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「このままじゃ、愛想を尽かされるかも」同僚からバレンタインチョコをもらい喜ぶ理系夫に妻が感じた”危機”

Finasee / 2025年2月2日 11時0分

「このままじゃ、愛想を尽かされるかも」同僚からバレンタインチョコをもらい喜ぶ理系夫に妻が感じた”危機”

Finasee(フィナシー)

会社帰りに立ち寄ったスーパーの店内で真央は思わずため息が出た。

2月に入り一桁代の最低気温を叩き出す毎日の中で、さらに真央を気落ちさせるポップが目に入ってきたからだ。

季節商品を扱う商品棚にバレンタインデーフェアとデカデカと書かれてある。もうすぐバレンタインデーなる1年でもっとも鬱陶しいイベントが開かれるのだ。

真央は逃げるようにチョコレートが並んだ棚から離れる。甘いものは嫌いではなかったが、この時期だけはどうにもうんざりだった。

一説によると、このバレンタインデーの経済効果は1000億円を超えるらしい。みんなお菓子メーカーの陰謀に踊らされているだけだと、真央は思う。

真央は小さいころから、イベントごとが苦手だった。バレンタインはもちろん、クリスマスや夏祭り、果てには自分の誕生日でさえも、楽しめたためしがない。どうしていつもと変わらない1日でしかないその日に特別な価値を見出し、浮足立って楽しむことができるのか、分からなかった。

なかでも、バレンタインデーだけは端から端まで理解ができない。どうして女であるというだけで、お菓子を用意しなければいけないのだろうか。

学生時代、学校にお菓子を持ってこなかっただけで、グループのみんなから冷めた目を向けられた。会社に勤めるようになってからは、当時まだ残っていた女性社員が男性社員にチョコを配るという気味の悪い風習のため、この時期になると休日にチョコレートを大量に購入して用意するという時間外労働を強いられた。

それに、たいていの場合、チョコレートにくっついてくる“誰が誰を好きだ”とか“誰に告白するのか”という話題を恥ずかし気もなく、披露しあう空気も全く解せない。

そして何より、去年だ。

去年のバレンタイン、夫の昌志が会社の同僚や後輩からチョコレートをもらって帰ってきたことで、真央の抱いてたバレンタインデーへの苦手意識は明確な嫌悪を帯びるようになった。

チョコもらうのなんて学生ぶり

「どうしたの、これ」

通勤用の鞄とは別に、紙袋を持って帰ってきた昌志に、真央は尋ねた。

「ああ、会社でもらったんだよ。なんかバレンタインデーだからって」

「へぇ」

真央は自分で聞いておきながら、興味のなさそうな生返事をする。

昌志は年の暮れに男性ばかりだった理系のベンチャーから、中堅のSIerに転職したばかりで、新しい会社で迎える初めてのバレンタインというわけだった。

もちろん歓迎の意味もあるのだろう。

だが真央には釈然としない気持ちがあるのも事実だ。

「今ってすごいんだな。チョコもらうのなんて学生ぶりだったから全然知らなかったけどさ、めちゃくちゃ手が込んでるんだよ。いいよなぁ、大人になると誰かがこうしてプレゼントしてくれる機会も減るしさ、なんか久しぶりに嬉しい気持ちになったよ」

昌志は嬉しそうに言って、紙袋から高そうな紙箱を取り出してふたを開ける。真央でも名前だけは聞いたことがあるフランスだかイタリアだかの有名なチョコレートだ。箱の中は小分けに仕切られていて、そのひとつひとつに動物のかたちを模した色とりどりのチョコレートが並んでいた。

「真央も食べる?」

昌志はビーバーか何かのかたちをしたチョコレートを食べたあと、箱を真央へと向けた。行儀よく狭い仕切りのなかに収まった動物たちが、右に倣えでイベントを楽しもうとしない真央のことをバカにしているように思えた。

「いらない。甘いもの好きじゃないし」

「え、そうだっけ」

昌志はとぼけながら、チョコレートをもうひとつ口に運ぶ。

「食べ過ぎると鼻血出るよ」

「それ、迷信だからね。大丈夫」

もぐもぐと咀嚼しながら緩んでいる口元をにらみつけ、真央はシャワーを浴びにバスルームへと向かった。

まんざらでもなさそうな夫が……

「へー、真央ってそんな可愛いところがあるのね。もっとクールなタイプだと思ってた」

と、同僚の理香子に言われたのは、バレンタインデーを1週間後に控えたある日の昼休みのことだった。

もはや働き方改革や地方創生と同じように国の政策なのではと思いたくなるくらい、街のいたるところがバレンタインを連想させるピンクとブラウンで溢れている。

真央たちの社食も例外ではなく、バレンタインに紐づけたフェアが開催されており、券売機横に掲示されていた期間限定のフォンダンショコラのポップに眉をひそめていたところ、理香子にワケを聞かれ、真央も仕方なく去年の夫との出来事を白状したというわけだった。

「ちょっとからかわないでよ。こっちは真剣なんだから」

「まあ、あんたの気持ちも少しは分かるわよ。男ってけっきょくそういう甲斐甲斐しい女が好きだったりするもんね」

「もらってくるなって目くじら立てるのも、なんか心が狭いしさ。とはいえ、夫だって今まではこういうイベントに無頓着だったくせに、なんかまんざらでもなさそうな顔して喜んでると、今まで無理させてたのかなって気持ちにもなるし」

こうして話しているだけでも、真央の脳裏には去年の苦い思い出がよみがえった。けっきょく1人でちまちまとチョコレートを食べて楽しんだ昌志は、1ヶ月後のホワイトデーでどんなもの買えばいいか手伝ってと、真央をお返しの買い物に付き合わせた。返したクッキーは好評だったと昌志は喜んでいたが、真央はうんざりだった。

けっきょく、口ではなんと言おうと、昌志も浮ついたイベントが好きだったのだ。
ひょっとすると、このままいけばいつか昌志に愛想を尽かされるような日が来てしまうかもしれないと思うのは、考えすぎなのだろうか。

「まあでも、目には目を歯には歯をってことじゃない?」

「どういうこと?」

ホットコーヒーを飲みながら、真央は首をかしげる。

「チョコにはチョコで対応ってこと。旦那さんがビビるくらいのチョコレート、真央が手作りしてあげたらいいんだよ」

「でも、私、お菓子なんて作ったことないよ?」

「何事も初めてはあるでしょ。ここでうじうじ悩んでるくらいなら、思い切ってバレンタインやってみたらいいと思うけど。旦那さんも喜んでくれるだろうし、案外楽しめるかもよ? 」

「そんなに上手くいくのかなぁ……」

半信半疑の真央だったが、理香子の言う通り、このまま悩んでいるくらいならと、その日の帰りにSNSで見繕ったお菓子づくりの材料を購入した。

そして、昌志には内緒で、バレンタインデー当日に向けた準備を始めた。

●真央は有休をとり、準備に励む。チョコだけでなく、お手製の料理まで作る手の入れようだった。驚く昌志に真央は自身の真意を告げる。後編【「大嫌いだったはずのバレンタインデーサプライズを決行した妻、夫が思わず笑顔になったその理由とは?」】で詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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