インフレ時代にどう選ぶ? 確定拠出年金の運用商品 「増えた資産を守る」には
Finasee / 2025年1月31日 12時0分
Finasee(フィナシー)
確定拠出年金(DC)の運用商品をどう選んでいますか?
「確定拠出年金(DC)の運用商品を選んだ記憶がない」「何を選んだのか覚えていない」という人も多いのではないかと思います。有意義に活用していくためにもいま一度、運用商品選びについて考えてみましょう。
運用商品を選んだ記憶がない人は「現金管理」になっている可能性も!DC加入者になって、運用商品を選んだ記憶がない人は少なくないと思います。とくに2018年5月以降に加入者になった人は、現金管理になっている可能性もあります。現金管理とは文字どおり、掛金をDC口座内で現金のまま置いてある状態を指します。つまり現金管理の状態では、DCのメリットの一つである「運用益非課税」がまったく使えていないことになります。
逆に、選んだ覚えがないのに、運用商品が投資信託(もしくは定期預金等の元本確保型)になっているというケースもあります。心当たりがある人は現在の状況を確認することが大切です。コールセンターに電話をするか、DC加入者用のWEBサイトにアクセスしてみましょう。
このように知らない間に投資信託(もしくは定期預金等の元本確保型)に資産配分されている人は、ご加入のDC規約(プラン)で「指定運用方法」が適用されたと考えられます。対して、DC加入から半年以上が経過しているのに運用商品が現金管理になっている人は、指定運用方法がもともと設定されていないプランの加入者です。
企業型DCの状況企業型DCで指定運用方法が適用された人は2024年3月末で62万人。企業型DC加入者等数の約7%にあたります。
規約(プラン)ごとでみると指定運用方法を導入しているプランは44%にすぎず、半数以上のプランで指定運用方法の設定がありません。とはいえ、設定のないプランの多くは、新規加入者全員が配分指定手続きをする前提で、制度運営がされていると想定されます。
指定運用方法にどんな運用商品が選ばれているのかについて全体のデータはありませんが、企業年金連合会のアンケートベースでは指定運用方法を設定済みの企業のうち7割ほどが元本確保型を選定しています※。
※2022年(令和4)年度決算 確定拠出年金実態調査結果(概要版)
個人型DC(iDeCo)の状況iDeCoには251プランがあります(※一つの金融機関で複数のプランを設定しているケースもあり、登録運営管理機関156社よりプラン数は1.6倍多い)。
251プランのうち、指定運用方法を選定しているのは71。うち元本確保型に設定しているのは31プランです。iDeCoでは企業型DCと異なり、半数以上の指定運用方法が投資信託となっています。なお、指定運用方法に設定されている投資信託のうち、資産配分が固定されているバランス型が15、資産配分が変化していくターゲットイヤー型は25となっています。
そもそも指定運用方法は運用商品を選べない人のために設定された指定運用方法は、運用商品を選べない人を支援する仕組みとして設定されました。
制度が議論された2016年ごろは、DC資産の6割が元本確保型に配分されており、将来のインフレリスク等に対応できないのではないか、という危惧がありました。そのため、最初の掛金拠出から一定期間経過後(多くの場合4カ月弱)に、「配分指定をした」とみなす運用商品をプランごとに定めることが可能になりました。
当初、分散投資ができる運用商品がイメージされていましたが、労使協議により元本確保型の運用商品も選定が可能になっています。
なお、指定運用方法の対象となるのは2018年5月以降に加入者になった人ですが、それ以前に加入者になった人に影響する場合もあります。たとえば、それまでプランで提供されていた運用商品が除外され、毎月の掛金で当該除外商品を購入していた場合などです。その際に運用商品を選択し直すことを忘れてしまうと、指定運用方法が適用されるケースが生じます。
「とりあえず定期預金」から「とりあえず外国株式型パッシブ」へ2010年以降、2014年のNISA開始、2018年のつみたてNISA導入など、資産形成における制度面での変化が続きました。あわせて資産形成を行う場である金融市場も動き、米国株式市場・国内株式市場ともに大きく上昇し、それとともにDC加入者の運用商品に対する選択状況も変わりました。
企業型DCは元本確保型が6割減運用商品の選択状況を2014年3月末と2024年3月末とで比較すると、大きな変化がみてとれます。
元本確保型 57.2%→32.2%
投資信託 42.6%→67.3%
うち国内株式型 12.5%→15.3%
外国株式型 7.0%→22.3%
バランス型 12.5%→20.8%
国内債券型 5.0%→3.6%
外国債券型 4.3%→4.0%
運用商品のカテゴリー別でみると、外国株式型が3倍増です。資産残高に占める割合のため、市場の値上がりによる部分もありますが、投資金額・人数ともに増加していると想定されます。
