゃんと全部の材料を分量通りに計って作ったはずなのに。
だが、昌志は出来栄えを気にすることなくフォークでテリーヌの角を切り、口に運んだ。
「お、めちゃくちゃ美味しい」
「ほんと?」
「ほんとほんと。今まで食べたチョコで1番美味しいかも」
「いや、大げさ」
しかし昌志の手は止まることなく、次から次へと柔らかすぎるテリーヌをすくって口へと運んでいく。食べるたびに「美味しい」とくり返す表情は、去年動物のチョコレートを食べていたときとは比べものにならないくらい、少年のように屈託なく輝いて見えた。
「もう、味見で食べ過ぎだから。盛り付けるから、昌志はコーヒー淹れて」
真央は昌志からチョコテリーヌを取り上げて背を向ける。思わず緩んでしまう口角を、見せたくなかった。
「ちなみに、今年限定。お菓子作り大変だし、来年はもうやらないから味わって食べてね」
真央が言うと、昌志が落胆の声を上げる。その声はやはり少年じみていて、真央はとうとう堪えきれずに笑みをこぼしてしまった。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
梅田 衛基/ライター/編集者
株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。
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