野村證券の企業型DC受託先企業をみても、毎月の掛金配分は外国株式型の割合が着実に増えています。掛金配分は、残高のように値上がり分の影響を受けないため選択の状況が見えやすいのです。
さらに年代別の状況をみると、現在は若年層ほど元本確保型の割合が低く、年齢が上がるにしたがって元本確保型割合が高くなる傾向がみてとれます。しかし、10年前は若年層と高年齢層の元本確保型割合が高く、積み上げ横棒グラフでみると「く」の字型になっていました。
当時は、「よくわからないから定期預金」が選択されているのではないかと想定していました。
iDeCoの変化はさらに大きいiDeCoは企業型DCよりも大きく変化しました。2015年3月末(2014年3月末は集計がないため)の元本確保型比率は64.7%でした。それが2024年3月末では25.6%まで下がっています。iDeCoは、企業型に比べこの間の新規加入者が多く、新たに運用商品を選定する人の影響が大きいためと思われます。
元本確保型 64.7%→25.6%
投資信託 35.0%→73.2%
うち国内株式型 11.4%→12.8%
外国株式型 6.5%→35.9%
バランス型 9.2%→16.3%
国内債券型 2.7%→1.9%
外国債券型 3.1%→3.2%
年代別の傾向をみると若年層の外国株式型への配分が飛躍的に高くなっています。20代、30代では2015年3月末の配分が10%前後でしたが、2024年3月末では50%以上と、5倍となっています。
iDeCoの若年層はパッシブ型比率が高いアクティブ・パッシブ比率をみると、国内株式型についてはアクティブ比率が企業型DC、iDeCoともに4割程度と高い傾向があります。それ以外のカテゴリーではアクティブ比率は2割程度(iDeCoのバランス型のみアクティブ型が32.7%)で、とくにiDeCoの20代~40代では10%にも満たない状況となっています。
おそらく、各種SNS等で外国株式型パッシブへの言及が多いことなどが影響していると思われます。以前は、わからないから「なんとなく定期預金」だったのが、最近では「なんとなく外国株式型」になっているといえます。
外国株式型パッシブファンドの特徴「S&P500を利用したいです」「外国株式型パッシブはないんですか」といった声を聞く機会が増えました。ある運用会社のS&P500指数に連動をめざす投資信託の残高は6兆円を超え、同じく全世界株価指数に連動をめざす投資信託の残高も5兆円を超えています。双方とも2018年の設定ですが、新NISAで大きく残高が増えました。
S&P500は米国の代表的な株価指数の1つで、米国株式市場全体の約8割の時価総額比率を占めています。NISAやiDeCoで「S&P500」という場合、指数に連動する投資成果をめざすパッシブファンドを指しています。全世界株価指数は「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)」で、投資対象国は新興国24カ国を含む47カ国、投資銘柄数は2,687です(2024年10月)。
外国株式型パッシブという同じカテゴリーであっても、S&P500が米国の503銘柄に限定されるのに対し、全世界株価指数連動はより広く分散投資ができるものといえるでしょう(ただし、組み入れ比率でみた場合の上位5位は双方同様です)。
(逆説的ですが)定期預金の活用も必要DC制度で「なんとなく外国株式型」から脱するためには、定期預金を上手に活用する必要があります。
DCは原則60歳までは引き出せない資産となるため、運用成果が出たから引き出して使う、ということができません。それもあって、いったん運用商品を選択すると、変更しないまま放置する人が多いのが現状です。
DCで積立投資を実践して、資産残高が増えたら、増えた部分はスイッチングして元本確保型に移す、という方法を実践しましょう。
最近の顕著な例では、昨年8月2日から5日にかけて大きく株式市場が調整した際、7月中にスイッチングしておけばよかった、と思った人もいるかと思います。この時の下落はすぐに持ち直しましたが、景気は循環します。ずっと上がり続けることも、下がり続けることもない、という前提からすると、増えた分を利益確定することも考慮しましょう。
利益確定の見極めには、ご自身のリスク許容度が重要となる点を再認識しましょう。リスク許容度には年齢や保有資産額等も影響するため、個々に異なります。ただ、どんなリスク許容度の方にもいえることは、「増えれば増えるほどいい」というスタンスではなく、いつか株式市場が低迷した時に、困らないのかどうか、ということです。
資産残高が増えている時にこそ、そうした視点を持つことも必要といえるでしょう。
※特にことわりのないデータについては運営管理機関連絡協議会の「確定拠出年金統計資料(2024年3月末)」の数値を使用
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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